雪組新人公演プログラムより
雪組期待のホープ、縣千が堂々の初主演!「凱旋門」新人公演
18年ぶりの再演となった雪組公演、ミュージカル・プレイ「凱旋門」(柴田侑宏作、謝珠栄振付、演出)新人公演(上田久美子担当)が、6月25日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの模様をお伝えしよう。
轟悠が雪組トップ時代の2000年に初演された「凱旋門」は、第二次世界大戦前夜の不穏な空気漂うパリを舞台に、ナチスドイツの脅威から逃れてきた医師ラヴィックとイタリア人の女優ジョアンの明日をも知れない極限状況下の恋を描いた作品。本公演は轟の円熟した演技で、ラヴィックとジョアンの刹那的な恋の切なさが、見る側にある程度届いたが、若い新人公演メンバーで改めて見直すと、ラヴィックにもジョアンにも感情移入のできない作品であることが浮き彫りにされた。恋の始まりの描写があっさりしすぎていて、観客にうまく伝わっていないのも要因。また、彼らを取り巻く亡命者たちにはひとりひとりそれぞれのドラマがあり、彼らを主人公にして別の物語が語れるほどなのだが、それぞれが点描のようにしか扱われず、彼らの哀しみが伝わらないもどかしさも感じられた。謝演出は、暗い世情のパリを人々の群舞で表現、それも功罪相半ばで、兵士が踊る場面は背筋がぞっとするような雰囲気を漂わせるが、まるで戦後のパリかと思わせるような明るい街頭のダンスシーンもあり違和感があった。そんななかで寺田瀧雄氏作曲の主題歌が、パリの戦前の雰囲気をよく伝えていることが再確認できた。
新人公演で初主演したのは101期生のホープ、縣千(あがた・せん)。ヘアスタイルをバックにしてスーツを着るとどことなく凰稀かなめに似た雰囲気があり、しかも舞台姿は堂々としていて一見、新人公演時代の珠城りょうを彷彿させる落ち着きがあった。轟には比べるべくもないが、全く別の役を見ているような新鮮さがあった。歌唱力に関しても、過大評価はできないが高低差のある難曲を無難に歌いこなし、まずは及第点と言っていいだろう。
一方、本公演で望海風斗が演じた親友のボリス役には、新人公演の長となった綾凰華が起用された。前回の新人公演で主役を演じた経験からか、舞台では一番安心して見ていられた。一度主演経験すると自ずから広い舞台を縦横無尽に動けるようになり、その典型のような感じだった。舞台姿が非常に華やかに見えた。
ジョアン(真彩希帆)を演じたのは雪組期待の娘役ホープ、潤花(じゅん・はな)。「New Wave雪」では月城かなとと永久輝せあのダンスのお相手を別々に務めるという破格の起用で、一気に注目され、本公演ではオットーという少年役を印象的に演じており、新人公演ヒロインは「ひかりふる路」以来二度目だが、この若さではちょっと難しすぎる大役だった。しかし、悪びれることなく無心に体当たり、予想以上の熱演だった。明日何が起こるか分からない異国で一人ぼっちになる、そんな寂寥感からくる焦りのようなものを出すまでにはまだ至っていないので、役への理解を深めて東京公演に臨んでほしい。歌唱と共にまだまだ伸びしろはある。メイクやヘアスタイルが似合ってなくてせっかくの美貌が台無しだったのは残念だった。
彩風咲奈が演じたアンリは眞ノ宮るい。キュートな笑顔が印象的で、ジョアンの心の隙間にスーッと入ってくる男性としては申し分のない佇まいをみせ、この起用も大成功だった。
亡命者メンバーもハイメ(朝美絢)に彩海せら、ローゼンフェルト(永久輝せあ)に陽向春輝と適材適所。彩海の素直な演技に甘いマスクが加わって注目度抜群。ラヴィックの友人の医師ヴェーベル(彩凪翔)の星加梨杏の誠実で堅実な演技にも好感が持てた。
一方、芝居の重要なカギを握るシュナイダー(奏乃はると)は諏訪さきが好演、また美穂圭子が演じた女将フランソワーズには男役のゆめ真音が起用され、姉御肌のいい雰囲気を出したほか、美穂のような深みはないもののなめらかな歌声も非常に心地よく、適材適所のキャスティングの中でも一番のヒットだった。
カーテンコールでは長の綾が縣を紹介。縣は憶えてきた挨拶のセリフを何度もかみ、ファンから思わず失笑がもれるなか、悪びれることなくきちんと言い直して大きな拍手をあびていた。縣の素直な性格がそのまま表れたような好感度いっぱいの挨拶だった。
©宝塚歌劇支局プラス6月27日記 薮下哲司
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