明日海りおらに黄色い声援、第2回台湾公演、華やかに開幕
台風13号の影響で8日の初日が中止、延期になるという前代未聞のハプニングに見舞われた第2回台湾公演、翌9日には無事、台北の國家戯劇院で開幕。宝塚グランドロマン「ベルサイユのばら」フェルゼンとアントワネット編(植田紳爾脚本、演出)とレヴューロマン「宝塚幻想曲」(稲葉大地作、演出)が上演された。現地で9日の公演を観劇したフリージャーナリスト(羽衣国際大学准教授)で宝塚ウォッチャーの永岡俊哉氏が、公演ルポを送ってくれたので紹介しよう。
皆様、こんにちは。羽衣国際大学准教授でフリージャーナリストの永岡俊哉と申します。薮下さんに代わって台湾タカラヅカリポートをお送りします。
[以下、永岡俊哉の台湾リポート]
台風の影響で初日が中止になった宝塚歌劇団第2回台湾公演だが、台風一過の台北で8月9日に開幕した。今回は明日海りお率いる花組のうち38名に専科の汝鳥伶と美穂圭子を加えた総勢40名の生徒で台北に乗り込み、「ベルサイユのばら」フェルゼンとマリー・アントワネット編とショー「宝塚幻想曲」の2本立てを16日の千秋楽まで合計14回公演する。2年前の星組公演が圧倒的な人気だったこともあり、また、演目が宝塚の代名詞ともいえる「ベルばら」だけあって、今回もほぼチケットは完売だという。私は9日の19時30分公演を観劇したのだが、ほぼ満席状態の台北國家戯劇院は開演前から観客の期待と熱気に包まれていた。(翌10日の19時30分公演も観劇した。)
冒頭、明日海の中国語での開演アナウンスが流れると、劇場は一気に「ベルばら」の雰囲気に包まれた。そして、中国語で「ベルサイユのばら」と書かれたカーテンを前に小公子と小公女たちが「ごらんなさい」を中国語で歌い出す。しかし、1時間半に短縮されているのでここからはジェットコースタースピードの進行になり、フェルゼンとアントワネット編なので仕方がないとはいうものの、オスカルが父親からジェローデルとの縁談をもちかけられる場面もアンドレがオスカルに毒ワインを盛る場面、さらには「今宵一夜」も無いためにオスカルとアンドレの複雑な関係性が見えてこない。ただの友達にしか見えないと言っても過言ではない。オスカルのフェルゼンへの思いもアンドレがフェルゼンに別れのシーンで告げるだけで、これも実感として湧いてこない。台湾で見ても、梅芸で感じた違和感がぬぐえなかった。しかし、バスティーユのシーンや牢獄のシーンでは最高潮に盛り上がり、大きな拍手の中で幕が下りた。
ただ、台湾の観客の反応で驚いたのが、アンドレが橋の上で撃たれて死ぬシーンでの笑い。台湾の人の感覚なので理由はわからないのだが、アンドレが一度撃たれて倒れてから歌い出す時に笑いが起き、さらに撃たれて倒れてから再度立ち上がりオスカルに末期の一言を言うシーンでは爆笑と言ってもいいほどの笑いが起き、あんなに感動的なシーンが笑いに包まれるというおかしな具合になってしまったのだ。演じている芹香斗亜はかなりやりにくかっただろう。(この点については、芹香が翌日から死に方に工夫を凝らしたようで、私が2回目に観た10日夜公演では笑いは減っていた。また、劇場にも観客にも慣れたということだろうが、10日公演は全般的に芝居が良くなっていて、舞台上の演者から気迫のようなものが感じられた。)
一方、ショーはタカラヅカらしいパワフルさに日本的要素や中国語の歌も取り入れた「宝塚幻想曲」で、音楽が始まり開演アナウンスが流れると、観客は「待ってました!」とばかりに大きな拍手と声援を送り、劇場は終始熱気と興奮に包まれた。ゴージャスな衣装と華麗な群舞に、ため息ともつかない歓声が上がり、舞台上の演者はさらにそれに乗せられるように歌い、踊る。明日海が笑顔を振りまくと黄色い声が飛び、芹香や瀬戸かずや、柚香光、鳳真由が舞台の前に出てウインクを飛ばすと握手の手が伸びる。また、明日海や斗亜(芹香)などと書かれた手作りの団扇で応援する観客も居て、劇場のボルテージは上がっていく。そしてそれに応えてさらに笑顔と握手をプレゼントする男役たち…。台湾の観客は熱いショーが好みということだろう。一方、娘役も専科の美穂が歌唱力で劇場を圧倒したのを始め、芽吹幸奈や白姫あかり、菜那くらら、仙名彩世らが見事なダンスや衣装さばき、それに輝くような笑顔に歌唱といった一級品の娘役芸で舞台を華麗で豪華なものにしていた。そして、フィナーレ前に明日海と美穂が「望春風」という台湾の国民的な歌を歌うシーンでは、拍手と声援が最も大きくなったのはもちろん、客席からも歌を口ずさむ声が聞こえるなど、おおいに盛り上がった。
ただ、ハードスケジュールのためか生徒にかなり疲れが出ているようで(食べ物が合わない生徒も居るようで)、9日は黒燕尾の群舞などで、動きに固さというか、ずれが目立ったのが残念だった。(ただ、これも10日には改善されていて、とても揃った気迫に満ちた花組らしい黒燕尾に戻っていて安心した。)
一方、ロビーの売店ではパンフレットやクリアファイル、Tシャツなどのグッズに行列ができ、売れ行きもなかなかのようで、また組を変えて、別の演目で公演することが台湾での宝塚ファンづくりにつながると感じた。(以上、永岡リポート)
2年前の星組公演同様、今回も台湾のファンは宝塚を楽しんだ様子がいきいきと伝わってくる永岡氏のルポでした。「ベルばら」の橋の上の場面の反応にはびっくりでした。韓国・ソウル公演のときには笑いは起こらなかったような気が。1974年の月組初演の時はこの場面、もっとあっさりしていたのですが、翌年の花組公演「アンドレとオスカル編」あたりからややしつこくなってきた感はあり。今回はオスカルとアンドレの見せ場がほとんどなくて、いきなりこの場面なので、ちょっと違和感があったかも。台湾の観客の正直な反応に感じ入りました。いずれにしても、連日40度近い酷暑の台北、千秋楽までメンバー全員の健康を祈りましょう。
©宝塚歌劇支局プラス8月10日記 薮下哲司
写真(撮影:永岡俊哉氏)は上から
台北國家戯劇院の外観
花組台湾公演看板
宝塚グッズショップの様子
劇場の客席(4階建てで豪華なつくり)
劇場の舞台(両端に中国語の字幕の電光板が見える)