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Channel: 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス
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18年ぶり再演!雪組公演、ミュージカル「凱旋門」開幕

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   ©宝塚歌劇団

 

 

18年ぶり再演!雪組公演、ミュージカル「凱旋門」開幕

 

専科の轟悠が雪組トップ時代に主演した作品に18年ぶりに再挑戦するミュージカル・プレイ「凱旋門」(柴田侑宏作、謝珠栄演出)とショー・パッショネイト「Gato Bonito‼」~ガート・ボニート ~美しい猫のような男~(藤井大介作、演出)が、6月8日、宝塚大劇場で初日の幕を開けた。今回はこの公演の初日の模様をお伝えしよう。

 

「凱旋門」は「西部戦線異状なし」でも知られるドイツの作家エリッヒ・マリア・レマルク原作による同名小説の舞台化。ドイツでナチスが台頭した1930年代後半、各国から亡命者が流入した騒然としたパリで、ドイツから亡命した外科医師ラヴィックとイタリア人女優ジョアンとの明日をも知れない極限状況下での切ない恋を描いたドラマチックなラブストーリー。日本ではイングリット・バーグマン主演の映画がヒットしたことで知られるが、宝塚では2000年7月に当時雪組のトップコンビだった轟悠、月影瞳の主演で初演され、轟が芸術祭で優秀女優賞を受賞して話題になった。轟はそれに値する好演だったが、芸術祭の選考委員は参加作品だけを見て判断、他の宝塚の作品は見ていないので年間を通じてその年のベストということではない。

 

それはさておき、以来18年ぶりの再演で、当時と同じ轟悠の主演というのが宝塚としてはこれまでにない画期的な舞台となった。スターの退団が前提の宝塚にあって18年ぶり再演となると主演者が一新するのが常、そんななかで同じ役に挑戦した轟は、男役としての渋みとかっこよさに磨きがかかったうえ、演技はよりソフトになり、復讐に燃える亡命外科医の悲哀をクールに体現、いまや“トップ・オブ・トップス”というよりは“ゴッド・オブ・トップス”の域。年齢差のある真彩希帆とのコンビにそれほど違和感がなかった。初演とは、細かいところでいろいろな変更があるが、ラヴィックとジョアンの部分は基本的に変わらず、ちょっとした行き違いから悲劇になだれ込んでいくクライマックスは轟と真彩の繊細な演技が巧くかみ合って切なく盛り上がった。テクニックでかわしたとはいうものの轟が声をつぶしていて歌唱がやや聞きづらかったのがちょっと心配だった。

 

ラヴィックの親友ボリス役の望海風斗は、舞台のナレーターのような役どころで、ボリス自身にドラマ性がないので、初演時より出番が多くなり、歌が増えても特に面白みのある役でないのが弱い。ただし、望海は轟を相手に一歩もひかない貫録と押し出しで、時にはラヴィックの兄貴分的な雰囲気まで漂わせる好演。ジョアンとの三角関係とかラヴィックに対してもう少しドラマチックな絡み方があれば役としてもう少しさまになっただろうと惜しまれる。

 

ラヴィックの相手役を演じた真彩は、化粧のしかた、衣装の着こなしといった基本的な部分で課題はあるものの、台詞の緩急などの演技的な部分は申し分がなく、ややもすればだらしない女性に見えるジョアンを、ぎりぎりの線で品格を保ち、観客にジョアンの寂しさを納得させたのは見事だった。歌唱力も申し分なし。

 

この3人のほかは群像的な描かれ方で特に大きな役というのはラヴィックが国外退去になっている3か月の間にジョアンの前に登場するアンリ役の彩風咲奈、「オテル・アンテルナショナル」に集う亡命者たちの中のスペインからの亡命者ハイメの朝美絢、画家の青年ローゼンフェルトの永久輝せあといったところ。彩凪翔、真那春人も適役だったが、彩風の水も滴る二枚目ぶりが際立った。女将の美穂圭子も持ち前のつややかな歌声で印象的。シャンソンの名曲が各シーンにちりばめられていて、美穂はじめいろんな役のメンバーが歌い継ぐのが効果的。コロスのダンスナンバーも謝氏らしいシャープなものが多く見ごたえがあった。娘役はゴールドベルク夫人の朝月希和くらいしか特筆するべき役はなかったが朝月が好演、朝月のジョアンも見たいと思わせた。

 

丁寧でしっかりした男女の心理劇ではあるが改めて再演するほどの作品かなあとやや疑問だったのだが、謝演出は二人のラブストーリーの背景を描くことに力を入れていて、戦時下の抑圧されたなかで自由の尊さを歌い上げる硬派の社会ドラマに仕上げたのは正解だった。ラストで収容所に連行されるラヴィックたちがその後どんな運命をたどるのか、わかっているだけに胸苦しい。音楽の寺田瀧雄氏の遺作で「雨の凱旋門」「たそがれのパリ」「金色の雨」そして「いのち」と名曲の数々をきいていると、いまさらながら寺田氏の音楽的才能を再認識させられた。寺田氏の音楽が再評価されればそれだけでも再演の意義はあったと思う。

 

「ガート・ボニート」は、猫をテーマにしたラテンショーで、出演者全員が猫という設定。犬派の藤井氏がなぜ猫がテーマのショーを作ったのか理解に苦しむが、望海はジャングルに現れた神秘的で野性的な猫なのだそう。梨花ますみ組長がカーテン前で「ガート・ボニート」を呼び出すソロを歌うと、銀橋からかっこいい猫が登場、一瞬、望海かとおもったら彩風咲奈。彩凪、朝美、永久輝らも合流してカーテンが上がると奥から望海が華やかに登場というプロローグ。猫らしく寝そべったりなんとも自由奔放。そんな感じで、いろんな猫がいろんな場所に神出鬼没、ロケットも黒猫と白猫に別れて、猫耳をつけた衣装でと徹底。朝美がセンターで踊る猫祭りの最初の場面では最後の決めポーズが「にゃお」!

 

中詰めの猫祭りでは望海を中心に彩風、彩凪、朝美、永久輝が女役でひとりひとりからむ場面があり、これが一番のビッグナンバー。体にフィットした色違いの同じ衣装で男役の黒塗りの化粧のままなので、なんだかニューハーフショーのようでもあるが情熱的でセクシーな場面となった。続く中塚皓平氏振付の「キャット・ヴィオレンタ」も新感覚の野性的な場面だった。久城あすのソロが聞かせた。若手の群舞メンバーでは縣千、綾凰希がはつらつと踊っていたのも目につき、フィナーレのエトワール、愛すみれの絶妙の歌声にも聞き惚れた。

 

終演後は望海が「脱皮した雪組を見てほしい」と挨拶。最後は猫にちなんで「にゃお」の大合唱で締めくくった。

 

©宝塚歌劇支局プラス6月9日記 薮下哲司 

 

 


 

愛希れいかのさよならを惜しむ!「宝塚イズム37」が発売になりました!

 

宝塚歌劇の愛ある評論誌「宝塚イズム37」(青弓社刊、1600円+税)が、6月1日に全国大型書店で発売されました。

 

 最新号の巻頭特集は「愛希れいかのさよならを惜しむ」。トップ在任歴6年7カ月と長期にわたって月組を支え続けた娘役トップ愛希れいか。7月には娘役としては月影瞳以来となるバウ公演『愛聖女(サントダムール)』に主演、11月18日にヒット作『エリザベート』のタイトルロールで退団する。特集では、その美しさはもちろんのこと、しなやかなダンスや圧倒的な演技力でファンを魅了し続けた愛希に別れと感謝の言葉を贈ります。

 小特集では、誕生から20周年という記念すべき年を迎え、真風涼帆という新トップスターが誕生した宙組を寿ぎ、また、今春、退団した名バイプレーヤー・沙央くらま&宇月颯への思いや「ありがとう」を綴ります。

 

OGロングインタビューには、雪組時代、絶大な人気を誇り昨年7月に退団、5~6月にミュージカル「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」で女優として復帰した早霧せいなが登場、今後の女優としての抱負をじっくり聞いています。聞き手は薮下哲司の担当です。

 そのほかマンガ原作で話題の『ポーの一族』『天は赤い河のほとり』を含むレギュラー執筆陣による大劇場公演評に、薮下哲司と鶴岡英里子による好評の外箱公演対談や鶴岡と永岡俊哉による新人公演評、そして早霧せいなや柚希礼音など数々のOG舞台写真所収の薮下と鶴岡によるOG公演評と盛りだくさんの一冊です!

 

半年に一度の発行になりましたが、その分、内容も充実させています。是非、お買い求めください。

 

よろしくお願いします。   薮下哲司  永岡俊哉


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