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Channel: 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス
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朝美絢、桜満開、バウ単独初主演、雪組公演「義経妖狐夢幻桜」開幕

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  ©宝塚歌劇団

 

朝美絢、桜満開、バウ単独初主演、雪組公演「義経妖狐夢幻桜」開幕

 

月組から雪組に組替えになり、一気に人気に火が付いた感じの朝美絢が単独初主演した「義経妖狐夢幻桜(よしつねようこむげんざくら)」(谷貴矢作、演出)が、花の道が例年より早く桜満開になった29日、宝塚バウホールで開幕した。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

「義経-」は、源義経と兄、源頼朝の確執をベースにした歌舞伎の名作「義経千本桜」に登場する狐をモチーフにしながら日本古来の民話の要素を巧みに織り込み独自に展開した和風ロックファンタジー。花組公演「アイラブ・アインシュタイン」でアンドロイドが世界を蹂躙する一風変わったSFファンタジーを構築した谷氏らしい異色作だ。

 

宝塚と義経というと義経=ジンギスカン伝説を舞台化した大作「この恋は雲の涯まで」が代表的だが、今回は谷氏が朝美主演の舞台を任されるにあたって真っ先に義経が浮かんだということから朝美=義経のイメージから先行した企画。朝美の現代的な個性に合わせ、義経はヨシツネとカタカナで、しかも場所は日本によく似た国の中世と言う設定、ロックミュージカルとしての登場となった。

 

緞帳が上がると、真っ暗なステージに朝美ヨシツネが板付で登場。ピンスポットが当たった朝美はセンターオーラで輝くばかり。ポスター通りのヘアスタイルと衣装、紺色の袖口が印象的だ。台詞から歌に入ると、舞台は一転して明るくなり、登場人物全員勢ぞろいのプロローグに。登場人物一人一人がユニークなメイクや衣装で、舞台はこのあたりからもう摩訶不思議な世界観が漂う。

 

ヨシツネ(朝美)は平家を打ち破った英雄だが、その存在に危機を感じた兄ヨリトモ(永久輝せあ)によって追われる身。あてどない逃避行のある日、ツネ(星南のぞみ)という少女と出会い、彼女に案内されるままに近くの村に導かれる。そこは深い雪と不思議な香りに包まれた現実離れしたところだった。案内してくれたツネの姿はなく、村人も狐につままれたのでないかという始末。そうこうするうちにヨリトモが村に近づいたとの知らせ、ヨシツネは村を出ようとするが雪に惑わされて村を出られない。一方、ヨリトモの前にもツネが現れ、村を指し示すが、こちらもいつまでたっても村にたどりつけない。不思議な香りの正体は…。この村は誰が何のために作り上げたのか、謎は深まるばかりだった。とまあ発端はこんな感じで展開していく。

 

ストーリーをなぞっていくと、なかなか面白いのだが、舞台装置がシンプルで物語の世界観に合わず、台詞が理詰めで、しかも口調が現代的なこともあって、現実味が勝ちすぎてファンタジーという雰囲気があまりなく、かといって義経と頼朝をヨシツネとヨリトモと架空の人物に置き換えたことから現代日本に重ねあわせた硬派な視点が読み取れるかとも思ったのだがそれも感じられず、なんとも不可思議な作品だった。従来のドラマツルギーでは測れない作品なのかも。世界の果てに旅立つヨシツネを、朝美のこれからの宝塚生活になぞらえ、夢を見ることができるところは◎だった。

 

朝美は、独特のハイトーンでシャウトする歌声がなんとも魅力的で、兄に追われる身でありながら、兄の立場を理解して、それを恨みに思わないヨシツネのさわやかな心情を、生き生きと演じた。ヘアスタイル、派手な衣装がよく似合い、朝美=ヨシツネの代名詞になりそうだ。

 

ヨリトモを演じた永久輝せあは、下級生ながら貫録たっぷりの兄貴ぶり。上背もありひげをたくわえて、長いマントを翻して登場すると、思わず「NOBUNAGA」の龍真咲をほうふつとさせた。ヨシツネに対して敵役として黒い役だが、その存在感は抜群。クライマックスの朝美との果し合いも迫力満点だった。

 

謎の狐、ツネは星南のぞみ。最後までヨシツネの味方なのかどうなのか、なぜヨシツネを村に案内したのか、謎の多い少女だが、ラストでそれがすべて氷解する仕掛け。そんなツネを、時にかわいく、時に真心こめて、振り幅広く演じて好演だった。

 

ほかにヨシツネの従者ベンケイに扮した真那春人のメリハリの利いたはっきりした台詞力が舞台を締めていたことを特筆したい。この人の存在は大きい。カギを握る人物、エイサイに扮した久城あすも忘れてはならない。眼鏡と特異なメイクが強烈なインパクトだった。ヨシツネの幼馴染ヤスヒラを演じた縣千もおいしい役をしっかり決めた。専科から英真なおきがホウオウ役で出演したが、少ない出番でしっかりと脇を締めたのはさすがだった。娘役ではマサコの野々花ひまりの芸達者ぶり、シズカに扮した希良々うみの控えめな演技が印象的だった。

 

©宝塚歌劇支局プラス3月30日記 薮下哲司

 


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