©OSK日本歌劇団
OSKが桐生麻耶主演でミュージカル「巴里のアメリカ人」上演
OSK日本歌劇団が、桐生麻耶主演で同名ミュージカル映画を舞台化した「巴里のアメリカ人」(上島雪夫演出、振付)が、17日、大阪・大丸心斎橋劇劇場で開幕した。
「巴里のアメリカ人」は、MGMの大物プロデューサー、アーサー・フリードが1951年に制作したミュージカル映画の大作。ダンスの名手、ジーン・ケリーが主演、ビンセント・ミネリ監督のこの作品はその年のアカデミー賞作品賞など6部門を受賞。「欲望という名の電車」や「陽のあたる場所」「アフリカの女王」など名だたる名作を退けての受賞だった。
2014年にパリ発の舞台ミュージカルとしてリニューアル、翌年にはブロードウェーで上演され、このバージョンは来年、劇団四季が上演することを発表している。今回の舞台は、それとは関係なく、映画をもとにOSKが独自に舞台化したオリジナルバージョン。OSKがミュージカル映画を翻案上演するのは長い歴史の中でも今回が初めてだが、これが素晴らしい出来栄えで、OSKのレベルの高さを改めて証明した形となった。
舞台はほぼオリジナルの映画通りの展開。第二次世界大戦でヨーロッパ戦線に参戦したアメリカ人青年ジェリー(桐生麻耶)は、終戦後そのままパリに残り、画家として生計をたてようとしていた。ジェリーは親友のピアニスト、アダム(華月奏)やボードビリアンのアンリ(真麻里都)らとパリでの生活を謳歌していたが、彼の絵を気にいった金持ちの未亡人ミロ(朝香櫻子)に誘われて行ったジャズクラブでリズ(城月れい)に一目ぼれしてしまう。リズは実は親友アンリのフィアンセだった。パリに住むアメリカ人青年とフランス娘のラブストーリーをジョージ・ガーシュインの名曲をちりばめて展開するクラシックなミュージカルだ。
「アイ・ガット・リズム」「ス・ワンダフル」「エンブレーサブル・ユー」などなど次から次へと耳馴染みの名曲が流れるだけでも楽しいが、それを歌う桐生や真麻らの歌声が耳に心地よく、城月のエレガントなダンスに見惚れてしまう。たった13人の出演者でこれだけの充実感のある舞台はなかなかない。上島雪夫氏のOSK作品は「ロミオとジュリエット」も力作だったが、肩の力を抜きながらも細部まできっちりと作り上げ、本来のミュージカルの楽しさを満喫させてくれた。
松竹座や新橋演舞場など松竹の公演は和洋のレビュー作品しか上演がなく、ミュージカル作品は小劇場での公演だけなので、芝居の実力を発揮する機会がなかったが、どこから見ても男性にしか見えない桐生の男役演技は、いまや洗練の極致にまで達し、宝塚の轟悠と双璧といっていいだろう。相手役の城月は卓越したダンサーで、OSKの愛希れいかといえば分かりやすい。その優雅な身のこなしは絶品だ。アンリ役の真麻のなめらかな歌声の心地よさも思わず聞き惚れるほど。そして、全員芝居も出来るのでどこにでもあるような三角関係のストーリーがなんとも切なく感じられた。クライマックスの10分間にわたる有名な大ダンスナンバーも少ない人数で華やかに展開、後味爽やかなミュージカルに仕上がった。来年の劇団四季版の公演前にミュージカルファンにはぜひ見ておいてほしい舞台だ。
©宝塚歌劇支局プラス3月18日記 薮下哲司