新人公演プログラムより
風間柚乃 さわやか初主演!月組公演「カンパニー」新人公演
月組公演、ミュージカル・プレイ「カンパニー」~努力、情熱、そして仲間たち~(石田昌也脚本、演出)新人公演(栗田優香担当)が、2月27日、宝塚大劇場で行われた。
今回、伊吹有喜氏の同名小説を舞台化した「カンパニー」は、現代の東京、製薬会社に勤めるサラリーマン青柳が、社長の娘がプリマを務めるバレエ団に出向を命じられ、会社が後援する公演を成功に導く為に奮闘するというストーリーで、サラリーマン社会やバレエ界の内情を描きながら淡いラブストーリーもまじえた宝塚には珍しい小市民劇。劇中劇として「白鳥の湖」バレエシーンがふんだんに登場するものの、ストーリー部分には現実的な会話がポンポン出てきて「夢を見に来ているのに現実に引き戻される」とか、説明がくどいとか、トップスターに背広姿はまだしも空手着や浴衣姿を着せるなんて言語道断とか、宝塚に夢を求める向きからはけちょんけちょん、半面、現実味のある内容からほんわかした夢と希望をくみとったファンからは予想以上の評判ともなっている。
ゼロか100か、見る側の評価が真っ二つに分かれた異色作となったが、初日の公演評にも書いたとおり、青年の夢と現実のギャップを分かりやすく、挫折から前向きにたちあがる様子がさわやかに描かれていてすこぶる後味がいい。それは、新人公演を見ても改めて同じだった。脇坂部長が左遷されるのが沖縄だったり、バレエダンサーとラーメン屋の主人のこだわりを一緒くたにしたり、無神経で大雑把なのが気になり、そのあたりが許せない人も確かにいるだろう。しかし、ベースは体育会系の真っ直ぐで心優しい青年の話である。
新人公演で青柳を演じたのは風間柚乃。100期生の期待のホープだ。昨年「グランドホテル」新人公演でオットー(本役・美弥るりか)に大抜てきされ、その丁寧で見事な演技で驚かされた逸材だ。「All for One」では本公演で物語の鍵を握るキーパーソン役、新人公演では月城かなとが演じた悪役を楽しげに演じた。そして、今回、満を持しての初主演となった。本役の珠城りょうに比べて小柄で、やや迫力に欠けるが、どこにでもいる現代青年を自然体で表現、一見、易しそうにみえて難しいこの役を完全に自分のものにしていた。ちょっとした仕草にすでに男役としてのスターオーラがあり、その細やかな演技は天性の資質というほかない。歌唱もオープニングの銀橋のソロの出だしはやや緊張気味だったが、徐々に余裕が出た。空手の達人という設定なので、普段の動作にもう少し大きさと鋭さがあってもいいと思ったが、それはまた次回の課題にしてほしい。
相手役のバレエダンサー、美波(愛希れいか)は美園さくら。二度目の新人公演ヒロインだが、どちらかというと古典的な役柄が似合う美園にとって、今回のような庶民的な雰囲気の役はかなりハードルが高いのではないかと思ったが、細やかな演技で好演だった。お祭りの場面での「東京五輪音頭」は美園の声質に合わない歌を無理に歌っている感じで、これは本人のせいではなくちょっとかわいそうだった。
世界的プリンシパル、高野(美弥るりか)は輝生かなで。バウ公演「Arkadia」での好演が記憶に新しいが、今回も地に足の着いた演技で、実力をいかんなく発揮。ダンス巧者でもありバレエシーンも安心してみていられた。
月城かなとが演じた水上役は、今回初めて大役に起用された彩音星凪(あやと・せな)。バーバリアンメンバーのボーカルで、茶髪がよく似合い、ダンスの切れ味も良く、演技もさわやかで要注目。101期生期待のホープだ。
男役から娘役に転向、第一回公演となった天紫珠李は早乙女わかばが演じた社長の娘、紗良役に起用され、その整った顔立ちと、男役出身らしい前に出る芝居で、存在感をアピール。バレエシーンでもオデットを優雅に踊るなど、この時期での男役から娘役への転向は賢明な選択だったようだ。今後の活躍をさらに期待したい。
ほかに瑞穂役(京三紗)の妃純凛、乃亜(憧花ゆりの)の麗泉里らも達者な演技で笑わせ、月組演技陣の層の厚さを見せつけた。
男役ではほかに蒼太(暁千星)の礼華はるが、ダンスシーンも含めて弾んだ演技で目を引いたが、青柳の同僚、山田役(輝月ゆうま)の一星慧(いっせい・けい)の一つ頭抜けた長身と美形ぶりがひときわ目立っていた。
暁千星は、青柳を左遷する上司の脇坂部長役(光月るう)で出演。長としての挨拶もしたが、「Arkadia」で少年役を好演、本公演でも蒼太役をはつらつと演じているが、いつの間にか、大人の役も似合うようになり、感慨深いものがあった。
普通の話を普通に見せないといけない難しい芝居だが、風間をはじめ月組は演技巧者ぞろいで見事にクリア、その層の厚さをまざまざとみせてくれた新人公演だった。風間は、終演後のあいさつも「役を生きることの難しさを改めて実感しました」などと非常にしっかりとしたもので、今後の活躍に目が離せなくなりそうだ。
©宝塚歌劇支局プラス3月1日記 薮下哲司