「おとなスタイル」最終号に宝塚歌劇入門編が特集!若き日の小林一三を描いた「マルーンの長いみち」上演
“新50代からの私の「ヒトハナ」咲かせます”をキャッチフレーズに50代の女性をメーンターゲットにさまざまな生活情報を発信してきた雑誌「おとなスタイル」(講談社刊)最終刊となった2018年春号(2月24日発売)の好評連載シリーズ「おとなデビュー!」で宝塚歌劇を取りあげ「おとなが味わう「宝塚」入門」として6ページにわたって特集した。
編集長の原田美和子さんが熱心な宝塚ファンで、休刊にあたり自分が大好きな宝塚の魅力を、まだみたことのない50代の女性に説きたいというのがメーンテーマ。50代の女性というところに歯ごたえがあるうえ、原田さんの注文は、初心者が読んでもコアな宝塚ファンが読んでも納得のいくものをというハードルの高いもの。
50代まで宝塚を知らずに過ごしてきた女性は、知らず知らずの間に宝塚拒否症になっていて、宝塚という文字を見るだけでページを飛ばすのが常。逆に、宝塚ファンの女性は、宝塚という文字をみるだけで、何が書いてあるか吸い寄せられるように熟読する。それが少しでも間違っていたり、ピントが外れていたりするともう大変。その一番難しい両者双方ともに満足できる宝塚特集。これはなかなかの難題だ。
原田編集長は、わが「宝塚歌劇支局プラス」の熱心な読者で、そんな特集原稿を私にと白羽の矢。編集長には編集長なりの宝塚に対する美意識とこだわりがあり、そこを忖度しながら完成したのが今回の特集。
「宝塚の魅力」「スター」「美学」「作品」「演出家」「こだわり」の5つのパートに分けてたっぷり6ページ、初心者もファンも納得できたかどうかは読者の判断におまかせするとして、100周年後のこれからの宝塚を考えるうえでまずまず読み応えのある特集になったと思う。編集長のこだわりがぎっしりつまった「おとなスタイル」最終号には、ほかにも元タカラジェンヌでボイストレーナーの楊淑美さんの「お気に入り白シャツ」や女優、草笛光子さんのロングインタビュー「大人の条件」などが所収され税込み820円。全国書店で好評発売中。
さて、その宝塚歌劇の創始者である小林一三氏の没後60年を記念、若き日の小林氏の夢と挑戦を描いた兵庫県立ピッコロ劇団題60回公演「マルーンの長いみち」~小林一三物語~(古川貴義作、マキノノゾミ演出)が、23日から25日まで兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールで上演された。
小林一三役に瀬川亮、妻コウ役に平井久美子のほかに元宝塚雪組トップの平みちが与謝野晶子役で特別出演。小林氏が、新しい証券会社に転職するため東京の三井銀行を退職して家族と共に大阪にやってきた20代後半から、さまざまな苦労の末、阪急電鉄の立ち上げに成功するまでの10数年を、愛妻コウとの夫婦愛を絡めて描いている。小林氏の立志伝はこれまでにも数々のドラマやドキュメンタリーで取りあげられてきたが、阪急電鉄の立ち上げだけに絞り、これに夫婦愛をからめたことで、小林氏の破天荒でありながら愛すべき人間像が、くっきりとうかびあがり、魅力ある人間ドラマとして成立した。なかでも夫婦に大きな影響を与える北浜銀行頭取、岩下清周と小林家のお手伝いのかよ、そして進行役の酒屋、小西新右衛門といった周囲の登場人物が生き生きとしていて舞台が弾んだ。
一方、小林氏が、長年つきあっている芸者の恋人コウがいながら別の女性と見合い結婚、結局、その結婚を破棄してコウと再婚するという、これまであまりふれられなかった家族や女性関係にも言及、宝塚歌劇を生み出した小林氏の女性観を巧みにあぶりだした。家族第一で女性に敬意を払うものの、日本古来の男性優位は譲らないという明治の男性の価値観に固まった小林氏が描いた宝塚少女歌劇像とは何だったのか。阪急や歌劇団が協力していない公演だからこそできる問いかけが興味深かった。
破天荒ながら憎めない個性の小林を瀬川がいかにもそれらしく演じて適役だったほか、そんな小林をサポートする岩下役の若杉宏二、小林家のお手伝いでこの舞台のキーマン的存在のかよ役の今井佐知子の好演が光った。妻コウ役の平井も堅実。与謝野晶子役で特別出演した平は、黒燕尾で「モン・パリ」を歌う場面から登場、晶子役では華やかな明治の女性の雰囲気を自然にかもしだした。
©宝塚歌劇支局プラス2月25日記 薮下哲司