こんにちは。羽衣国際大学准教授の永岡俊哉です。薮下さんが編集者を務める宝塚イズムの執筆者の一人で、このブログ宝塚歌劇支局プラスの管理人をしております。今回は2月16日から3日間計6回宝塚バウホールで上演された宝塚音楽学校第104期生文化祭の模様をお伝えしましょう。
2018年2月16日~18日まで宝塚バウホールで6公演行われた104期の文化祭
各公演とも幕間を入れて3幕2時間20分の公演だった。
文化祭が終わり卒業すると、いよいよ舞台人としての生活がスタートする。
宝塚音楽学校 第104期生 文化祭が開催
音楽学校卒業直前のこの時期に予科本科2年間の集大成として成果を披露するのと同時に、初めて舞台で観客に芸を見てもらう貴重な機会である文化祭。入団前なので、全員が本名で舞台に上がる。去年からCS放送が復活したのに続き、今年からは公演回数が2日間4回公演から1日2公演増えて3日間6回公演にという大きな変更があった。これまで文化祭は友の会に入っていてもプラチナチケットだったが、今年は比較的入手しやすかったようである。私は演劇をA、B両方観るために、2月16日12時の初回と18日16時の千秋楽を観劇した。私事で言うなら、今年で9年目(96期から見始めて9回目)の文化祭である。
文化祭自体の構成はこれまで通り。
第一部は「日本舞踊 清く正しく美しく、予科生(105期生)コーラス、クラシック・ヴォーカル、ポピュラー・ヴォーカル」(構成・演出:三木章雄、音楽:𠮷田優子)
第二部が演劇(脚本・演出:谷正純)演劇「MILKY WAY」
第三部がダンスコンサート(構成:羽山紀代美・三木章雄、演出:三木章雄)と続く。
104期生40人は4月27日からの星組公演で初舞台を踏むことになっており、芸名はまだ発表されておらず、以下、文化祭プログラム掲載の本名のみで記す。
第一部、まず日舞は恒例の「清く正しく美しく」から。小林一三の偉業を讃えた白井徹造作詞、𠮷崎憲治作曲の名曲で、この曲に乗せて紋付袴姿に扇を手にした生徒が舞台狭しと動きながら日舞を踊る。振り付けは今年も新しいものとなっていた。歌手のソロは娘役の森羽龍さん。好きな言葉が「夢見る心」で、高音が良く伸びる素晴らしい歌声で日舞をリードした。これで低音が出れば非の打ち所が無いという歌唱だった。他に歌手として三徳美沙子、橋本志歩、林真由(東京)、東田かれん、村上すず子、𠮷村里紗の7名の生徒が舞台の上下に分かれてコーラスをした。日舞のセンターは好きな言葉が「初心忘れず」という娘役の小島風樹さん。笑顔も柔らかく表情も可憐で、なおかつ確実な扇さばきで32名の舞踊チームを率いた。ちなみに、小島さんは予科に双子の姉妹が在籍しているとのことで、来年また双子ジェンヌが誕生することになる。(なお、林真由さんは同姓同名がいるため、プログラムに東京、奈良と出身地表記されていて、それに倣った。)
続く105期生40人による予科生コーラスは、公演回によって異なったが「世界で一番おいしいパンケーキ」もしくは小田和正の「キラキラ」と、スウェーデン民謡の「憧れ」の2曲で、予科性が1年間の成果を披露した。「キラキラ」は16年前発売の曲で彼女らの耳にもなじんでいるのか小田メロディーの音域が歌いやすいのか、美しい歌声が広がっていた。「憧れ」も彼女たちに合っているようで、緩やかなテンポのピアノ伴奏に心地よく歌声が乗っていて、ハーモニーが素晴らしかった。「世界の-」は信長貴富編曲の、合唱ではおなじみの曲なのだが、高音の伸びがもう少し欲しかったのと歌詞の扱いがもう少し丁寧だったらもっと良い仕上がりになったと感じた。ただ、フォローで言うわけではないが、104期生はもちろん、105期生も全体的に歌唱力のレベルが高く、歌劇団の歌唱力重視の教育の成果が如実に表れていると感じた。
クラシック・ヴォーカルのトップは好きな言葉が「感謝」という首席の越智愛梨さん。オペラ「道化師」より“衣装を付けろ”を104期ナンバーワンの声量と音程で高らかに歌い上げた。男役として数年経てば低音がもっと出るようになり、歌えるスターとして完璧になると感じた。霧矢大夢や北翔海莉のような歌える大スターを目指して欲しい。余談だが、彼女は元雪組トップスターの水夏希を彷彿とさせるルックスで体形もすでに男役そのもの。気は早いが、新人公演主役を早く観たいものだ。
クラシック・ヴォーカルの娘役は村上すず子さん。好きな言葉が「天真爛漫」と言うだけあって、やや幼い感じも残る笑顔が似合う華奢な少女という雰囲気なのだが、歌うと空気が一変し、オペラ歌手のように天にも届くような高音で客席を圧倒した。歌声と小柄な体型、キュートな表情の落差が魅力の、いい娘役になるのではないかと期待を持った。
ポピュラー・ヴォーカルは、宝塚の名曲メドレー。
まずは「アイ・ラブ・レビュー」を戸谷雨音さん、山口真由さん、石田日向子さんの男役3人と全員のコーラスで歌った。3人は音程もしっかりしていて、さらに男役として中低音もなかなかの伸びで、好感が持てた。
娘役2人で歌う「PARFUM DE PARIS」は出野上渚さんと「清く正しく―」も歌った森さん。息の合ったコンビネーションで、娘役らしく可憐にあでやかに歌い上げた。
男役3人の「夢を見れば…」というより「エンター・ザ・レビュー」と言った方がタカラヅカファンには通じやすいだろうこの曲は、宇都宮梓音さん、小嶋留奈さん、山田絵莉香さんが歌った。なかなか良い出来だったが、サビの部分をもう少し丁寧に歌えば、もっといい仕上がりになったと思う。
「夢の果てに」は増田みれさんと吉村里紗さんが歌い、素晴らしい低音の響きを聞かせてくれた。
「心の翼」は石山弘華さんが男役としていつでも使えそうな中低音を響かせた。コーラスとの相性もとても良かった。
ベルばらの「ごらんなさい ごらんなさい」は娘役7人が歌ったが、この7人は失礼ながら可憐さの方が際立つ、小公女にぴったりの娘役だった。しかし、この学年は歌のレベルが高いのが特徴で、彼女らのハーモニーは心地よく、そのまま、オスカルやマリーアントワネットが出てきそうなコーラスだった。
「ミラキャット」は東田かれんさんと香川リリーさんの男役2人と、三徳美沙子さん、園田雪乃さん、林真由さん(東京)、平竹沙弥音さんの娘役4人。男役2人が6人をリードし、耳なじみも良いコンビネーションだった。
「ザ・ビューティーズ」は金谷安紗さん、亀岡優美子さん、北野真以華さん、吉田莉々加さん、久我遥香さん、平城優子さん、守絵衣実さん、山岸莉央さんの男役8人と娘役全員のコーラスだった。先述したが、今年のすごさはこの香盤で出てくる生徒でも、と言うと失礼なのだが、本当に歌が上手いのだ。
「シトラスの風」は橋本志歩さん、影山都花さん、山内万里奈さん、猪山空さんの娘役4人と男役全員のコーラス。声の厚みというか声量は物足りない気もしたが、音程は抜群で、彼女たちとは無関係だが、次の宙組公演の「シトラスの風」が楽しみになったほどだ。
そして、芝居仕立ての「うたかたの恋」は圧巻だった。その瞬間、25日まで中日劇場で公演中の「うたかたの恋」に場面が変わったかと思うほど素晴らしいコンビネーションを見せてくれた阿南萌実さんと石井みちるさん。歌の前の「マリー、来週の月曜日、旅に出よう!」とい言うルドルフと、マリーの「はい!あなたとご一緒なら、どこへでも!」の決め台詞から、バウホールが「うたかたの恋」舞台になった。歌も振りも素晴らしく、何よりも二人の息がぴったりで、芝居心も素晴らしく、感激した。
トリは再び歌の成績の上位者の登場だ。
娘役のトリの村上さんは「白い花がほほえむ」を素晴らしい響きで歌い上げた。これは「ラムール・ア・パリ」の主題歌で、寺田瀧雄作曲、演出家の内海重典作詞の宝塚ファンにはおなじみの曲だ。曲だけ聞いているととてもきれいなのだが、そこには悲しい物語があり、女性としての美しさはもちろん、生への感謝や恋人への切ない思いなど複雑な心情を歌うことが必須の、歌手たる娘役スターにピッタリの、そして最も難しい歌だと私は思っている。彼女としてはまだまだ納得いかないところもあると思うのだが、音校卒業前にあそこまで歌えれば文句のつけようが無いと、感心した。表情も美しく、切なく、はかなく…と、合格点を上げられると思った。
大トリは何をさせても素晴らしいと評判の越智さんが「もののふの詩」を朗々と歌い上げた。歌がどうのこうのと言う次元を超えて、迫力すら感じさせる圧倒的な歌唱で、クラシックとは違った、タカラヅカの男役としてこれから進んでいく彼女の原点となる歌だったのではないだろうか!特に、初日は「メナムに赤い花が散る」を作った植田紳爾氏も客席に居たのだが、植田氏はどんな思いであの曲を聞いたのだろうか?そして、彼女からすると植田大先生の目の前で歌った「もののふの詩」はどんな出来だったのだろうか?とにかく、楽しみな男役さんの誕生を心から祝福し、歓迎したい。
最後は「TAKARAZUKA FOREVER」を全員で歌い、第1部を終えた。
第2部の演劇は谷氏が山本周五郎の短編「泥棒と若殿」を南ドイツに舞台を移して書いた皇太子と泥棒の話。異母弟の皇子のせいで崩れ落ちそうな屋敷に幽閉され、食べるものも無く死にそうになっている、後の皇太子でザクセン公国の皇子カイと、そこに押し入る間抜けな泥棒ザックの物語がメイン。そこに異母弟ゼルギウス、異母妹ドロテアらが仕組んだカイの妹シャルロッテを追い出すためでもある政略結婚と、実は素晴らしいイギリス貴族だった結婚相手のデミトリアスと従者のハル、2人に拾われた旅芸人一座から辛くて脱走したレナーテが物語を進めていく。「泥棒と若殿」では泥棒の伝九が主役で、この舞台でもよく見ると主役は泥棒のザックなのだが、そこは文化祭で、しかもタカラヅカ。本線が何本かある話になっていたのだ。誰が主役と言うよりも、その線では誰が主役でだれが受け役だと言う感じだ。
この話では、皇太子と泥棒の線では黙っていてもカッコイイ皇太子と、芝居巧者で口八丁手八丁の役となる泥棒のライン。スター路線の役となる素敵なイギリス貴族と、お笑い担当の従者のライン。そこに絡むのだが、路線娘役がするであろう妹役と、路線候補の若い娘役がやるであろう脱走した旅芸人娘なども。さらに、悪役だが後に改心する異母兄弟もタカラヅカには必要で、そこの担当者は路線であることはもちろん、タカラヅカでは将来が見込まれるかなり重要なポジションとなる。さらには登場するだけで女性をメロメロにしてしまう将来はトップスターになると思われる新公主演クラスの若手がするだろう近衛隊士、さらには芝居ではガヤとなるが群衆となる若手、ダンス巧者、歌手なども配されていた。タカラヅカ的にはとてもわかりやすい配役と言えよう。いつもそうなのだが、文化祭の演劇が谷氏の作品の時はタカラヅカではこうなるという筋で、生徒が劇団でこうなるのだろうとある程度予想できる配役になる脚本が作られるのである。
A組もB組も甲乙つけがたい出来だったが、皇太子カイはA組が重厚感のある守絵衣実さん、B組はカッコよさとはかなさが同居する吉村里紗さんが演じた。泥棒ザックはA組の石田日向子さんがセリフが前に出る芝居重視の役作りで、B組の山田絵莉香さんはテンポの良い笑いを取るのが上手い役作りだった。その違いは最後の別れのシーンで出た。私の個人的な感じ方なのかもしれないが、A組ではザックの側から見てしまい、B組では皇太子側から見てしまうのだ。演者によって変わるのが楽しめた両組の芝居だった。
第3部のダンス・コンサートは、フィナーレに向かってテンションが上がっていくパートだ。まずはタップダンスから始まり、バレエ、ジャズダンス、モダンバレエ、フィナーレのジャズダンスで幕となる。全体的に身体能力が高く、コンビネーションも良い104期なのだが、あえて言えば、バレエの能力が頭一つ抜けていた粟井美羽さんの今後が楽しみである。
その他、全体を通して目についたのは、男役の身体が出来上がっていたことである。かつてはまだまだ男役の身体の太さが目立つ文化祭だが、身長が高くなっているせいなのか、スラっとしたすぐに使えそうな生徒が目立った。歌のレベルが上がり、身体能力も高く、全体的にできる生徒が多い104期。もちろん、何でも素晴らしい出来である首席の越智さんや、歌の村上さん、バレエの粟井さん、日舞の小島さん、さらには星組トップ娘役、綺咲愛里の妹の三徳さんなどがこの104期を引っ張っていくことになるのだろうが、卒業して組配属されればその差はわずか。少しも早く各組の戦力になり、劇団やファンの期待に応えられる生徒になってもらいたいものである。
4月27日から6月4日の星組での初舞台ロケットが今から楽しみである。
なお、今年もCS放送「タカラヅカスカイステージ」での放送が4月に予定されているので、加入されているファンの方は未来のスターの姿を是非、その目で確認していただきたい。ただ、その場合も名前の確認ができないので、文化祭のプログラムを購入し、その上でご覧になることをお勧めする。
©宝塚歌劇支局プラス2月19日記 永岡俊哉