©宝塚歌劇団
暁千星、歌にダンスに魅力全開、月組バウ公演「Arcadia―アルカディア―」開幕
月組の男役ホープ、暁千星が主演した「Arcadia―アルカディア―」(樫畑亜依子作、演出)が、1日、宝塚バウホールで開幕した。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。
「Arcadia―」は、1970年ごろのフランスのリヨン近郊を舞台に、ダンサーだった父親が舞台で事故死したことから家庭が崩壊、家を出て他人の家を泊まり歩いていた少年が、ある雨の夜、空腹のため行き倒れたところ、たまたま通りがかったクラブの花形ダンサーに救われ、彼女との出会いを通じて再び踊ることに生きがいを見出していくという少年の成長物語。青年ではなく少年というところがいかにも暁らしいが、とにもかくにも暁のダンサーとしての資質を存分に見てもらおうという狙いのストーリー。暁もそれによくこたえ、はつらつとしたダンスをふんだんに見せる。ストーリーはかなり無理があるが暁ファンにとってはたまらないダンシングミュージカルだ。
風間柚乃扮する探偵カミーユが依頼主から頼まれた行方不明のある高級娼婦の消息を探っていくことからストーリーが展開していく。プロローグはそのあたりの経緯をパペットダンスで見せていく。風間は、眼鏡をかけて地味なスーツでの登場なのだが、存在だけですでにスターオーラが立ち上る。しかもセリフ回しが絶妙ですんなりと物語の世界に誘っていく。このあたりのうまさは研4生とは思えない。
暁は、プロローグからシャープなダンスを披露、役的には15歳前後の少年という設定だが、逆にそれぐらいの設定だとそれより上に見え、ダンスにも男役としての色気がにじみ出て、スターダンサーとしての着実な成長が頼もしかった。歌唱も著しい向上ぶりで、なめらかな歌声が耳に心地よかった。名前は後半まで明かされず、ミミット(子猫ちゃん)と呼ばれるという設定だが、いかにもそんな雰囲気のキュートな感じをうまく出していた。後半、クラブのダンサーになってからはふんだんにダンスシーンがあり、そのカッコよさはほれぼれする。その切れ味鋭い動きは思わず若い頃の柚希礼音をほうふつとさせた。
相手役の花形ダンサー、ダリアは美園さくら。ダリアは行き倒れていた少年を自宅のアパートに連れ帰って泊めてやり、ミミットというニックネームをつけて、面倒を見ることにするのだが、ダンサー仲間はそれを誤解して、という展開。ダリアはミミットより年上という設定で、美園はクラブの花形ダンサーという表の華やかな表情と年下の少年を見捨てておけないという裏の優しさの両方を観客に納得させないといけない難役。下手に演じるとだらしない女性にみえてしまうところを美園はぎりぎりの線で好演した。彼女もスターダンサー役として幕開きから華やかなダンスシーンがある。
ダリアの幼馴染で彼女をひそかに思うダンサー、フェリクス役の輝生かなでが、ダリアとミミットの関係にやきもき、ついにはミミットと大喧嘩するという、二番手的な役どころで好演している。暁同様、シャープな動きが際だつダンサーとして早くから注目されていたが、その資質を存分に発揮、精悍な顔立ちとともに男役としての魅力を存分に見せつけた。暁との喧嘩シーンやダリア送別のためのショー、そしてフィナーレとダンスシーンで大活躍する。
「グランドホテル」新人公演のオットー、「All for One」のルイ十四世役で一躍注目された風間は、進行役の探偵カミーユとして随所に登場、舞台を軽快に転がしていった。天性の芝居心があるようだ。歌がなかったのが残念だったがフィナーレでは切れのいいダンスも披露した。
カミーユの助手になるジョスに扮した礼華はるは、おっちょこちょいなところをいつもカミーユに諭されるという感じの軽い役。台詞がいまいち弾まないのが課題だが、その身長の高さでひときわ目立っていた。
光月るう、夏月都、白雪さち花、貴澄隼人、晴音アキといった大人組もそれぞれその立場をきっちり表現、芝居の月組の伝統はさすがだった。なかでも光月のヴァローに安定感があった。スカイステージのナビゲーターをしていた下級生の頃とは打って変わった貫録で感慨深い。
ただ、親子の確執や出生の秘密などのストーリーはあってもなくてもいいようなもので、暁のダンサーとしての資質を存分に引き出すという本来の目的を十分に果たしただけで大成功のダンスミュージカルだった。
©12月3日宝塚歌劇支局プラス 薮下哲司
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©宝塚歌劇団
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