Quantcast
Channel: 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス
Viewing all articles
Browse latest Browse all 575

綾凰華と潤花が若さあふれる演技で好感の持てる出来栄え 雪組新人公演「ひかりふる路」

$
0
0

 新人公演プログラムより

 

雪組の望海風斗、真彩希帆、新トップコンビ披露公演、ミュージカル「ひかりふる路~革命家、マクシミリアン・ロベスピエール~」(生田大和作、演出)の新人公演(指田珠子担当)が、11月28日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

人気作曲家フランク・ワイルドホーンが、望海、真彩コンビのために全曲を書き下ろした難曲ぞろいの本格的ミュージカルに、星組から雪組に組替えになって最初の公演となった期待のホープ、綾凰華が挑戦、しかも新人公演の主演も初めて。極美慎が初主演した前回の星組公演同様、開演前のロビーは大変な混雑ぶり。綾と相手役に抜てきされた潤花がこの難曲ぞろいの作品にどう取り組むか、満員の観客も固唾をのんで見守った。

結果は、出だしこそ緊張感あふれ、ハラハラさせられたものの歌に芝居に全体的には非常に好感の持てる出来ばえで、本公演が主演二人の高度なレベルの歌声に聞き惚れるあまり、隠れてしまった作品本来のテーマが、若さあふれる凛々しさと真心のこもった丁寧な演技で皮肉にもくっきりと浮き上がった。まだまだ未熟だが綾、潤コンビの無欲の頑張りを称賛したい。

 

綾は、舞台映えする整った容貌と爽やかな個性で早くから大きな役に起用され、「THE LOST  GLORY」新人公演では早くも礼真琴のパット役を演じ、柚希礼音の武道館コンサートにも参加するなど星組のホープだった。北翔海莉時代になって「ガイズ&ドールズ」新人公演で麻央侑希が演じたラスティー役を軽快に演じたのが綾の存在を初めて大きく印象付け、最近では「阿弖流為」の母礼役の好演が記憶に新しい。新人公演も重要な役を占めるようになり、「桜華に舞え」の衣波(本役・紅ゆずる)の誠実な演技が目に浮かぶ。「スカーレット・ピンパーネル」新人公演では今回演じているロベスピエール(本役・七海ひろき)をすでに演じているのも何かの因縁か。雪組組替え後、最初の公演で新人公演主役を射止めたのも頷ける。

 

その綾のロベスピエール(本役・望海)は、ルイ16世の処刑裁判の法廷、せり上がっていきなりソロを歌いだすというオープニングはさすがに緊張が伝わり、見ている方も思わず力が入ったが、譜面通り素直に歌い込み、聞いている方も次第に肩の力が抜けていき、そのあとの展開に希望すら感じさせるソロだった。客席の万雷の拍手がそれを物語っていた。綾の強みはなんといってもその甘いマスクと清潔感。これが今回のロベスピエール役にも生かされ、理想を追求するあまり、周囲が見えなくなって突っ走ってしまう、そんな若さゆえの暴走感が、巧まずして自然ににじみでた。生田氏がロベスピエールに託したテーマが綾によってさらに美しく体現されたといっていいだろう。歌より芝居に重点を置いた演出が正解だった。それにしても綾の凛々しい男役ぶりは思わず見惚れた。

 

革命軍によって家族を惨殺され、ロベスピエールを殺害することで復讐を果たそうとする貴族の娘マリー=アンヌ(真彩)に扮した潤花(じゅん・はな)は、16年初舞台の研2生。今春の「New Wave」で月城かなと、永久輝せあの二人と短いデュエットダンスを踊って一気に注目された新進娘役だ。その時に見せた初々しい感じとは打って変わって大人びた雰囲気で登場。彼女も目鼻立ちがくっきりとした舞台映えがする容姿が宝塚の娘役としては大きな武器で、歌唱力はまだ不安定なところはあるが、芝居ごころがあり、伸びしろはまだまだありそうだ。主演カップルだけの場面と歌がことのほか多いこの作品にあって、ラスト近くの牢獄の場面で、綾ロベスピエールに愛を告白、罪を許す場面の演技は真に迫るものがあった。今後の活躍に大いに期待したい。

 

トップ披露公演とあって主演コンビ以外は特に大きな役がないのが特徴のこの作品にあって主役に次ぐダントン(彩風咲奈)役は叶ゆうりが演じた。暴走するロベスピエールを諫めようとするのだが、逆効果となってロベスピエールに処刑されてしまう。叶は、大きな懐を持つ男として豪快に演じ、強い印象を残した。沙央くらまが演じたデムーランは永久輝せあ。すでに何度も新人公演で主演を演じており、今回は脇に回ったが、主演経験があるというだけで、その存在感は大きかった。舞台の大きさを知るのと知らないのではこうも違うかと思わせる。

 

朝美絢が演じているロベスピエールの側近サンジュストは諏訪さきが演じ好演した。本公演では望海の存在感が大きすぎて、朝美サンジュストは陰に隠れている感があるのだが、新人公演を見ると結構大きな役であることがよくわかる。それを諏訪が終始ぶれずに的確に演じ強い印象を残した。

 

あと元司教タレーラン(夏美よう)に扮した陽向春輝が、本役の夏美とは違った形でアプローチ、後ろで糸を引く黒幕を美しく演じ、クリアな台詞と共に舞台をきっちり締めたのは特筆もの。逆に彩凪翔が演じたマノン・ロラン夫人の星南のぞみはやや貫録不足、位負けしていた。

 

ほかにル・パ(永久輝)の縣千やクートン(久城あす)の眞ノ宮るいもはつらつと演じていたがいかんせん役が小さく、次回に期待したい。トップ娘役の真彩希帆も物売りから衛兵までアンサンブルで何役も出演。花を添えていた。

 

©宝塚歌劇支局プラス11月29日記 薮下哲司

 

 

 

「宝塚イズム36」発売のお知らせ

 

◎…宝塚歌劇の愛ある批評誌「宝塚イズム36」(薮下哲司、鶴岡英理子編、青弓社刊、定価1600円税抜き)が12月1日に全国の大型書店で発売されます。

 

最新号の巻頭特集は11月19日東京宝塚劇場千秋楽で退団した宙組トップスター、朝夏まなとを惜別する「さよなら朝夏まなと」。名前の通り夏の朝のようなさわやかな個性の朝夏にふさわしい潔い退団に温かい言葉が送られました。

 

小特集のトップは「祝!望海風斗・真風涼帆」と雪、宙新トップへの期待。続いて「はいからさんが通る」「ポーの一族」「天は赤い河のほとり」と少女マンガの舞台化が続く宝塚を見据えて「待望コラボ続々!少女マンガと宝塚」を特集しました。

 

OGロングインタビューは朝夏より一足先に退団、12月からミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」の長女ツァイテル役で女優デビューする実咲凜音の登場です。

 

ほかに公演評、新人公演評、OG公演評など読み応えたっぷり。宝塚ファン必読の一冊に仕上がりました。ぜひお手元に一冊お求めください。

 


 ©宝塚歌劇団

 

◎…明日海りお主演、花組公演「ポーの一族」特別鑑賞会増席のお知らせ

 

○…宝塚のマエストロ、薮下哲司さんと宝塚歌劇を楽しむ「花組公演“ポーの一族”特別鑑賞会」(毎日新聞大阪開発主催)が、1月18日(木)宝塚大劇場で開催されます。「桜華に舞え」「幕末太陽伝」「神々の土地」に続く第4回となる今回は、午後1時半からエスプリホールでの昼食会(松花堂弁当)のあと薮下さんが観劇のツボを伝授、3時の回の明日海りお主演、花組公演「ポーの一族」(小池修一郎脚本、演出)をS席(一階中部センター)で観劇します。参加費は13500円(消費税込み)。好評につき増席しましたが残数僅少。お早めにお申し込みください。)問い合わせは毎日大阪開発☎06(6346)8784まで。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 575

Trending Articles