鳳月杏初主演による花組公演、ミュージカル「スターダムSTARDOM」(正塚晴彦作、演出)が24日、宝塚バウホールで開幕した。今回はこの模様を報告しよう。
昨年の「KINGDOM」に続くベテラン、正塚氏の「ダム」シリーズ第二作。今回は、1980年代のアメリカ、かつては絶大な人気を誇った視聴者参加のオーディション番組を舞台に、番組で優勝して歌手デビューを夢見る若者たちの青春群像を、彼らを利用して視聴率アップをはかろうとする大人たちの打算をからませて描いた辛口のバックステージものミュージカル。
視聴率の低迷から打ち切りの噂も出ているオーディション番組に、ある日、あたりの空気が一変するような資質を持つ歌手リアム(鳳月)が登場、審査員のサイモン(天真みちる)らはにわかに色めき立つ。結局、財閥の御曹司ながら歌手を目指すネイサン(水美舞斗)ら9人が勝ち残り、番組は地方から場所をニューヨークに移し、決勝へとコマを進める。ところが優勝候補のリアムとネイサンに思いがけない出来事が起こり、いったん出身地に帰らないといけない事態になる。前半はよくあるバックステージもので新味はなかったが、二幕に入ってからようやく話が動きだし、正塚氏らしいひねりのきいたラストへと展開していく。オーディション番組が背景とあってカーペンターズやサイモンとガーファンクルなど80年代のヒット曲がふんだんに登場するのも楽しい聴きもの。
リアムの鳳月は、長身で、スター性のある華やかな個性にも恵まれ、新しいタイプの宝塚の男役として申し分のないビジュアルだが、最初の登場シーンに、審査員をうならせるだけの存在感があったかというとなんともいえない。歌の声質の軽さが原因か。リアムにはちょっとした過去があり、それが審査員たちをひきつける何とも言えない陰のある魅力につながっていて、あとから考えるとその辺の雰囲気はよくでていたと思うが、とりあえずは歌でがつんと印象付けないといけない場面なので、もっとパワフルさがほしい。資質は十分にあるのでさらなる精進を望みたい。
ネイサンの水美は、リアムという強敵の出現に動揺し、激しく対抗しながらも徐々にリアムの力量を認めていくあたりを、かっこよく表現していた。ダンスの切れの良さは大きな武器、歌もずいぶんよくなってきた。歌に台詞に、もう少し強弱のメリハリめりはりをつけることができればさらによくなるだろう。
審査員のサイモンを演じた天真は、相変わらずの達者さで主演の二人をよくサポートした。かつてロックスターだったという華やかな雰囲気もきっちり出ていて、しかもある程度の年齢をにじませた貫録もあり、後半は天真が全体をさらったといっても過言ではない。専科生のような落ち着きはらった感じではない、スター性のある新たな脇役像といっていいだろうか。主役を邪魔せずに、しかもこんなに魅力的な脇役は珍しい。フィナーレのダンスも見事だった。
特にヒロインという役はなく、桜咲彩花扮するダイアンが一番大きな役。その相手役、車の修理工ジェイクを演じた亜蓮冬馬が、甘いマスクとともに芝居心のある演技で印象に残った。歌がなかったのが残念だったが要注目だ。
若手中心の公演で、これまであまり役のつかなかった生徒にも大きな役がつき、オーディション番組と会って歌もふんだんにあるが、なかでベンジャミン役の高峰潤が儲け役。ほかに番組の司会者ヴィクターを演じた冴華りおなのすっきりとした雰囲気も印象的だった。
©宝塚歌劇支局プラス7月25日記 薮下哲司