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Channel: 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス
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早霧×咲妃×望海 雪組ゴールデントリオ絶好調!

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写真©宝塚歌劇団


早霧×咲妃×望海 雪組ゴールデントリオ絶好調!ハンカチ揺れる珠玉の舞台「星逢一夜」

「ルパン3世」でブレイクした早霧せいなを中心とした雪組公演、ミュージカル・ノスタルジー「星逢一夜」(上田久美子作、演出)とバイレ・ロマンティコ「ラ・エスメラルダ」(斎藤吉正作、演出)が、17日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの模様を報告しよう。

「星―」は、雪組得意の日本物。江戸中期の九州・三日月藩(架空の藩)。藩主の次男坊、紀之介(早霧)は、源太(望海風斗)ら百姓の子供たちと気楽に天文学ごっこに興じる毎日だった。藩主に父親を殺害された泉(咲妃みゆ)だけは、紀之介とはなかなかうちとけなかったが、いつしか惹かれあう仲に。しかし、跡取りの長男が亡くなり、紀之介が藩の後継ぎ、春興(はるおき)として江戸に参内することになったことから3人の運命は大きく変わっていく。

古事記と日本書紀に登場する衣通(そとおり)姫伝説を自由に解釈した「月雲の皇子」でデビュー、その卓越した構成力で瞠目させ、続くブラームスとクララ・シューマンの切ない恋を情感たっぷりに描いた「翼ある人々」も抜群のセンスで高い評価を得た上田氏待望の大劇場デビュー作。江戸時代の天文学者といえば岡田准一が主演した松竹映画「天地明察」が記憶に新しいが、今回の舞台はこれとは関係なく、岐阜・郡上藩主で天文学好きの金森頼錦と郡上一揆をヒントに、九州の架空の藩の出来事に置き換えたオリジナルのストーリー。子供のころ結び合った無垢な友情が、時がたって互いが支配者と被支配者に隔たり、敵対せざるをえなくなったことから生まれる悲劇的世界を背景に、お互い愛しあいながらも成就することのない激しい愛がドラマチックに展開する。

紀之介が春興と名を改め、将軍の右腕となり税制改革を推進していく間に、幼いころの思い出が脳裏をまったくかすめなかったはずはないと思いたいのだが、人は立場が変わると心まで変わってしまうものだろうか。そのあたりの紀之介の変節が寂しい限りだが、クライマックスの源太との対決から、泉との場面への展開は見事だった。そして、余韻の残るラストシーンでは、満員の大劇場の客席からは堰を切ったように嗚咽の声と涙があふれ、白いハンカチが揺れた。細かいところで注文はあるが今回は不問に付そう。オリジナル作品としては傑出した出来といえよう。

早霧は、自由奔放に育った少年時代もよかったが、三日月藩の後継ぎとして江戸城に参内したあと、天文学の知識のおかげで一介の田舎侍から将軍に要職に抜擢され、武士として洗練されていく雰囲気が非常によくでた好演。独特のピンと張りつめた歌声も役柄によく合っていた。

泉役の咲妃も、紀之介を父の仇とはねつけながらも、惹かれていく女心をたくみに表現、台詞がやや現代的にすぎるところがあって、やや興がそがれる場面もあったが、源太との間で揺れる心は、切ないくらい伝わった。

そして源太の望海が、また素晴らしかった。常に泉を思いながらも、泉が紀之介を好きだということを知って身をひこうとする健気さ、常に他人への思いやりが第一のやさしい心根の男として描かれたこの役を、望海が全身全霊で演じ、客席の涙腺を一人でゆるめていた。まさにおいしい儲け役。望海の代表作の一本になるだろう。

この3人以外では、将軍役の英真なおきが、クリアな口跡と圧倒的な貫録でまたひとつ当たり役を増やし、紀之介の養育係、鈴虫の香稜しずるが達者ぶりを発揮した。ほかは、幼馴染の村の百姓の子供たちでちょび康の彩風咲奈と汐太の永久輝せあ、春興の部下となる猪飼秋定役の彩凪翔が印象に残る役。娘役では紀之介の母親、美和役の早花まこの凛とした風情、紀之介と結婚することになる将軍の姪、貴姫役の大湖せしるに存在感があった。

一方「ラ・エスメラルダ」は、芝居とは打って変わった情熱の国スペインをイメージした華やかなラテンショー。プロローグから早霧以下全員が海賊に扮し、金キラの衣装で暑苦しく歌い踊る。彩凪と永久輝がカーレーサーで競う場面、咲妃がカルメンに扮し早霧と彩風を相手に踊る闘牛場の場面、望海がメーンのパリのナイトクラブ(ここでは英真なおきも出演)、彩風から始まり早霧を中心にスターパレードとなる中詰のサンホセの火祭り、彩風をフィーチャーしたアーチストの場面などが途切れなく続く。緩急自在というよりは急急といった感じで息もつかせず、あっという間の55分間。芝居の余韻が吹っ飛んでしまったほど。早霧のスタイリッシュなダンス、望海の歌をふんだんにフィーチャーしながらも彩凪と彩風にそれぞれソロの場面を担当させるなど二人を売り出そうという意図が明確に表れたショーでもあったが、彩凪の黒髪が茶髪の彩風に比べて視覚的には印象的。歌は彩風に分があった。

フィナーレは彩凪と透水さらさのデュエットダンスから始まり、早霧を中心とした純白の男役群舞へと発展、そして早霧×咲妃、彩凪×沙月愛奈、彩風×星乃あんりのトリプルデュエットからパレードへ。エトワールは今作で退団する透水だった。大湖と永久輝、香綾と月城、鳳翔大と蓮城まこと、彩凪、彩風そして望海、咲妃、早霧の順でパレード。彩凪と彩風が三番手羽を背負った。

©宝塚歌劇支局プラス7月20日記 薮下哲司



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