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Channel: 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス
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夢咲ねね退団後初舞台、ミュージカル「サンセット大通り」大阪で千秋楽

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夢咲ねね退団後初舞台、ミュージカル「サンセット大通り」大阪で千秋楽

5月に退団したばかりの元星組トップ娘役、夢咲ねねの退団後初舞台となったミュージカル「サンセット大通り」(鈴木裕美演出)が、8月2日、大阪、シアターBRAVA!で千秋楽を迎えた。今回はこの模様を報告しよう。

「サンセット-」は1950年ごろのハリウッドが舞台。サイレント映画の大スター、ノーマが、文無しの新進脚本家ジョーを利用して、銀幕にカムバックを図ろうとするが、すでに忘れられた存在のノーマに誰も見向きもしない。ビリー・ワイルダー監督の名作をもとにアンドリュー・ロイド・ウェーバーが曲をつけて忠実に舞台化したミュージカル。1993年のロンドン初演はパティ・ルポン、翌94年のブロードウェー初演はグレン・クローズが主演、いずれも大評判となった。ノーマの豪邸の装置に巨費がかかり、長らく日本での上演が見送られてきたが、簡易セットでの上演が可能になった2012年、宝塚を退団したばかりの安蘭けい主演で日本上演が実現、以来3年ぶりの再演。

今回はノーマ役が安蘭と濱田めぐみのダブルキャスト。ジョー役が安蘭のときが平方元基、濱田のときは柿澤勇人、そしてジョーの仕事仲間ベティ役に夢咲ねねが起用された。3年前の初演は彩吹真央が演じた役だ。

まず、作品の出来だが、初演に比べて演出や振付が大幅に変わりずいぶんグレードアップしたうえ、安蘭、濱田が、全く異なるアプローチで役に挑み、見ごたえがあった。特に安蘭のノーマが絶品だった。初演のときは若さが勝って、役を完全に自分のものにしきれていないような感じがなくもなかったが、今回は2度目の余裕もあるのか、見事なノーマだった。前半のジョーを手玉に取るくだりが時にはコケティッシュで可愛く、ユーモアを交え、それがかつての大女優という大きな存在感を見事に表現していた。クライマックスの大階段の見せ場も鬼気迫る熱演、見ているこちらの背筋がぞくっとするほどの迫力だった。ロイドウェーバーの曲がかなり高低差のある難曲で、実力派の安蘭にしてもやや不安定なところがあったが、演技力と表現力でカバーしていた。

千秋楽は濱田のノーマだったが、歌の実力はさすがピカイチ。一音の狂いもない見事な歌唱で圧倒した。演技的にもすきのない出来。ただ、安蘭のノーマを見た後で見ると、歌も台詞も同じなのに演技の微妙な間が、作品自体の仕上がりに大きく作用することを再確認させられた舞台でもあった。かつての大スターというカリスマ性は出ていたと思う。

一方、ジョー役の平方元基と柿澤勇人。どちらも好演だった。平方の柄の大きいいかにもヤンキーな感じが役にぴったりで、映画オリジナルのウィリアム・ホールデンをほうふつさせた。ノーマとベティの間で揺れる心情を非常に分かりやすく演じ、この三角関係なら宝塚でもできるのではないかと思わせるぐらいの主人公としての存在感があった。歌と演技の細かさでは柿澤に分があった。

そしてベティの夢咲。彼女はワンキャストなので両バージョンともに出演したが、フィアンセがいながらその親友で才能はあるが、それを発揮できないちょっとだらしないジョーにひかれていくキャリアウーマンを、地に足のついた演技で表現、なにより宝塚の娘役で培った品を崩さずに演じたのが素晴らしかった。映画ではナンシー・オルソンが演じていた役だが、ノーマ役のグロリア・スワンソンの怪演にすっかり影を潜めていた。しかし、今回のバージョンでは、ノーマとの対比がしっかりと描かれており、夢咲が演じたことで役自体がかなり重要な役どころになった。そして安蘭、平方、夢咲の3人の関係性のバランスが非常によかったことも幸いした。それは、濱田、柿澤、夢咲のときより顕著だった。なぜかと考えてふと思ったことは、宝塚と四季という土壌の違いだったのかもしれない。執事役の鈴木綜馬、監督役の浜畑賢吉と主要な脇役を四季出身者で固めたこの舞台、濱田、柿澤バージョンはまるで四季の舞台を見ているような錯覚に陥った。そこに一人夢咲が入っているのはさすがに違和感がある。それに比べると、安蘭と同じ舞台にいる夢咲はなんとなくしっくりくるのだ。見るほうの勝手な思い込みかもしれないが、舞台というのはそんなものだ。

とはいえ、日本初演時の舞台より数段見ごたえのある舞台に仕上がっていた。1994年にロンドンのオリジナルの舞台を見ているが、オープニングの死体が浮かぶプールの場面から度肝を抜かれ、豪邸がそのまませり上がってその下からバーのセットが登場するという大がかりな舞台装置だった。今回は前回同様、階段を回すことによって場面転換するという簡易バージョンではあるが、演出によって転換をかなりスピーディーにしてテンポアップ。ダンスナンバーもバージョンアップされた。二幕冒頭の撮影所の場面。数年ぶりに撮影所にきたノーマをベテランの照明係が覚えていて、スポットを当てる場面は、映画でも印象的だったがこの舞台でも大きなハイライト。ノーマが「アズ・イフ・ウイ・ネヴァー・セイ・グッバイ」と歌う場面は感動的だ。

©宝塚歌劇支局プラス8月3日記 薮下哲司

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