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一路真輝、感涙の35周年記念コンサート大阪公演

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一路真輝、感涙の35周年記念コンサート大阪公演

 

元雪組トップで女優の一路真輝の初舞台から35周年を記念したコンサートが、東京に引き続き、9月17日、大阪・サンケイホールブリーゼで行われた。今回はこの模様をお伝えしよう。

 

一路といえば「エリザベート」初演のトートとして、1990年代の宝塚を代表するトップスター。その一路は1982年初舞台の67期生。入団当初から歌唱力の豊かさで注目され、次代を担うスターとして早くから大役に起用された。宝塚歌劇担当記者として入団当初からずっと見守り、退団後も変わらず併走してきたスターの一人なので35周年は感慨深いものとなった。

 

小池修一郎監修、中村一徳演出によるコンサートは、そんな一路がこれまでに出演した舞台の数々からの思い出の曲を網羅した内容で、一部が宝塚時代、二部が退団後のミュージカルからの選曲と、一路の35年間の舞台生活の集大成になっており、ファンにとっては感涙の内容であり、ファンでなくともその多彩な選曲に、改めて一路が宝塚のみならず日本のミュージカル界のキーパーソンであることが分かる内容になっていた。一曲一曲を丁寧に歌う一路に、初演当時のさまざまな思い出が甦った。

 

オープニングは初舞台の「アルカディアよ永遠に」(82年)の演奏から始まり、一路が舞台中央に登場、照明が入ってオペレッタ「微笑みの国」(91年、バウホール)の「君こそわが心」を熱唱、早くも懐かしさがこみ上げる。「微笑み-」は、中国皇帝スー・ホンを主人公にしたレハール作曲のオペレッタで、村上信夫氏がバウ公演用にコンパクトに脚色、一路と当時雪組の新進娘役だった純名里沙の歌えるコンビのために作られた作品で、やや強引なストーリーだったが音楽は素晴らしかった。コンサートのMCでもあったが一路とウィーンが結びついた最初の作品でもある。当初バウ公演だけの予定だったが、好評に応えて翌年、一路の故郷である名古屋と東京で再演され、一路が絶賛された。

 

こんな感じで一曲ずつに思い出があり、この調子で書いていくととうてい最後の曲まで行きつかないので駆け足に紹介すると、2曲目は、麻実れいの相手役に抜てきされた「はばたけ黄金の翼よ」から「ああ、君を愛す」。続いて初期のショー作品2本のあとは「ベルサイユのばら」「風と共に去りぬ」のコーナー。一路はこの両方に主要な役で出演しており、これに「エリザベート」を加えると、宝塚史上の三大ヒット作すべてに主演者として出演していることになる。客席には演出の植田紳爾氏の姿も見え、一路が紹介する一幕も。

トップ時代のショーナンバーのメドレーのあとはゲストの安蘭けいが登場。花總まりとの初共演作となったバウ公演「二人だけの戦場」の「理想の為に」を安蘭とデュエット。安蘭は当時雪組の下級生でこの公演にもさまざまな役で出演しており、思い出話に花が咲く。当時、轟悠と歌った曲を安蘭と歌った。安蘭は「THE SCARLET PINPARNEL」から「ひとかけらの勇気」も披露した。

そして小池氏との出会いとなった「JFK」から「アポロ・月への旅」を皮切りに「エリザベート」メドレー。まずは「愛と死の輪舞」からスタート、初演でルドルフの少年時代を演じた安蘭が青年ルドルフに扮して「闇が広がる」をデュエット。安蘭は「JFK」も「エリザベート」も新人公演で一路の役を演じており「袖から穴が開くほど一路さんを見てました。私が今あるのは一路さんのおかげ」と振り返り、一路を恐縮させていた。そして、一路が「最後のダンス」で一部を締めくくった。この曲は一路が、ニューヨークのカーネギーホールのコンサートでも歌った曲で、熱唱ぶりに思わずその時のことを思い出した。

 

休憩後の二部は、もう一人のゲスト戸井勝海を中心にコーラスが歌う「キスミーケイト」の「またショーが始まる」から華やかにオープニング。「王様と私」「南太平洋」「キスミーケイト」と退団後に立て続けに出演したミュージカルの曲をメドレーで披露。サヨナラ公演だった「エリザベート」のすぐあとに出演した「王様と私」でソプラノの高音に苦しんでいたのが嘘のようななめらかな歌声に、女優・一路の20年の成長を見た思いがした。

「イーストウィックの魔女たち」「シャーロック・ホームズ」「ブラック・メリーポピンズ」と異色作の主題歌のあとは、自身が「エリザベート」に次いで大事な作品という「アンナ・カレーニナ」からドラマチックに3曲を披露。わが子との別れを歌う「セリョージャ」の熱唱に心打たれた。

 

そして再び「エリザベート」から、2000年の東宝版初演に一路エリザベートのためにリーバイ氏が作曲したものの再演からはカットされ幻の曲となった「夢とうつつの狭間で」と戸井とのデュエットで「夜のボート」そして極め付け「私だけに」を熱唱、コンサートの幕を閉じた。一部が宝塚時代のトートの曲、二部を退団後に演じたエリザベートの曲でまとめた一路ならではの選曲だった。一路によるとコンサートなどでは基本的には3曲しか歌えないのだそうだが、一路のためならとウィーン側が快諾してくれたのだとか。まさしく一路にしかできないコンサートだった。

 

アンコールは退団後にリリースしたアルバムから自作の「door」をしっとりと歌い「これからもよろしくお願いします」とこれからの新たな活躍を誓っていた。そしてカーテンコールでは安蘭の励ましの言葉に思わず感極まる一幕も。小池氏が監修したこのコンサート、さすがに一路のことを知り尽くしているだけに選曲も構成も見事なものだった。男役時代の歌が音域的にも一番合っていて安心して聴くことができたが、一曲一曲を丁寧に歌う一路に「エリザベート」「アンナ・カレーニナ」に続く本格的な主演ミュージカルへの出演を期待したのは私だけではないだろう。

 

©宝塚歌劇支局プラス9月18日記 薮下哲司

 


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