新人公演プログラムより
宙組期待のスター、瑠風輝、堂々の主演、「神々の土地」新人公演
宙組トップスター、朝夏まなとのサヨナラ公演、ミュージカル・プレイ「神々の土地」ロマノフたちの黄昏～（上田久美子作、演出）の新人公演が、5日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの模様をお伝えしよう。
革命前夜、第一次世界大戦真っただ中の1915年、帝政ロシアの混沌とした時代を背景にロマノフ王朝最後の皇族の一人ドミトリー・パブロビッチ・ロマノフの数奇な運命を事実とフィクションを交えて描いた「神々―」新人公演は、本公演同様、上田氏が演出を担当、その緻密な演出が出演者全員に沁みわたった完成度の高い公演となった。
今回、主演のドミトリーを務めたのは新人公演3回目の主演となる瑠風輝。長身の凛々しいシルエットに制服姿がよく似合ううえ、持ち前のなめらかな歌唱力に、さらに磨きがかかり、堂々たる主演ぶりだった。まるでそこに朝夏がいるような錯覚を覚えさせるほどお手本に忠実な演技だったが、それが出来たことだけでも大きな成長だった。ただ長身だけに動きに雑なところが見え隠れするので、そのあたりにも神経を集中させることができるようになれば文句なしだ。
相手役のイリナを演じた夢白あやは、研１の期待の娘役。今回の新人公演の一番の大抜擢で、しかも本公演の伶美うららに優るとも劣らないほどの目鼻立ちのくっきりした美貌の持ち主。瑠風との背丈のバランスなど相性もよく、役の性質上必要な大人びた雰囲気も巧みにかもしだして研１生とは思えない落ち着いた風情で演じ抜いた。タンゴやワルツなどのデュエットダンスも身体全体を大きく使い、華やかに見せきった。たださすがに台詞は感情表現が弱くまだまだ発展途上。今回は歌がなかったので歌唱力は未知数だが、今後の活躍をおおいに期待したい。新たな娘役スターの誕生だ。
ドミトリーの親友フェリックス（真風涼帆）は、鷹翔千空（たかと・ちあき）。昨年「エリザベート」新人公演でルドルフに起用されて、一躍注目を浴び、今年は「王妃の館」新人公演でルイ14世（真風）を好演、将来を嘱望される逸材だ。今回も、本公演で真風が演じている役への挑戦だ。ただこの貴族の中の貴族といった青年役は、真風だから存在感が出せる役だが、主人公ドミトリーの補足的な人物なので、演じる上ではかなり難役。新人公演メンバーの中では一番難しい役のような気がした。そんななか鷹翔は控えめに、しかし貴族としての品を落とさず、ひたすら主人公を立てる役に徹したのは立派だった。ラストの二人を残しての去り際の演技がいかにも潔かった。その直前、フェリックスがドミトリーを探しにモスクワ郊外のセルゲイ大公邸にやってきたとき従者ポポービッチに扮した湖風珀のマイクトラブルで一瞬、時が止まる場面があったが鷹翔の一瞬の機転で、事なきを得たのもグッドジョブだった。
ストーリー的に軸になる4人。怪僧ラスプーチン（愛月ひかる）には留依蒔世、皇妃アレクサンドラ（凛城きら）には小春乃さよ、マリア皇太后（寿つかさ）には花菱りずといった面々が配役された。それぞれ印象に残る好演で、なかでもラスプーチンの留依は、本役の愛月が乗り移ったかのような体当たりの熱演だった。小春乃、花菱の堂々たる貫録ぶりもみもの。
一方、ボルシェビキメンバーのソバール（桜木みなと）の優希しおんが、猛々しく荒々しい若者の雰囲気をよくつかんでパワフルな演技、また姉のラッダ（瀬音リサ）に入った星風まどかが、登場シーンの力強く素晴らしいソロで一気に見る者の心をつかみ、本公演のオリガで見せる楚々とした雰囲気をかなぐりすてた力演で、次期トップ娘役らしい花も実もあるところをみせつけた。
星風が本公演で演じたそのオリガ役を演じたのは天瀬はつひ。その楚々としてかわいらしさは夢白とは真逆のヒロイン像。ここにも娘役の新たなスターが誕生したといっていいだろう。一方、ジナイーダ（純矢ちとせ）を演じた華妃まいあは、舞台冒頭の説明台詞をクリアにこなし、大役を果たした。
青年貴族組はコンスタンチン（澄輝さやと）の真名瀬みら、ウラジミール（蒼羽りく）の希峰かなた、ロマン（瑠風）の風色日向の3人。それぞれ軍服がよく似合い凛々しく演じていた。
新人公演とはいえ、ついつい吸い込まれるように見られた稀有な公演で、作品の中身の濃さもさることながら出演者の心のこもった演技がひとつになった公演といえるだろう。宙組メンバーのまとまりのよさが感じられる新人公演だった。
©宝塚歌劇支局プラス9月6日記 薮下哲司