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雪組新トップコンビ、望海風斗、真彩希帆、披露公演「琥珀色の雨にぬれて」開幕

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雪組新トップコンビ、望海風斗、真彩希帆、披露公演「琥珀色の雨にぬれて」開幕

 

雪組新トップコンビ、望海風斗、真彩希帆の披露公演、ミュージカル「琥珀色の雨にぬれて」(柴田侑宏作、正塚晴彦演出)とレビュー「“D”ramatic S!」(中村一徳作、演出)全国ツアーが25日、大阪・梅田芸術劇場メインホール公演から開幕した。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

望海、真彩の実力派コンビの第一作に用意された「琥珀色-」は、1984年、高汐巴、若葉ひろみがトップコンビだった花組に合わせて柴田氏が書き下ろした恋愛心理劇。その後もたびたび再演されており、直近は2012年に柚希礼音、夢咲ねねの星組コンビの全国ツアー公演が記憶に新しい。

 

1920年代初頭のパリ、第一次世界大戦が終った後の自由と享楽の時代を背景に、婚約者がありながら神秘的な美しさをたたえたマヌカンのシャロンの魅力のとりこになった貴族の青年クロードの揺れる思いを描いたラブストーリー。舞台はクロードの回想でシャロンとの出会いから別れまでを描いていく。

 

昨今、女性作家による新作が増えている中、いま改めて見るとこの柴田氏の旧作はなんとも男性目線、それをよしとするかどうかで、大きく評価の分かれる作品だ。親友の妹であるフィアンセとの結婚を控え、何不自由ない暮らしをしていた青年の前に、衝撃的に現れた美貌の女性シャロン。青年は、いったんはすべてをなげうってその恋に走ろうとするのだが、フィアンセの突然の事故で断念、元のさやに納まる。しかし、一年後にシャロンに再会して思いが再燃、駆け落ちしようとしたところに妻が駆けつけて…という展開。それを、何年か後に、いまだ思いを断ち切れぬ青年が回顧するというセンチメンタルな物語。

 

男が、理想の女性を追い求めながら手に入れられなかった悔恨の情を、美しく幻想的に描いた作品で、女性から見ると、誰に自分を投影していいか、やや苦しいストーリーだ。男役の美学を追及する宝塚において、こういう優柔不断な男は一番ダメな部分なのだが、マジョレ湖に降るという琥珀色の雨のイメージとともに、時代設定とデカダンな雰囲気が宝塚の舞台にぴったりマッチして、繰り返し再演されているようだ。後半、クロードとシャロンが駆け落ちしようと待ち合わせした駅に妻のフランソワーズが現れる場面が見せ場だ。今回改めてみて、その場面に詰めの甘さを感じたのと、寺田瀧雄氏の主題歌が、曲としてはメロディアスでいいのだが、時に演歌のように聞こえ、最近の台詞から歌に入っていくミュージカル的感覚からいうとなんだが古臭く感じられるようになったのも新たな発見だった。とはいえ、1920年代のパリという時代感覚は宝塚には本当によく似合う。

 

望海のクロードは、貴族の青年の茫洋とした雰囲気と青年本来の純粋さのバランスをうまく表現して絶妙だった。トレンチコートとソフト帽というこの作品のトレードマークになっているスタイルもよく似合い、思わず初演の高汐をほうふつさせた。

 

シャロンの真彩は、朝もや霞むフォンテンブローの森に取り巻き連中と共に現れる登場シーンの誰をもをひきつけるような華やかな雰囲気づくりがやや弱いように思ったが、続く歌唱が見事で一気に挽回した。この役は若葉ひろみや大鳥れい、夢咲ねねといった娘役トップがいずれも成熟した時代に演じてきており、女王バチのような求心力のある派手な存在感が必要な大役。これが娘役トップお披露目の真彩にとってはハンデが大きいと言わざるを得ず、いかに実力派の真彩にしても難役だった。ただ、初日を見た限りではまだまだ伸びしろがあり、一か月後の千秋楽には、息をのむような存在感をもって登場してくれることを期待したい。望海とのコンビは、どちらもが背伸びせずにごく自然体で接しているように見え、みていても安心感のようなものが感じられた。

 

ジゴロだがひそかにシャロンを思うルイは彩凪翔。初演で大浦みずきが演じた役だ。クロードの恋敵ではあるのだが人物像はあまりよく描かれておらず、タンゴを踊る場面が見せ場になる。彩凪は濃い雰囲気で作り込み、感じを出していた。

 

婚約者のフランソワーズは星南のぞみ。清楚で可愛くて、しかも演技にも芯があり、まさにうってつけ。台詞回しにやや弱いところがあったのでその辺に気をつければ、さらにいい感じになるだろう。

 

この作品で一番ノーマルな思考の持ち主として登場するのがフランソワーズの兄でクロードの親友ミシェル。これは真那春人が演じた。絵にかいたような貴族の二枚目の好青年、これを真那が少し色を付けて演じて、アクセントを効かせた。

 

フルールの女将エヴァには沙月愛奈が扮したが、その薫陶を受けるジゴロたちは雪組の若手メンバーがずらり。なかではアルベールに扮した橘幸のきりっとした立ち姿が印象的だった。

 

ショーは先日まで上演されていた早霧せいなのサヨナラ公演用のショーを、望海、真彩のお披露目に再構成したもの。全体の構成はほぼ同じで早霧と咲妃みゆの場面を望海と真彩が担当、彩風咲奈のところに彩凪が入った。永久輝せあのロケットボーイは陽向春輝が入った。大幅に変わったのは、後半の「絆」の場面が「希望」の場面になったこと。歌詞もこれからの雪組の新たな前進を謳いあげる希望の歌に変わった。歌の実力は申し分のない望海、真彩コンビはショーでも本領発揮。第13場サンライズのデユエットソングなど息の合った歌声とダンスで聞きごたえ、見ごたえ十分だった。初日フィナーレは、大きな羽根を背負った望海に盛大な拍手が送られ、あいさつにたった望海は「大きな羽根を背負わせて頂いた感想は…です」としばし無言で涙ぐみ、満員のファンからは再び温かい拍手が送られた。カーテンコールのスタンディングに応えて望海が「“絆”は早霧さんで封印、私たちはきょうから“希望”を合言葉に頑張ります」と客席と共に「希望」を連呼して感動のトップ初日の幕を閉じた。公演は9月18日まで。

 

©宝塚歌劇支局プラス8月26日記 薮下哲司 

 


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