花總まり、圧倒的な美しさと貫録、東宝版「エリザベート」
ミュージカル「エリザベート」(小池修一郎潤色、演出)の新演出による東宝版が東京・帝国劇場で上演中。エリザベートは、新旧の元宝塚の娘役、花總まりと蘭乃はなのダブルキャストだが、ようやく花總バージョンを見ることができたので、今回はこの模様を報告しよう。
「エリザベート」の東宝版は、小池氏が、宝塚版を男女バージョンとして脚色したもので皇妃エリザベートと黄泉の帝王トートの愛を中心に展開、旧体制の崩壊をエリザベートの半生とだぶらせた骨太なオリジナルとは似て非なる作品。2000年の初演以来、繰り返し上演されているが、今回は出演者が大幅に若返り、衣装や装置もリニューアルした新バージョン。
なかで一番の話題が、1996年の宝塚初演の「エリザベート」でタイトルロールを演じた花總が、1998年の宙組公演以来17年ぶりに三たびエリザベートに挑戦することだった。花總エリザベートは、冒頭、ルキーニの裁判所での申し開きのあと、舞台中央の巨大な棺の上から登場。この時の少女時代の初々しさは、初演当時と全く変わらない。まさに驚異的。さらに歌声の滑らかさ、表現力の豊かさで、一気にエリザベートの世界に引き込んだ。
一幕、一番の聞かせどころである「私だけに」は言うに及ばず、初めて歌う二幕冒頭の「私と踊る時」、宝塚版にはないソロの歌、そしてフランツとのデュエット「夜のボート」と、年輪を重ねていく様子を鮮やかに表現、東宝版初演の一路真輝のエリザベートとも違った圧倒的な存在感で演じ切り、ミュージカル女優としての大輪を咲かせた。
この日は、トートが城田優。身長がありずいぶん華やかなトート。丁寧な歌唱に二度目の余裕が感じられ、花總をがっちり受け止めて、非常にバランスのいいコンビだった。
ルキーニは歌舞伎界のホープ、尾上松也。端正な顔立ちをメイクとヒゲで精悍さを強調。歌舞伎の大仰な台詞回しとこぶしの効いた歌がルキーニにぴったりだった。
フランツは前回と同じく田代万里生だったが、年齢を重ねてからの演技に工夫が見られ、ずいぶんこなれてきたようだ。歌はさすが。
ゾフィーは香寿たつき。1996年の宝塚初演でルドルフを演じていたとは、いまとなっては信じられないが、難曲を見事にクリア、貫録もたっぷりで大健闘だった。
そのルドルフは京本大我。繊細な美少年タイプで、ブロンドの髪がよく似合い、幸うすいるルドルフを好演。城田との「闇に広がる」はボーイズラブの動く写真集のようだった。
前回の蘭乃、井上芳雄、山崎育三郎、剣幸といったメンバーもそれぞれ良かったが、今回は花總のエリザベートがとにかく圧倒的で、周りもその魅力に引っ張られているような感じの舞台だった。なお、この公演、8月末まで同劇場でロングランされるが、その後の全国公演の予定はない。発売と同時に完売の人気だけに、いずれ再演されるとみられているが、まだ発表されていないのが現状だ。
©宝塚歌劇支局プラス7月16日記 薮下哲司