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現代と中世をタイムトリップ!桜木みなと主演、宙組バウ公演「パーシャルタイムトラベル時空の果てに」開幕
宙組期待のホープ、桜木みなと主演による「パーシャルタイムトラベル時空の果てに」(正塚晴彦作、演出)が9日、宝塚バウホールで開幕した。東京公演がなくバウ公演だけとあって、場内は一見して東京からの遠征組とわかるファンが多くみられ、なんとなく華やかな雰囲気。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。
現代のフランス、シンガーソングライターを目指す青年が、ファンと名乗る女性に導かれるまま訪れたアンティークハウスにあった謎の金属を3ユーロで買ったのがもとで、中世ヨーロッパにタイムスリップ、運命の女性に出会い、それまで考えもしなかった生きるうえでの大切なものを見出していくというファンタジックなラブストーリー。
以前、高嶺ふぶきと花總まりがバウで演じた雪組公演「晴れた日に永遠が見える」もこんなタイムスリップものだったし、さして新鮮味のあるストーリーではなく、突っ込みどころは満載なのだが、シンプルなセットながら照明効果で一瞬のうちに現代、中世、現代と何度も行き来するその舞台転換がいともスムースで違和感がないばかりか、桜木の軽い現代青年ぶりがうまくはまっていて、現代ではただの喧嘩っ早いだけのロック青年が、中世では神様と称えられたりするあたりが何ともおかしくて、なかなか楽しい作品に仕上がった。正塚作品としても一昨年の花組バウ公演「スターダム」よりもさらに肩の凝らない軽い感じがうまくでていて、見た後の爽やかさも相まって久々のクリーンヒットと言っていいだろう。
オープニングはシンガーソングライター、ジャンに扮した桜木が、ストリートでギター片手に弾き語りで歌う場面から。ライブのあといざこざに巻き込まれ、ジャンのギターは真っ二つ。腐ったジャンが仲間たちと別れて帰ろうとしたところに、ファンという女性テス(星風まどか)が現れ、おじさんがアンティークショップをやっているのでそこでならギターが安く買えるかもと強引に案内する。しかしジャンはそこで不思議な金属の部品を見つけ、それがきっかけで中世にタイムスリップすることになってしまう。桜木以外は出演者全員が現代と中世の人物を二役で演じており、自然、早変わりの連続なのだが、それを楽屋落ちで笑わせたり、出演者の少なさを逆にギャグにするあたりが何ともおかしい。
桜木は、ちょっぴり不良っぽい青年役だが、これが意外によく似合い、いかにもこんな若い奴いるいるという感覚。思いがけなく中世にタイムスリップしても、そこでスマホ片手にさんざんいたずらをして、結果的に侯爵家の令嬢の危機を救うことになって、神様に祭り上げられてしまう。舞踏会の曲があまりにもスローなのに業を煮やしてロックのリズムを伝授、一気に中世の貴族の心を鷲づかみにしてしまうところも楽しい。端正なマスクで正統派の男役のイメージを踏襲する桜木だが、こんなやんちゃな雰囲気もよく似合い、歌、ダンスに破たんがなく、安心して見ていられるというのは大きな強み。軽いコメディー演技の間の取り方も絶妙で、今後の活躍がさらに楽しみになってきた。朝夏まなと退団後の宙組にあって、大きな戦力になるのは確実だ。
今回のヒロイン役は現代、中世とも同じ役名で登場するテス役の星風まどか。現代のミニスカート姿より中世で登場するロングドレス姿の方が似合っているのは、星風のもともとのクラシカルな雰囲気のせいかも知れないが、役的にはどちらもわりと弾けた役で、その辺のいかにも今風の感覚が結構面白かった。歌唱が向上、ヒロインとしての存在感はさらに増してきたようだ。
あとはこれといって大きな役はなく、ジャンが中世で助けるモンタギュー家の令嬢シャーロットに扮した遥羽らら、その婚約者ピエールの瑠風輝、現代でアンティークショップの主人シルヴァン、中世でモンタギュー家の当主を演じた寿つかさあたりが印象に残る大きな役。瑠風の歌と身長の高さが際立っていたのと、久々に見る寿組長の大車輪の活躍ぶりが舞台をおおいに和ませていた。
あと二幕後半に登場する、ジャン桜木とテス星風の巨大な肖像画が美術担当渾身の見事なもので、これはファンなら必見もの。思わず見とれるほどだった。公演は20日まで。
©宝塚歌劇支局プラス6月10日記 薮下哲司
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