©宝塚歌劇団
明日海りお、仙名彩世、新トップコンビお披露目公演「邪馬台国の風」「Sante‼」開幕
明日海りお、仙名彩世新トップコンビ大劇場披露、花組公演、古代ロマン「邪馬台国の風」(中村暁作、演出)とレビュー・ファンタシーク「Sante‼」~最高級のワインをあなたに~(藤井大介作、演出)が2日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの公演の初日の模様を報告しよう。
「邪馬台国―」は、約1800年前(紀元3世紀)大和朝廷以前の邪馬台国を舞台に繰り広げられる古代ロマン。卑弥呼という女王がいたとだけ知られているだけでどこにあったかさえ特定できていないくらいの未知なる国、自由な発想でストーリーが展開できる物語の宝庫でもある。宝塚では上田久美子氏がデビュー作で、これより少し後の時代を背景にした「月雲の皇子」という秀作を発表、出世作としたのは記憶に新しいところ。「麗しのサブリナ」以来の大劇場公演担当となった中村暁氏は、邪馬台国と敵対する狗奴(クナ)国との抗争を軸に、邪馬台国の兵士タケヒコとのちに女王卑弥呼となる巫女マナとの運命的な出会いと別れを絡ませて史実にとらわれず自由に描いている。
和太鼓の勇壮な響きのうちに緞帳が上がると、邪馬台国の兵士たちが登場、長のタケヒコ(明日海)を中心に雄々しく歌い上げる。そこへクコチヒコ(芹香斗亜)をリーダーとする狗奴国の兵士が乱入、激しい戦闘場面が展開する。邪馬台国の兵士が白っぽい衣装なら狗奴国は黒、色分けも鮮やかなダイナミックなプロローグで観客を一気に物語の世界に誘っていく。
プロローグが終わってドラマの冒頭は、狗奴国の兵に追われ、森の中を逃げ惑うタケヒコ少年(華優希)が、渡来人の李淵(高翔みず希)と出会い、かくまわれる場面から。李淵から生きるすべを習い、成長したところで明日海にスイッチする。これが「ベルばら」オスカル編にそっくりなので客席からは拍手と共に思わず笑いが。
とはいうものの、期待に胸躍ったのはここまで。タケヒコとマナ(仙名)の許されない恋、狗奴国の兵クコチヒコとの確執、タケヒコを慕う兵士たち(柚香光、水美舞斗)らとの友情などなど、細部まで丁寧な作劇でみどころは盛りだくさんなのだが、場面ごとのつなぎがぎくしゃくしていて作者が意図しているほどには盛り上がらない。それぞれが有機的に絡んでいかない脚本としての弱さもある。ただ、初日とあってまだ粗削りな部分もあり、その辺がこなれればもう少しまとまると思う。
明日海は、幼い頃に両親を狗奴国の兵士に殺されるという辛い経験をしながら、優しさと強さを兼ね備えた青年に成長、長として誰からも信頼されるタケヒコを、地に足の着いた安定感ある演技で表現、説得力のあるなめらかな歌唱とともに古代日本に生きる青年を体現、舞台全体を明日海色に染め上げた。今回は棒術といわれる長い棒をもった立ち回りがあるが、これも鮮やかにこなしてまた新たな魅力を生み出したようだ。
今回が大劇場でのトップ娘役披露公演となった仙名は、マナとしての登場シーンから実力派らしい落ち着いた歌と演技で存在を印象付けた。巫女から女王になり、卑弥呼としての登場シーンが一番の大きな見せ場だが、衣装が思いのほか地味なので、ここはもっと派手に押し出しがよくてもいいと思った。明日海とのコンビネーションは、出すぎることもなく、かといってきちんと主張はしていて、そのあたりは絶妙のバランスを保ち、見ていて気もちがよかった。
敵役に回った芹香は、前回の「金色の砂漠」から比べると格段の成長ぶり。途中「MY HERO」というスーツアクターもので主演経験してからの大劇場だが、ずいぶんスケール感が出てきた。敵役というおいしい役でもあるが、二番手としての存在感はもはや十分すぎるぐらいだった。
タケヒコの兵士としての並々ならぬ力を見抜く邪馬台国の兵士の長アシラ役を演じた鳳月杏、タケヒコを慕う兵士フルドリを演じた柚香とツブラメの水美は、それぞれキャラクター設定に独特の個性があって印象的。柚香は、愛と友情にあふれた好青年役をさわやかに演じ、一方、水美はあることがきっかけで声を失ったという設定で、一言のセリフもない。しかし、最後に声を取り戻す。なんともドラマチックな役で、棒術のダンスと共に今回一番目立った存在だった。
専科から特別出演した星条海斗は狗奴国の王ヒミクコ。タケヒコからすると悪役だが星条らしいスケールの大きい演技で、野心満々の王を好演。美穂圭子も大勢の巫女を束ねる大巫女を貫録たっぷりに演じた。卑弥呼お披露目の場で歌いあげるソロが彼女のきかせどころだ。
ほかに卑弥呼を快く思わない邪馬台王(羽立光来)の娘アケヒの花野じゅりあと奴国の王ヨリヒクの瀬戸かずやの反体制派による暗躍はじめタケヒコをひそかに慕う女兵士イサカの城妃美伶のエピソードなど盛りだくさん。クライマックスは卑弥呼が予言した日食が起きるスペクタクルシーン、中村氏の2000年の星組公演「黄金のファラオ」にもこんな場面があったなあと懐かしく思いながらも、宝塚の舞台に古代の神話が久々に甦った瞬間だった。
一方「Sante‼」は、サブタイトルにもあるようにワインをテーマにしたレビュー。藤井氏はかつて花組で「Cocktail」というお酒にまつわるレビューを作っており、今回もそれに似通った設定。フィナーレの燕尾服のダンスも「Cocktail」のとき同様、長淵剛の「乾杯」をバックに踊る場面が再現(ANJU振付)されるという念の入りよう。藤井氏久々のクリーンヒットだった。
オープニングがすごい!芹香、瀬戸、鳳月、水美、柚香の5人が妖艶な?女装で銀橋にお目見え、それぞれが自分こそが最高のワインと歌うのだから、ゴージャスそのもの。客席の興奮ボルテージも一気に急上昇。彼女たちが本舞台に戻ったところで中央の大ぜりから純白のマントに月桂樹の冠をかぶった明日海バッカス(酒神)が天使たちに囲まれて登場、ワインによってこの世界を幸せに満たしてやろうと朗々と歌うやいなや、一転、明日海がマントを脱ぎ捨てシャンパンゴールドとワイン色の豪華な衣装に早変わり。周囲も一気に同じ華やかな衣装に変わってゴージャスな総踊りへとなだれ込む。この緩急自在のテンポが憎い。
明日海、芹香を中心とするANJU振付によるスタイリッシュなジゴロのダンスなどが続き、レストランでのフルコース料理が歌とダンスで展開、これが「モン・パリ」90周年のオマージュになっていて「モン・パリ」や「ラビアンローズ」などのパリメドレーでつないでいく。柚香が一緒に踊る「カン・カン」風の楽しいラインダンスもあり、フルコース全員が登場して華やかな中詰めへ。
今回はこのあとがさらにおしゃれで、オペラ座の舞台、和海しょうが絶唱する中、ソリスト瀬戸とプリマ水美がクラシカルなダンスデュエットを披露、続いて美穂圭子と星条海斗がエディット・ピアフとマルセル・セルダンに扮してドラマチックなロールに展開する。最近のレビューでは久しく見たことがないアダルトな雰囲気が漂った。
フィナーレの明日海、仙名のデュエットダンスも燕尾服のダンスと同じくANJUの振付で、芹香が歌を担当、短いながらもなかなかタイトなダンスで見ごたえがあった。
明日海と仙名の新コンビは、全国ツアーの「仮面のロマネスク」の時にも感じたが、どちらもがお互いを信頼し合っている感じがよく伝わり、安心して見ていられた。仙名は、これまでのイメージから一見地味に見えがちだが、センターに立つと華やかに見せる術をもっていて、それに何といっても歌の実力が強みで、芝居、ショーともそれがうまく生きていた。
次回の花組大劇場作品が、今公演初日の直前に、萩尾望都原作の「ポーの一族」と発表された。この作品は小池修一郎氏が演出家デビュー前から舞台化を懇願していたいわくつきの作品。明日海にぴったりの美少年ものでもあり、仙名とのコンビがさらに濃密になることを期待したい。
©宝塚歌劇支局プラス6月4日記 薮下哲司