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雪組・早霧×咲妃コンビのサヨナラ公演「幕末太陽傳」「Dramatic“S”!」開幕

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   ©宝塚歌劇団

 

雪組・早霧×咲妃コンビのサヨナラ公演「幕末太陽傳」「Dramatic“S”!」開幕

 

雪組トップコンビ、早霧せいなと咲妃みゆのサヨナラ公演、ミュージカル・コメディ「幕末太陽傳」(小柳奈穂子脚本、演出)とShow Spirit「Dramatic“S”!」(中村一徳作、演出)が、21日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの公演の初日の模様をお伝えしよう。

 

宝塚きっての人気コンビのサヨナラ公演の初日とあって、当日立ち見券は発売と同時に完売。一階ロビーではお迎えの挨拶に立った演出の小柳氏にサインを求める長蛇の列ができるなどロビーは大混雑。作品への期待とサヨナラ公演初日の高揚感に加えて、前日に突然発表された、人気スター、彩風咲奈の休演という「事件」もあり、一種の興奮状態といった雰囲気。彩風の代役は永久輝せあ、永久輝の代役は縣千、縣の代役は日和春磨という配役で初日の舞台の幕が開いた。

 

舞台はまず、103期生(40人)の初舞台口上から。花束ゆめ、瑠璃花夏(るり・はなか)、羽音(はおん)みかの挨拶は、3人とも緊張で思わず声が震える初々しさだったが、客席からは温かい拍手が送られた。

 

いったん緞帳がおり、海辺に波が打ち寄せる波音が聞こえる中、早霧の開幕アナウンスが入り、緞帳がするすると上がると、そこは幕末の品川宿、相模屋の表通り。大勢の人々が行きかう賑やかな光景のなかに「東海道五十三次、第一番目の親宿・品川宿…」と入るナレーションも映画「幕末太陽傳」の通り、現代から一気に幕末にタイムスリップする趣向。そこに拳銃を持った外国人たちの一団と刀を抜いた長州藩士たちが何やら大声で叫びながら駆け抜けていく。彼らの誰かが落とした包みを拾った町人風情の男、中身が懐中時計であることを確かめるとそっと懐にしまい、相模屋に入っていく。その男こそ、早霧ふんする佐平次だ。舞台が回るとそこは、相模屋の中、宿は宿でも女郎屋、佐平次らが女郎のおそめ(咲妃)や芸者を揚げて飲めや歌えのどんちゃん騒ぎを繰り広げている。別の座敷には長州藩士たち、一方、相模屋の若旦那、徳三郎(永久輝)は親の目を盗んで放蕩三昧。動乱の幕末をしたたかに生きる人々のパワーがダイレクトに伝わってくるようだった映画の冒頭を彷彿させるにぎやかなオープニングだ。

 

川島雄三監督の同名映画は1957年製作の日活映画。時代劇のイメージを超越したダイナミックなエネルギーに満ち溢れ、当時の日本を代表する名優たちが大挙出演するなか佐平次役のフランキー堺の快演が強烈なインパクトで迫る日本映画の黄金時代を代表する傑作の一本だ。舞台は、その映画ほぼそのままの展開。無一文で散財した佐平次が、踏み倒した勘定の代わりに、いわば押しかけ同様に相模屋に住み込み、店で起きるトラブルを口八丁手八丁で片っ端から解決、すっかり店の人気者になっていく。古典落語の「居残り佐平次」「三枚起請」「品川心中」「お見立て」などをちりばめながら、音楽はジャズやタンゴ、ボサノバなど斬新なスタイル、時代劇とは思えない軽快なテンポで展開していく。

 

女郎屋が舞台ということで、決して宝塚にぴったりという題材ではないのだが、小柳氏は、その辺は品よくさらりと流し、幕末という先の見えない時代、死に場所を求めてやってきた品川で、人々のたくましさに触れて再び生きる力を見出した佐平次が、新しい世界に飛び出していく、そんな大筋のストーリーを、早霧、咲妃のサヨナラ公演にひっかけ、落語の笑いをふんだんにちりばめながら宝塚らしいさわやかなストーリーに仕上げた。これはなかなか見事だった。外見だけでなく原作の本質をきちんと引き出した小柳氏の力も大きいが、川島監督の本来のテーマが現代の日本、それも宝塚で十分通用したという事だろう。

 

早霧も「ルパン三世」「るろうに剣心」と続いた2.5次元の世界の主人公のあとだけに、人情味たっぷりの佐平次役の作り込みがごく自然で、もはや何の違和感もなく、フランキー堺の佐平次とは柄が違うが、心根は見事に生き写しで、ご本人がこれを見たら泣いて喜んだのではないかと思うほどの軽妙さで好演。とりわけ、労咳(結核)を病み、他人の前ではカラ元気だが一人になるとふと寂しげな気配をみせる、その変わり身が見事だった。

 

おそめの咲妃も、お客を選り好んでいるうちに板頭(トップ)の座を奪われた海千山千の女郎役を、しなやかに演じ抜き、公演ごとの成長ぶりに目を見張った。ライバルのこはる(星乃あんり)との庭先での大喧嘩も映画そのままだが、派手な立ち回りだが日舞の振付をうまく使った優雅な動きでいかにも宝塚らしかった。そのあと今の境遇をジャズっぽい曲調で歌う前半のソロも聴かせた。「品川心中」で金造(鳳翔大)を翻弄する場面もおおいに笑わせてくれた。一方、後半、佐平次と二人で千躰荒神祭にでかけるシーンでは、ふと「ルパン三世」でマリー・アントワネットがルパンとでかけるパリの街角のくだりや「ローマの休日」を思い出させ思わずしんみり。ラストシーンは映画にはない宝塚オリジナルだが、佐平次とおそめのこれからと2人のサヨナラをリンクさせたいい場面になっていた。

 

映画で石原裕次郎が演じた長州藩士の高杉晋作は望海風斗。藩士の中でも泰然自若。カリスマ的な存在の晋作を望海が、長州弁も鮮やかに肩の力を抜いて好演。異人館焼き討ちを画策する晋作と佐平次は懐中時計が縁で友情をはぐくみ、佐平次の生き方にも影響を与えていく。このあたりがこの作品のツボなのだが、これが早霧と望海の関係性でうまく体現されている。

 

この3人以外にも面白い役がいっぱいあり、誰から紹介していいか迷うほどだ。まず彩風の代役となった永久輝は、相模屋の主人伝兵衛(奏乃はると)と女房お辰(梨花ますみ)の息子、徳三郎。家業の参考にと吉原の遊郭に入りびたりの極楽とんぼで、さまざまな騒動を起こすが、幼なじみの女中おひさ(真彩希帆)が父親(真那春人)の借金のかたに女郎にされようとするのを見て、店の金を手にとばく場へ。永久輝は突然の代役にも関わらず、いかにも道楽息子といったひょうひょうとした感じをうまくだして好演。彩風の不在をカバーした。

 

相模屋に出入りする貸本屋の金造を演じたのはこの公演で退団する鳳翔大。おそめにそそのかされて心中することになり、結局は自分一人が海中へざぶん、腹に据えかねて死体を装って相模屋に運ばれてくる。なんとも情けない役だが、鳳翔の大熱演に客席は大爆笑だった。

 

おそめと張り合うこはるに扮した星乃もこの公演が退団公演。庭先での咲妃との大立ち回りや仏壇屋倉造(悠真倫)と息子清七(縣千)を手玉に取る「三枚起請」のくだりなど見せ場の多い役どころ。以前は清純な役が多く、そんなイメージだったが、このところ大人の役が続き、見事な集大成となった。

 

女役では相模屋のやり手おくまに扮した舞咲りんが、達者な演技で舞台の世界にリアリティーをもたらすことに貢献していた。ほかにも、血気盛んな長州藩士、久坂玄藩の彩凪翔や勘定を取り立てに行っては佐平次にけむに巻かれる気弱な喜助に扮した真地佑果など、雪組一丸となった抜群のチームワークが舞台全体を締めていた。さすが日本物の雪組。伝統は生きていた。それにしても本家の川島監督も、まさか宝塚で「幕末太陽傳」が、これほどうまくはまるとは思いもしなかったのではないだろうか。

 

一方「Dramatic“S”!」は、雪=snow、早霧、咲妃のSをモチーフにしたショー。舞台中央のイントレにゴールドに黒のストライプが入った華やかな衣装で登場。後ろの幕が開くと同じ衣装で雪組生全員が勢ぞろい。華やかなプロローグとなる。続いて、早霧と咲妃を中心としたブライアント・ボールドウィン振付によるソング&ダンスの場面になり、望海がメーンのパリの場面に、ここは新コンビ、真彩希帆がお相手。続くサンライズでは彩風に代わって永久輝がソロのダンスを披露、早霧、咲妃はじめ雪組全員が登場する中詰につなげた。そのあと再び永久輝が「スワンダフル」を歌いはじめ、この曲が展開して初舞台生のロケットへと発展していった。赤い羽根をつけた白い衣装の初舞台生は、円陣を組むとイチゴのショートケーキのよう。KAZUMI―BOYが振り付けたダンスはかなり高度で複雑なフォーメーションだが、それに良く応えた初舞台生のレベルはなかなかのものだった。

 

ロケットの後は、サヨナラ公演ならではの退団者への惜別のコーナー。咲妃、鳳翔、香綾しずる、桃花ひな、星乃、蒼井美樹に早霧を加えた7人で「絆」を歌いだすと、幕が上がり雪組生全員が、早霧らを包み込むように並び、「絆」を一緒に合唱する。早霧が雪組生一人一人を見ながら歌い続けると、客席は早くも涙、涙。ファン狂喜の古典的なサヨナラ公演だった。

 

続いて咲妃を中心にした娘役のナンバーでフィナーレがスタート、早霧を中心としたスタイリッシュな黒燕尾の男役の群舞、望海、永久輝が残って歌い継ぐうちに、純白の衣装に着替えた早霧と咲妃のラストデュエット(カゲソロは望海)へと続く。まさに王道のフィナーレだった。

 

パレードの後の挨拶で早霧は「絆の場面で雪組生一人一人を見ていると、舞台は一人ではできないことを再確認、思い出すと今も涙が出ます。初日から泣くなんて」と泣き笑いながら「千秋楽まで進化し続ける雪組をよろしくお願いします」と挨拶。総立ちの客席を前に「絆」の振りを伝授して明るく初日の幕を閉めた。

 

©宝塚歌劇支局プラス4月22日記 薮下哲司

 

◎…「毎日文化センター(大阪)」では「薮さんの宝塚歌劇講座」(講師・薮下哲司)2017年春季講座(4月~9月)の受講生を募集中です。毎月第4水曜日の午後1時半から3時まで、大阪・西梅田の毎日新聞社3階の文化センターで、宝塚取材歴35年以上の薮下講師による最新の宝塚情報や公演評、時にはOGや演出家をゲストに招いてのトークなど、宝塚ファンなら聞き逃せない楽しい講座です。初回の4月は26日が開講日。7月には宝塚大劇場での観劇会も予定しています。ふるってご参加ください。受講料(6回分18150円)。詳細問い合わせは☎06(6346)8700同センターまで。

4月26日はゲストに元月組の貴千碧さんが退団後初登場します。当日だけの特別受講生の募集は締め切りましたが、正規受講者は募集中です。

 

 

 


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