©宝塚歌劇団 (新人公演プログラムより)
星組期待の男役スター、天華えまが「桜華に舞え」に次いで主演したミュージカル「THE SCARLET PIMPARNEL」(小池修一郎潤色、演出)新人公演(生田大和担当)が28日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの模様をお伝えしよう。
「SCARLET―」はバロネス・オルツィ原作「紅はこべ」のブロードウェー・ミュージカル版を、小池修一郎が宝塚バージョンに潤色、演出、2008年に安蘭けい、遠野あすかによる星組で初演、大評判となり、2010年には霧矢大夢、蒼乃夕妃の月組で再演された人気作7年ぶりの再々演。新人公演は2008年が今回、本公演で主演している紅ゆずると月組再演でヒロインを演じた蒼乃、2010年は現月組トップの珠城りょうと退団した歌姫、彩星りおんが演じている。
今回、パーシー・ブレイクニーを演じたのは新研6のホープ、天華えま。端正な顔立ちに加え、滑らかな歌声、芝居心のある演技力で、めきめき頭角を現し、先だってのバウ公演「燃ゆる風」でも印象的な役柄を好演、人気急上昇中だ。この日の新人公演も天華人気に作品の人気もあって立見席も早々に売り切れとなった。
一本立ての大作とあって、新人公演は、例によってプロローグなどをカット、休憩、フィナーレなしで約2時間弱の構成。「1974PARIS」の緞帳前、下手からドゥ・トゥルネー伯爵(天翔さくら)上手からデュハースト(桃堂純)がせり上がり、二人の会話でスカーレット・ピンパーネルによる貴族救出の活躍ぶりを説明。緞帳が上がると舞台中央から真紅のマント姿のパーシー(天華)が登場。「ひとかけらの勇気」のワンフレーズを歌い、上手にはける間奏のあいだにマルグリット(有沙瞳)がショーブラン(遥斗勇帆)にメモを渡すシーンがインサート、続いて銀橋に回ったパーシーが歌の続きを歌うという要領のいい展開。続いてコメディフランセーズでマルグリットが歌う場面がカットされ、物語はいきなりサン・シール伯爵(夕陽真輝)が処刑される「マダムギロチン」の場面からとなる。11場の「図書室」12場「マリーのアトリエ」もカットされた。ナンバー的にはパーシーの「男とお洒落」とアルマンとマリーの「パリ便り」の部分だ。ストーリー的な流れはこれでもよくわかり、休憩がない分一気に見せ切った。主役クラスに歌唱力豊かなメンバーをそろえ、充実した新人公演という印象だった。
パーシーを演じた天華(本役・紅ゆずる)は、「桜花に舞え」の時とは、ずいぶん舞台度胸もついて、一回り大きくなった感じ。持ち味の華やかな明るさがさらに増した感じだ。ただ立ち回りなどでの男役としての力強さは発展途上、まだ雰囲気的にも女性を感じさせる優しさが勝っているが、それをパーシーという役にうまく取り込んで、天華の持ち味にしてしまったところがなかなかのものだった。芝居心は十分で、グラパンに変装するくだりも、初めて見る人には同じ人物とはわからなかっただろう。また、なめらかな歌唱が実に魅力的で、耳に心地よかった。今後の活躍に期待したい。
相手役マルグリット(綺咲愛里)の有沙は、雪組から移籍、星組での初の新人公演ヒロインとなった。演技力にはもともと定評があるが、今回は豪華なドレス姿にも助けられて、堂々たるヒロインぶり。知的で大人っぽい女性の雰囲気をうまくたたえていた。歌は「ひとかけらの勇気」「忘れましょう」などの大曲を、正確な音程で、表現力豊かに聴かせたが、やや声量がないのが損をしていた。
難役ショーブラン(礼真琴)を演じた遥斗は、前回の新人公演では犬養毅役(麻央侑希)を存在感たっぷりに演じ印象的だったが、もともとの得意分野は歌。今回は願ってもない大役で、鋭い眼光と堂々たる体躯による迫力で舞台を圧倒した。新人公演で遥斗ふんするショーブランのみカットされた歌はなく、すべてを朗々と歌いこんだ。特にマルグリットを思って歌う「君はどこに」の熱唱は聴かせた。望海風斗のような人気、実力とも充実したスターに育ってほしい。ただ、クライマックスのパーシーとの立ち回りは、天華とともに動きに切れがなく、さらなる工夫が必要、東京公演への課題にしてほしい。
この3人の他、今回、役が膨らんだロベスピエール(七海ひろき)には綾凰華が扮した。本役の七海同様、立ち姿が美しく、芝居心も十分の二枚目。前回「桜華に舞え」では紅が演じた隼太郎を丁寧に演じて印象的だったが、今回もショーブランの上役であるロベスピエールを貫録たっぷりに演じ、遥斗ショーブランを恫喝するくだりなど迫力満点で強烈なインパクトを与えた。一度、センターでの芝居も見てみたい。
ほかにパーシー軍団のリーダー的存在のデュハースト(壱城あずさ)は桃堂、フォークス(天寿光希)には夕渚りょうが配された。なかでも桃堂が、パーシーが信頼するに足る包容力のようなものをうまく表現していた。他のメンバーもそれぞれ生き生きと好演していた。
マルグリットの弟アルマン(瀬央ゆりあ)は極美慎。入団当初からひときわ目立つ容姿で注目されてきたが、若手ホープに当てられるおいしい役に大抜擢された。場面がカットされているので見せ場はあまりないが、くっきりした目鼻立ちで見映えがしたほか、実にさわやかに演じた。歌唱はこれからの課題という事に。その相手役マリー(有沙)には小桜ほのか。前回ヒロインを演じており、その経験からくる舞台度胸はさすがだった。
娘役ではデュハーストの婚約者シュザンヌ(夢妃杏瑠)がそれに続く役だが、天彩峰里が演じた。ルイ・シャルルは研2の娘役、澄華あまねが起用され、その初々しい雰囲気が王太子にぴったりだった。
終了後はまず桃堂がお礼の挨拶、天華へと繋いだ。二人ともに主題歌の「ひとかけらの勇気」をキーワードに挨拶。先輩たちが演じてきた作品への挑戦へのプレッシャーとやりがいを改めて感じながらの新人公演だったことを明かし、温かい拍手を浴びていた。
©宝塚歌劇支局プラス3月29日記 薮下哲司
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