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明日海りお×仙名彩世 花組新トップコンビがお披露目公演で絶好の滑り出し 「仮面のロマネスク」開幕

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     ©宝塚歌劇団

 

 

明日海りお×仙名彩世 花組新トップコンビ披露 全国ツアー「仮面のロマネスク」開幕

 

花乃まりあの2月退団を受けて花組トップ、明日海りおの新しい相手役に就任した仙名彩世のお披露目花組公演、ミュージカル「仮面のロマネスク」(柴田侑宏 脚本、中村暁 演出)とスパークリングショー「EXCITER‼2017」(藤井大介 作、演出)全国ツアーが、18日、梅田芸術劇場メインホールから始まった。今回はこの模様をお伝えしよう。

 

「仮面のロマネスク」は、フランスの作家ラクロ原作の恋愛心理小説「危険な関係」のミュージカル版。そのあまりの不道徳な内容に、長らく発売禁止処分になったことで知られている。宝塚では1997年に高嶺ふぶき、花總まり、轟悠らの出演によって雪組で初演、その後2012年に大空祐飛、野々すみ花、北翔海莉の出演で15年ぶりに宙組によって中日劇場で再演され、昨年9月には明日海りお、花乃まりあの花組全国ツアーで再々演され、これが高い評価を得、今回、明日海、仙名の新コンビ披露として再びお目見えすることになった。

 

稀代のプレイボーイ、ヴァルモン子爵と若き未亡人メルトゥイユ侯爵夫人の恋の駆け引きを軸にさまざまな男女の大人な関係を描いており、かなりきわどい話であることは確かだが、退廃的な生活のなかにピュアなものを求める人々の純粋な心を一時間半で浮き彫りにした柴田氏の脚本はさすがの力技。明日海、仙名に加えて、瀬戸かずや、柚香光、桜咲彩花、城妃美伶、水美舞斗ら新たな出演者がうまく役にはまり、まるでオペラを見るような見応えある舞台に仕上がっている。登場人物が複雑に絡み合い、時間と場所が転々としながら展開するため、台詞の情報量が多すぎて時系列がやや分かりにくいのが難だが、それを差し引いても十分素晴らしい濃厚な舞台だった。なかでも後半のヴァルモンとメルトゥイユの影を使った幻想のダンスシーンはまさに宝塚の美学だった。


 幕が開くと純白の軍服姿のヴァルモン役の明日海が登場。カーテン前上手へ。下手にメルトゥイユ役の仙名が登場、濃厚な愛のデュエットを歌ったあと柚香扮するダンスニーが登場、ことのあらましを執事のロベール(夕霧らい)に頼み、メルトゥイユ邸のサロンでの夜会へと展開していく。1830年のパリ。といえばフランス革命から40年後。再び王政が復活、貴族は夜ごと夜会を開き、庶民の不満は爆発寸前、革命前のような不穏な時代だ。「レ・ミゼラブル」とほぼ同じ時代の物語である。

 

女遊びは誰にも負けないというプレイボーイの青年貴族ヴァルモンを演じた明日海は再演とあって、もはや違和感はなく、自然と男役の色気がにじみ出て、ますます魅力的。女性を誘惑する仕草も堂に入ったもので、低音のなめらかな台詞とともに、明日海流の男役の美学を体得してきたようだ。柴田脚本のうまさもあるが、ただの遊び人ではなく、貴族の終焉を実感、時代を生き急ぐ焦りのようなものまでが透けて見え、深い読み込みに感心させられた。

 

一方、トップ娘役披露となったメルトゥイユの仙名は、持ち前の歌唱力と丁寧な演技力はもちろん、豪華なドレスをうまく着こなし、その圧倒的な存在感で見事なヒロインを演じた。したたかながら心の奥に寂しさをたたえるメルトゥイユという女性をこれまでの誰よりも品格をもってスケール感豊かに演じ、明日海を立てながらも対等に存在した。センターに立つとこうも変わるかと思わせるほどの見違えるほどのあか抜けた美しさにも感嘆。明日海とのコンビもうまくはまり、今後の作品展開が楽しみだ。

 柚香は、昨年の花組公演では芹香斗亜、初演で轟、再演で北翔が演じたダンスニー男爵。恋を知らないういういしい22歳の青年という役どころで、前半はユーモラスな雰囲気をうまく漂わせ、ラスト近くで、男としてぐっと成長した感じをがらりと変えて見せ、そのあたりの変わり身がなかなか見事だった。

 

前回、仙名が演じたヴァルモンとメルトゥイユの賭けの対象になるトゥールベル夫人役は桜咲彩花。「ME AND MY GIRL」のマリア公爵夫人が絶品だった桜咲だけに、楽しみな配役だったが、期待にたがわず見事なトゥールベルだった。思いがけないヴァルモンの誘いに心が揺れながら必死で抗う女心を見事に表現した。夫である法院長(高翔みず希)との「葛藤」以降、「仮面舞踏会」の場面の感情の昂ぶりは、鬼気迫るものがあった。

 

これら主要な登場人物4人のバランスが、前回の花組公演以上にぴったりで、これまでの宝塚版のなかでも一番しっくりときた。前回との公演が近い分、出演者も作品を熟知できたことが吉に出たようだ。内容的に家族連れが多い全国ツアーには不向きではないかと思ったこともあったが、愛の讃歌であることには変わりなく、なかでもラストのヴァルモンとメルトゥイユのダンスシーンの幻想的な素晴らしさがすべてを超越、そう思わせるだけの完成度があった。

 

ほかの出演者は、セシルの婚約者ジェルクールが瀬戸かずや。ヴァルモンとは違ったタイプのプレイボーイを、明日海とは対照的な大人の男の雰囲気をたたえて好演。ヴァルモンの従者アゾランを演じたのは水美舞斗。この役は、結構重要な役で、これまで軽んじられてきた感があったのだが、今回、水美が芝居心十分にかっこよく演じ、相手役のジュリーを演じた華優希とともにアクセントになっていた。またメルトゥイユ家の執事ロベールの夕霧らい(前回と同じ)とメイド頭のヴィクトワールの菜那くららも好演。ジル(春妃うらら)ルイ(飛龍つかさ)ジャン(泉まいら)の泥棒トリオがいいコメディリリーフだった。

 

 

一方、ショーは真飛聖時代の花組で初演、好評で再演もされた真飛の宝塚での代表作ともいうべき作品の7年ぶりのリニューアル再演。懐かしい主題歌と共に、明日海のさまざまな魅力が炸裂したショーとなった。ドリームバードたちが夢の扉を開けると奥から明日海扮する白ずくめの夢王子が登場、一瞬の早変わりで真っ赤なスパンコールの衣装に変身、強烈なラテンリズムの主題歌となり、そのまま客席おりへと展開。ファンも明日海の一挙手一投足にどよめく、まるでコンサートのようなノリの熱いショーだった。

 

明日海は、ビン底眼鏡の掃除夫RIO―BOYのコミカルな場面の天然の可愛さとアダルトなパッショネイトガイのカッコよさとのふり幅の大きさが魅力的。その明日海を中心に柚香と瀬戸がダブル二番手的な存在でトライアングルを描き、これに水美がからむと実にゴージャスな舞台となった。娘役は仙名が中心、マドンナセンニャやハバナクイーンなど歌にダンスに大活躍。芝居とは打って変わったはつらつとした歌と動きで周囲をリード、華やかさも増してセンターが実によく似合った。また、ビックこと羽立光来がその存在感を如何なく発揮、歌の実力も全開させていた。

 

とにかく、あっと言う間の55分、かつてのエキサイターのファンは懐かしさと相変わらずのノリの良さでノックアウトされ、初めて観る方にとっても花組とエキサイターが奏でる興奮の波に飲まれること間違いないだろう。

 

花組全国ツアー公演は、梅田を皮切りに、島根、福岡、浜松、静岡、横浜、秋田、八戸を巡り、4月9日に札幌で千秋楽を迎える。

 

©宝塚歌劇支局プラス3月19日記  薮下哲司

 


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