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星組新トップコンビ、紅ゆずる×綺咲愛里主演「スカーレットピンパーネル」開幕
星組新トップコンビ、紅ゆずると綺咲愛里の披露公演、ミュージカル「スカーレットピンパーネル」(小池修一郎潤色、演出)が、10日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの模様をお伝えしよう。
「スカピン」こと「スカーレットピンパーネル」は、2008年に安蘭けい時代の星組によって初演、その後2010年には霧矢大夢時代の月組で再演され、今回は7年ぶりの再演。紅は、初演時の新人公演で主演しており、思い入れもひとしおのトップ披露公演で、紅のほかに初演時に出演していた専科の英真なおきが同じプリンス・オブ・ウェールズ役、万里柚美、美稀千種も同じ役で出演、ほかにも壱城あずさはじめ役替わりで出演しているメンバーもいて、何とも懐かしい雰囲気の漂う公演となった。
バスティーユ陥落から5年後、革命の嵐吹きすさぶパリではジャコバン党による貴族狩りから彼らを救出する「スカーレットピンパーネル(紅はこべ)」という男の存在が世間を騒がせていた。バロネス・オルツィ原作の同名小説を舞台化したブロードウェーミュージカルを小池氏潤色による宝塚版として上演した2008年の星組初演は、パーシー、マルグリット、ショーブランのトライアングルラブの面白さにルイ・シャルル救出劇という宝塚オリジナルを加え、これにフランク・ワイルドホーンによる新曲「ひとかけらの勇気」の曲のよさが輪をかけてクリーンヒット。安蘭けいの代表作になるとともに、新たな宝塚の財産となった。昨年、ブロードウェーバージョンの上演があり、それはそれで宝塚版とは違った面白さがあったが、今回改めて見直すと、宝塚版がいかによくできているかを再認識させられた。オープニングの脱出劇からパリの劇場へ展開するそのテンポの良さ、宝塚の人材を巧みに使いこなした群衆シーン、さらに装置や衣装がグランドオペラのような豪華絢爛さでどこをとってもオリジナルを凌駕する見事さだった。
トップお披露目となった紅は、絵にかいたような容姿で、宝塚の男役のために生まれてきたような美丈夫。コメディエンヌとしても定評があり、立場を隠すためにさまざまな変装をするパーシー役はお手のもの。初日から「ピコ太郎」などのアドリブを爆発させ、満員の観客を爆笑に誘いながら、処刑される貴族を次々に救出するパーシーを、余裕たっぷりに演じ切り、センターでの活躍が見事にはまった。初日直前にのどの調子に異変を訴えて、舞台稽古が十分ではなかったと聞いていたので、歌がどうなることかと不安だったのだが、そんなことを微塵も感じさせない、よく伸びる歌声を披露、とくにプロローグの銀橋で歌った「ひとかけらの勇気」では、歌いだしの後の間奏で早くも割れんばかりの拍手が巻き起こり、紅のトップを待ち望んでいたファンの気持ちがよく表れた熱い初日となった。そんなファンの期待に応えた紅の縦横無尽の活躍ぶりが頼もしかった。ふとした時にでる台詞の大阪弁のなまりもここでは親しみに感じられた。
一方、相手役の綺咲愛里は、アイドル系のルックスで、これまでもそんな役柄が多かったので、知的な大人の女性であるマルグリットをどうに表現するか興味津々だったのだが、ロココ調の豪華なドレスとともに大人の雰囲気がよく似合い、思いのほか大健闘だった。台詞回しなども思わず初演の遠野あすかをほうふつさせた。初日は緊張していたのか、後半の聞かせどころである「ひとかけらの勇気」がやや不調だったが、これは今後の課題にしてほしい。
ショーブランの礼真琴は、歌、演技とも押し出しがあって申し分のない出来栄え。この役はどうしても初演の柚希礼音のイメージがあるが、見ている途中にそれを忘れさせてしまうパワーがあった。童顔でやや小柄であるというビジュアルのハンデは如何ともしがたいが、目力ときびきびした演技力で克服、なかでも二幕の幻想のソロは聴かせた。
初演に比べて役が膨らんだロベスピエール役は七海ひろき。役の上ではショーブランの上役で、この芝居では悪役だが、七海は少々かっこよすぎの感。ここは二枚目を捨ててほしい。オリジナルにはあり、前回の宝塚ではカットされていたソロが二幕にあり、ロベスピエールの心情を現したいい曲だが、そのあたりももう少し押し出しがほしい気がした。
あと、マルグリットの弟アルマンは売り出し中の瀬央ゆりあが起用された。目鼻立ちがくっきりとした舞台映えのする容姿が印象的。演技も素直で、アルマンにはぴったりだった。相手役のマリーは雪組から組替えした有沙瞳。初演では夢咲ねねが演じた役で、期待感あふれる起用。有沙も奇をてらわずまっとうに演じて好感が持てた。
アルマンをのぞくパーシー軍団7人は、デュハーストが壱城あずさ、フォークスが天寿光希、オジーが十碧れいや、エルトンが麻央侑希、ファーレイが紫藤りゅう、ハルが綾凰華、ベンが天華えまというめんめん。それぞれに台詞や歌で見せ場があるが、リーダー格は壱城と天寿、麻央がムードメーカーという感じ。いずれにしても星組の中堅、若手男役勢ぞろいの楽しいグループだ。新人公演でパーシーを演じる天華が演じたベンは初演では紅が演じていたというところに宝塚的な鍵がありそうだ。一幕ラスト、舞踏会でのカラフルな衣装が一段と派手になっていた。
演出的には装置がやや簡略になっていたのと、一幕終わりと二幕はじめのつなぎが変わっていたこと、ロベスピエールの部分に改変があった以外はほぼ初演通り。フィナーレのショーはかなり改変が加えられ、ダンスの苦手な紅のために、剣のダンスはほぼ礼がセンターで受け持ったが、そんな微笑ましい役割分担も含めて紅、綺咲、礼のトリオによる新生星組による再演は、見ごたえ十分だった。
初日終了後のあいさつは、万里柚美組長が「初舞台から星組で育ち…」と言って思わず涙でつまり、紹介された紅も思わず涙腺がゆるみ「ひとかけらの夢、ひとかけらの努力が、きょうこういう形でようやく実を結びました。泣くつもりはなかったのですが」とつづけ。満員の客席も思わずもらい泣き、「おめでとう!」のお祝いの声もかかり、感動の初日はいつまでも拍手が続いていた。
©宝塚歌劇支局プラス3月11日記 薮下哲司
雪組公演「幕末太陽伝」特別鑑賞会のお知らせ
○…宝塚のマエストロ、薮下哲司さんと宝塚歌劇を楽しむ「雪組トップコンビ・早霧せいな・咲妃みゆサヨナラ公演特別鑑賞会」(毎日新聞大阪開発主催)が5月11日(木)宝塚大劇場で開催されます。午後1時半からエスプリホールでの昼食会(松花堂弁当)のあと薮下さんが観劇のツボを伝授、3時の回の雪組公演「幕末太陽伝」「Dramatic“S”!」をS席で観劇します。参加費は13500円(消費税込み)。先着40名様限定(残数僅少です。定員になり次第締め切ります。お早めにお申し込みください)問い合わせは毎日大阪開発☎06(6346)8784まで。