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Channel: 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス
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完成度が上がった「星逢一夜」早霧咲妃コンビが名古屋でセミファイナル舞台を飾る!

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雪組・早霧せいな、咲妃みゆコンビのプレサヨナラとなったミュージカル・ノスタルジー「星逢一夜」(上田久美子作、演出)とショーグルーヴ「Greatest HITS!」(稲葉太地作、演出)の名古屋・中日劇場公演が4日から開幕した。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

「星逢―」は上田久美子氏の大劇場デビュー作として一昨年夏に初演、主人公たちの心の揺れ動きを濃密に描いてファンだけでなく評論家諸氏の心も鷲づかみにして同年の読売演劇大賞優秀演出賞を受賞した。再演が待望されていたが、早霧、咲妃の退団を前に中日劇場公演という形で実現した。出演人数は大劇場の約半分の40人だが、この作品のサイズとしてはこの方がぴったりで、台本を練り直し、細かい台詞の追加や、場面の変更などがさりげなくちりばめられ、さらに完成度が高くなっていた。

 

江戸時代中期、九州山間の架空の藩、三日月藩。藩主の次男坊紀之介(早霧)は夜ごと城を抜け出しては星の観測に夢中の少年だった。ある夏の星逢(七夕)の夜、紀之介は、蛍

村の少女、泉(咲妃)とその幼馴染の源太(望海風斗)に手伝ってもらって星観(ほしみ)の櫓をくみ上げる。以来三人は、身分を超えて友情をはぐくんでいく。しかし、藩主の長男が急逝したことから紀之介が跡取りとして、江戸の将軍家に出仕することになり、三人の立場は劇的に変化していく。

 

 初見したとき、紀之介が将軍吉宗の右腕となり、税法の改革を押しすすめるなか、三日月藩の窮状が分からないわけではなく、立場が変わればずいぶん非情な男だなあという気持ちが起こらないわけではなかったのだが、今回改めてみて、その辺が非常に納得のいくような形に書き換えられていて、さらに切ないストーリーになっていた。わかっていながら自分の故郷の藩だけに特例措置をとることができず、幕府と藩の板挟みで苦悩する紀之介の心情を丁寧に表現、源太との一騎打ちも最初は木刀で始まり、打っても打っても立ち上がる源太に、晴興(紀之介)が仕方なく刀に持ち替えてしまう、そのあたりの心の動きも見事だった。紀之介、泉、源太の究極のトライアングルラブは、身分の差という抗うことのできない現実の前でなんともはかなく切ない。ラストシーンの少年時代の無垢な三人の笑顔が深く心に焼き付く。改めて宝塚史上に残る名作といっていいだろう。ただし、誰が演じてもいいという作品でもないというのも微妙な事実、早霧、咲妃、望海という三人のバランスでこその感動でもある。その辺が宝塚の奥深いところだ。

 

 早霧の紀之介は、自由奔放な少年時代から、武士として成長した青年時代の凛とした風情への変わり身が鮮やか。「見惚れる」という言葉は大げさではなく早霧のためにあるようだ。

終盤近く、星観櫓での泉との別れのくだりで、「冗談だ」と軽くいなしながら目にいっぱい涙をためての芝居は、見ているこちらも思わず胸が締め付けられた。

 

 泉の咲妃も、父の仇であり、最後は夫の仇となった、紀之介をそれでも、受け入れてしまう、その熱い心情を、控えめながら体全体で表現、子供たちの声で、はっと我に返る、その変わり身の芝居心の巧みさ、舌を巻くうまさだった。「ロミオとジュリエット」新人公演のジュリエット役から5年弱、これほど、成長著しい娘役スターも稀有だろう。「幕末太陽伝」でどんな花魁姿を見せてくれるか、また退団後の活躍がいまから楽しみだ。

 

 望海の源太は、初演と変わらず、一貫して、心優しく実直で明るい源太.をそのまま体現していて、7年ぶりに故郷に帰ってきた紀之介に、自分との祝言直前の泉を差し出そうとする場面のけなげさも健在だった。望海の宝塚での代表作のひとつとして長く語られていくだろう。

 

 3人以外は主要キャストに役替わりがあり、それがすべて素晴らしく、作品のレベルを保ち、雪組の層の厚さを見せつけた。専科の英真なおきが演じた将軍軍吉宗は香綾しずる。退団した大湖せしるが演じた吉宗の姪で紀之介(春興)の妻となる貴姫に桃花ひな。香綾が演じた紀之介の養育係、鈴虫に真那春人といったところが主要なところ。なかでも香綾が、押し出しのあるくせのない台詞で貫録たっぷり、桃花も女役としてのあでやかさと押し出しで、大湖とは違った姫の大きさを表現、いずれも見事だった。永久輝せあの汐太はゆめ真音が起用された。

 

 ちょび康の彩風咲奈、側近の猪飼秋定の彩凪翔、氷太の鳳翔大は、そのままだった。月城かなとが演じた細川慶勝は煌羽レオが凛々しく演じた。

 

「Greatest―」は。前回のヒット曲をテーマにした雪組公演のショーを少人数用にアレンジしたもので、ゴーストバスターズが節分の豆まきの鬼退治になったのはアイデアだったが、トナカイのクリスマスソングメドレーはラテンメドレーになり、鳳翔大がマンボジャンボに扮して大活躍だった。みどころは咲妃が男役陣を従えて歌う「マテリアルガール」とロケット前にゆめが歌う「虹の彼方に」のカゲソロに乗せて早霧、咲妃が踊る息の合ったデュエットダンスだった。望海は「運命」の場面が見せ場、彩風が男役としてずいぶん存在感が増したのも特筆したい。

 

 8日昼の部に「宝塚歌劇イン中日劇場」鑑賞ツアーの面々と観劇したのだが、客席には専科の凪七瑠海、華形ひかる、月組の美弥るりか、朝美絢、光月るう、宇月颯、さらに東京公演が終わったばかりの瀬戸かずやら花組メンバーの姿も見え、舞台そこのけの華やかな客席だった。

 

©宝塚歌劇支局プラス2月9日記 薮下哲司


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