実咲凜音ラストステージ、宙組公演「王妃の館」「VIVA!FESTA」開幕!
愛月のベタな大阪弁、蒼羽の女装おかま役に場内大爆笑
宙組の娘役トップスター、実咲凜音のサヨナラ公演となったミュージカル・コメディ「王妃の館」(田淵大輔脚本、演出)とスーパー・レビュー「VIVA!FESTA!」(中村暁作、演出)が3日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの模様をお伝えしよう。
プロローグから客席からドカンドカンと笑い声が炸裂した。「王妃の館」は久々の爆笑コメディーだった。お話は、朝夏まなと扮する流行作家、北白川右京が、経営難の弱小旅行会社が企画したパリの高級ホテル「王妃の館」に宿泊する高額の光ツアーに参加、成田から出発するところから始まる。ところがこのツアー、なんと光ツアーと格安の影ツアーと二組のツアーを同時に同じホテルに宿泊させるというとんでもないダブルブッキングツアーであることがわかりてんやわんやの大騒動が繰り広げられる。浅田次郎氏の原作と同じ設定だが、この有り得ない設定がまず何とも滑稽、だがそれで笑わせるのではなくどちらかというと出演者それぞれのとんでもないキャラクターで笑わせる。宝塚歌劇というよりは吉本新喜劇のノリだ。
いくら何でもとこれはだめだろうと思っていたら、「王妃の館」を建立した太陽王ことルイ14世の亡霊が登場、ルイ14世と愛人ディアナの悲劇が浮き上がってくる。もちろんこれが原作でも肝なのだが、このあたりから、ようやく宝塚歌劇らしくなってくる。しかし、これも最初はあくまでコメディリリーフ的な登場で大いに笑わせ、ラストにそれまで別々に進行していた話がシンクロして心温まる大団円に到達する。最初はあきれながら見ていたが、着地はまずまずだった。最初にこの原作の舞台化を聞いた時、水谷豊主演の映画版がとんでもない駄作だったのでちょっとびっくりしたのだが、ルイ14世のくだりをうまく絡めれば宝塚なら意外と面白くなるかもとも思ったのも事実。これが大劇場デビューとなった田渕大輔氏の脚本は、ホテルでのダブルブッキングのドタバタはさらりと流し、ルイ14世のくだりで意外な展開を見せ、終わってみたらまさに喜劇の王道になっていたのはお手柄だった。シックでおしゃれな「グランドホテル」の後だから、何とも軽いのは否めないが、客席は大いに沸いていた。ただ、初日は満席ではなかったところに、観客の演目への期待度が現れているようで選択のシビアさをうかがわせた。好みは人それぞれだが口コミで面白さが拡散していくことを望みたい。
トップの朝夏の北白川右京は、新作「ベルサイユの百合」の構想を練るためにこのツアーに参加したが、わがままで高飛車な鼻持ちならない青年という設定。派手なスーツを着込み、インスピレーションがわくと急に体をくねらせる仕草が、おかしくて客席は大爆笑の連続。朝夏としても、これまであまり見たことがない役どころだが、結構楽しげにオーバーに演じ、それでいて男役としてのかっこよさも失わず、そのバランス感覚が絶妙だった。
サヨナラ公演となった実咲は、ツアー会社の社長で光ツアーを自ら引率する桜井玲子役。清楚でおとなしい役のイメージがあって、そんな役ばかりが続いていた感があったが、この実咲を見てドラマシティ公演「カナリア」を思い出した。こんな一面もあったんだという感覚。自然体でしかしきっちりとした演技はさすが実力派。普通のヒロイン役ではないので、作りにくかっただろうと思うが、彼女のラストステージを気遣ってラストはきちんとハッピーエンドを予感させてあり、かなり強引ではあるが気持ちよくみられた。
光グループは朝夏以外に、北白川の編集者、早見に純矢ちとせ。電気部品工場の社長夫妻に寿つかさと美風舞良、不動産王の金沢に愛月ひかる、その愛人ミチルに星風まどか。それぞれ一物ある人物たちだが、ガラの悪い大阪弁丸出しの愛月がその一言ずつに笑いを取り、宝塚を吉本化した張本人!星風のいつものおすまし顔を払しょくしたはっちゃけたギャル演技にも仰天。
影グループは元夜間高校の教師夫妻に一樹千尋と花音舞。うさんくさい詐欺師夫婦に凜城きらと彩花まり、一人で参加した警官の金沢に澄輝さやと。金沢と同室になる女装おかまの青年、クレヨンに蒼羽りくというめんめん。こちらもそれぞれにきちんと見せ場があって面白いが、ここで際立ったのはやはり蒼羽の女装。男性が女装しているという設定なので、なんともおかしくて、場内は一挙手一投足に笑いが起きた。澄輝とのすみれコードぎりぎりの珍妙なやりとりは、宝塚の舞台とは思えないが、まあ時代も変わったなあという印象。ラストのハッピーエンド?に観客大拍手だった。その蒼羽だが、プロポーション抜群で女装もキュートで思いのほか美しく、吹っ切れた演技で楽しげに演じて場をさらった。
この影ツアーを引率する戸川役は桜木みなと。ダブルブッキングをさとられないように影ツアーの面々をけむに巻こうとするのだがすぐにばれてしまう。原作では玲子とただならぬ関係だったと記憶しているが、舞台版は頼りない部下という設定。眼鏡をかけて小心者らしい感じをさわやかに表現。ほかにパリの現地ガイド、ピエール役の和希そら、キャバレーの歌手の風間翔と役が多いのも特徴だ。
一方、ルイ14世の亡霊を演じたのは真風涼帆。自分の館で、見知らぬ日本人が大騒動するさまを見るに見かねて肖像画から現代に飛び出し、ひょんなことから彼らにベルサイユ宮殿のツアーガイドを買って出るというとんでもない展開になる。真風がこのとんでもない設定のルイ14世を豪華な衣装をまとって堂々と演じ、それがまたなんともちぐはぐで笑いを誘う。愛人ディアナ役は伶美うらら。ぴったりの役どころで美貌が映えた。新人公演でヒロインを演じる遥羽ららが、2人の子供、プチ・ルイをかわいく演じた。
弾けた芝居のあとの「VIVA!-」はスーパー・レビューのサブタイトル通り、最初から最後まで人海戦術を駆使した華やかなレビュー。月組公演「CRYSTAL TAKRAZUKA」以来3年ぶりの登板となった中村暁の新作だが、これが伝統的というか、オーソドックスでありながら、ベテランならではの手練れのレビューで、超豪華な定食といった感じでなかなか見ごたえがあった。祭りがテーマとあってオープニングから極彩色のカーニバル。いきなり二階席までの客席おりがあり大いに盛り上がる。朝夏を中心とした華やかな総踊りのあと桜木みなと、華妃まいあ、星風まどかの3人の銀橋の歌と続くあたりもまさにツボを押さえた展開。そしてサヨナラの実咲を中心に真風との場面へとつないでいく。
そのあとの牛追いの祭りのシーンが見事。闘牛士たちと牛たちの激しい群舞が朝夏の闘牛士と蒼羽の牛との一騎打ちに発展していくのだが、朝夏のマントさばきに蒼羽がダイナミックなダンスで応じ、久々のダンスの名場面となった。振り付けはAYAKO。続くYOSAKOIソーランがまた壮大なスケールで、客席からの手拍子も加わって「ソーラン、ソーラン」の大合唱、拍手もひときわ高鳴る。
大いに盛り上がったあとは朝夏、実咲、真風を中心とした静かだがスケールの大きいダンスシーンで余韻たっぷりに締めくくり、澄輝と桜木が華やかなフィナーレに誘っていく。実咲が若手男役陣を従えて歌う場面から始まって、ダルマ姿の伶美をフィーチャーしたラインダンスと続き、燕尾服のダンスへ。これがまた大階段に崩したMの字で整列するという心遣いとユニークさ。ダンス自体の振付も斬新だった。振り付けは羽山紀代美。そして朝夏と実咲のラストデュエットは「TOPHAT」を思わせる、優雅で超絶技巧の鮮やかなダンス。実咲の純白のドレスが目に浸みた。歌にダンスに改めて実力を再認識させた実咲のラストステージだった。
実咲のサヨナラというイベント性をのぞけば、朝夏にトップとしての存在感が増したのが頼もしく、若手では芝居、ショーとも桜木が印象的に起用され、劇団の期待度が透けて見え、蒼羽の際だった個性が強烈なインパクトを与えた公演だった。
©宝塚歌劇支局プラス2月4日記 薮下哲司