劇団四季のディズニー・ミュージカル第6弾「ノートルダムの鐘」開幕
劇団四季のディズニー・ミュージカル最新作「ノートルダムの鐘」が、11日、東京・四季劇場秋で初日を迎えた。四季とディズニーのコラボは「美女と野獣」から数えてこれで6作目。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。
「ノートルダムの鐘」は、「レ・ミゼラブル」と同じヴィクトル・ユゴー原作の「ノートル=ダム・ド・パリ」のミュージカル化。ノートルダム寺院の鐘つき男カジモド、大助祭フロロー、警備隊長フィーバスの3人の男が、同時にロマの美女エスメラルダに恋したことから起こる悲劇を激動の中世パリを舞台に描いた人間ドラマ。サイレント時代から何度も映画化されているが我々世代はジーナ・ロロブリジーダがエスメラルダ、アンソニー・クインがカジモドを演じた「ノートルダムのせむし男」(1956年)を真っ先に思い出す。ディズニーは1996年にこれをアニメ化、今回の舞台はこれをもとにしている。
初演は1999年のベルリン。この公演は2000年に宝塚歌劇がベルリンで公演を行ったときにもロングラン上演中で、私も宝塚公演初日取材の後に観劇している。カジモドが住むノートルダム寺院頂上の鐘楼と地上の高低差をめまぐるしいセリのアップダウンで見せた驚異的なスペクタクルだった。劇場ロビーで当時まだ演出助手だった小柳奈穂子さんに遭遇したことも懐かしい思い出だ。四季が上演すると発表した時、そのことを小柳さんにメールしたところ「休憩時間に(劇場の売店で)買ったアイスがおいしかった」という返信がきて懐かしさがこみ上げたものだ。それはさておき、ベルリンでの公演は結局、再演されることはなく、今回の公演は全く新たなバージョン。2014年のサンディエゴでの公演をベースに、ブロードウェーよりも先に日本で上演された。ディズニー・ミュージカルとしては「アイーダ」以来の大人向けのミュージカルで、原作を大胆に改変しながらも、香気を失わず格調の高い作品に仕上げている。
舞台は1482年パリ。ノートルダム寺院のフロロー大助祭(芝清道)が、厳かに新年のミサを執り行う場面から始まる。バックの聖歌隊の圧倒的な合唱の厚みにまず飲み込まれ、これはいつものディズニーではないぞと身構える。そして大助祭と弟の過去の話が手短にフラッシュバックされる。遊び人の弟はロマの女性との間に生まれた長男を、死に際に兄のフロローに託す。フロローはあまりに醜いその子供を「カジモド(出来損ないの意味)」と名付け、ノートルダム寺院の鐘楼に幽閉、鐘つき男として育てる。カジモドがフロローの甥という設定は原作にもなくこのミュージカルのオリジナル。思い切った改変だが、これがユゴーの描こうとした宗教的な不寛容や三人三様の愛の形などを非常に分かりやすく浮き上がらせ、このあとのストーリー展開をさらにドラマチックなものにしている。
ロマの美女、エスメラルダ(岡本美南)をめぐってカジモド(海宝直人)フロロー(芝)警備隊長のフィーバス(清水大星)の四角関係は、それぞれの愛の形が現代にも通じるもので、切なく悲しい。また、大助祭がロマを排斥するくだりなどは、期せずして2016年の世界情勢をそのままあぶりだした。製作サイドの意図とは関係なく、物語の普遍性が、時代にフィットしたというべきものだ。「美女と野獣」「リトルマーメイド」「アラジン」に続くアラン・メンケン作曲の主題歌の数々もメロディアスでありながら重厚。二幕後半のクライマックスで歌われる感動的な「サムデイ」を筆頭に佳曲が多く、「アラジン」に続いて高橋知伽江氏の訳詩も効いている。ベルリン公演にあったガーゴイルたちのコメディリリーフ的な軽い場面もなく、ディズニー・ミュージカルとは思えないタイト感が特徴的。それが作品よく似合っていた。鐘楼の鐘が一斉に鳴りだす場面も圧巻だった。
6月までのロングランということで、主要キャストはすべてダブルかトリプルキャストが組まれているが、初日のキャストはいずれも実力派、特に歌唱はだれもが文句なしのうまさ。ベテラン芝が、単なる悪ではない人間味たっぷりのフロローを演じ切り、作品を支えた。四季のメンバーとは別に男女約10人の聖歌隊メンバーが参加、見事なコーラスを随所で聴かせるのも作品に大きな厚みがでた要因だろう。
6月までの東京公演はほぼ完売、このあと7月から京都劇場で公演、さらに来年4月からKAAT神奈川芸術劇場でのリターン公演が早くも決定した。
©宝塚歌劇支局プラス12月12日記 薮下哲司
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