©️宝塚歌劇団
雪組「ベルサイユのばら」新人公演&花組「Liefie(リーフィー)」
昨年10月の宙組公演以来宝塚大劇場での公演が中断していた新人公演が8月1日、雪組公演、宝塚グランドロマン「ベルサイユのばら」フェルゼン編(中村真央担当)から再開された。彩風咲奈が演じている主演のフェルゼンを演じたのは7年目で初めての主演となった蒼波黎也(あおは・れいや)。歌、ダンス、芝居と文句なしの安定感で舞台を盛り上げた。一方、同日同時間帯で、花組のホープ、聖乃あすか主演のロマンチックコメディ「Liefie(リーフィー)」(生駒怜子作、演出)が梅田芸術劇場シアタードラマシティで千秋楽を迎え、ライブ配信があった。
昨年8月の月組公演「フリューゲル」以来、11か月ぶりの宝塚大劇場での再開第一弾となった「ベルばら」新人公演は、本公演のプロローグ、フィナーレをカット、休憩なしで約2時間にまとめた縮小版。しかも、バスチーユの場面を前倒し、本編で彩風が歌った新曲「セラビ、アデュー」もカットするという大胆な改変版。アントワネットの新曲はそのままあったので理由は定かではないが、今回一番の目玉だった新曲がなかったのはやや肩透かしだった。
フェルゼンの蒼波は104期生。前回の「BBTT」前々回の「ライラックの夢路」新人公演ともに諏訪さきが演じた役ということからも、その実力のほどがうかがえるが、どちらかというと地味なイメージ。バウ公演「39ステップス」も手下の男2だった。しかし、歌、ダンス、芝居と文句なしの逸材であることは今回の舞台で証明された。冒頭の「愛の面影」のソロから安定した歌唱、175㎝の長身を生かした押し出しも十分で、長の期での初主演を堂々と飾った。センター慣れしていないというかどこかあか抜けないのが弱点で、課題はメイクだろうか。ちょっとした工夫でずいぶん印象が変わると思う。
アントワネット(夢白あや)の白綺華は107期生。整った容姿と三拍子そろった実力で音楽学校時代からヒロイン候補だったが、今回初主演でアントワネットを堂々と演じぬき、本領を発揮した。品格といい佇まいといいほぼ完ぺき。今すぐに本公演に立っても何の不思議もないほどだった。冒頭の華やかな登場ぶり、後半のチュイルリー宮から牢獄シーンに続く王妃の見せ場も芯の通った演技でつらぬき見事の一語だった。
注目のオスカル(朝美絢)の紀城ゆりや(105)も長いブロンドのカツラと軍服がよくにあい、まるで人形のよう。セリフも自然でまるで漫画から抜け出したようだった。アンドレ(縣千)は雪組の御曹司、華世京(106)。出番は多くないのだが、見せ方の巧さはさすがで芝居巧者の面目躍如たるものがあった。黒髪のカツラがよく似合って凛々しさでは一番かも。
芝居の巧さという意味ではメルシー伯爵(汝鳥伶)の霧乃あさと(106)、モンゼット侯爵夫人(万里柚美)の華純沙那(106)、グスタフ三世(夏美よう)の絢月晴斗(107)といった専科陣の役どころを担当した3人がしっかりと自分の仕事を全う、諏訪さき休演で急きょ本公演でも演じたジェローデルの律希奏(109)の健闘ぶりも頼もしかった。
ベルナール(華世)苑利光輝(108)の迫力、ロザリー(野々花ひまり)音彩唯の巧さ、ジャンヌ(音彩)の瑞季せれなの艶やかさもひときわ輝き、後半に登場した小公子の結翔恋(ゆいと・れん=109)の可愛さも注目だった。
シッシーナ伯爵夫人(杏野このみ)を演じた麻花すわん(104)は、薔薇の精のバレエや市民の女など数々の役を早変わりで務めたが、多くのメンバーが宮廷の貴族や市民を掛け持ち、それぞれ役になりきっていて「ベルばら」という作品の大きさを感じさせた新人公演だった。
一方、同日には聖乃あすか主演の花組公演「Liefie」がシアタードラマシティで千秋楽を迎えた。働き方改革とかでたった3日間の公演、これまでの外箱公演の中でも最も短期間。その分ライブ配信したのはよかったが新人公演と同日というのは再考の必要あり。
作品は、オランダの小さな都市の新聞社を舞台にしたロマンチックコメディ。街ネタ担当の新聞記者ダーン(聖乃)と交通事故で両親を亡くした幼馴染のミラ(七彩はづき)のういういしくも不器用な恋模様が彼らを温かく見守る周囲の人々を巻き込みながら展開していく。15年前の悲惨な事故が影を落としてはいるものの、小さな町の新聞社にしては編集部員が多すぎたり、時間に追われる新聞社の厳しさが全くなかったりとか、およそのんびりした現実離れした展開。作者の頭の中で生まれた善意にあふれたファンタジーとしてみれば、主人公が悩み苦しんで死に至るような暗い話よりはほのぼのとして罪がない。
聖乃は新聞記者として読者に何を伝えるべきか悩みながら仕事に恋に成長していく誠実な主人公ダーンをさわやかに演じていてイメージにぴったりの役に巡り合った印象。冒頭の新聞社やカフェなどでのたたみかけるようなせりふの応酬でも聖乃が巧みにリード、このメンバーのチームワークの良さが如実に現われていた。
ヒロイン、ミラの七彩は透き通るような歌声が素晴らしく、加えて清楚な雰囲気もあって魅力的。聖乃とのコンビがよく似合っていた。
二人をめぐる周囲の登場人物で一番重要なのはミラの祖父ヨハン。一樹千尋がベテランの味を発揮、舞台全体の底上げに大きく寄与していた。侑希大弥も屈折したレオ役で全体のアクセントになる役を好演、黒の短髪にインパクトがあった。ただこの役の掘り下げが甘くて宝の持ち腐れ感はあった。
ほかに新米の新聞記者役ピーターの鏡星珠、迷子の少年ヤンの初音夢が生き生きと役を自分に引き寄せて演じていたのが好印象だった。
美風舞良演じる新聞社のオーナーが、楽屋落ちネタで笑わせる場面など首をかしげる場面もあったが、ハッピーなフィナーレですべて帳消し。明るい気持ちで席を立つことができたのが救いだった。
©宝塚歌劇支局プラス8月3日記 薮下哲司