©️宝塚歌劇団
彩風咲奈、18年の宝塚人生をドラマティックに「ALL BY MYSELF」大阪公演
「ベルサイユのばらフェルゼン編」東京公演千秋楽の10月13日付で退団する雪組トップスター、彩風咲奈のサヨナラ公演前のドラマティック・リサイタル「ALL BY MYSELF」‐BLOOMS COLORFUL MEMORIES-(野口幸作作、演出)大阪公演が4日、NHK大阪ホールで開幕した。神奈川公演を終えて約二週間後の再開となったがクオリティーはさらにアップ。「いい舞台を見た」と心から思える充実のリサイタルとなった。
彩風扮する、もうすぐ長い旅に出る大スター、ミスター・ブルームが、楽屋に訪ねてきた編集者カイル(華世京)に、自分の舞台生活の軌跡を語りながら、初舞台から思い出の舞台を再現していくという二幕構成によるストーリー仕立てのショー。劇場内外のセットがしっかりできているほか思い出の場面の再現シーンも本格的で、野口×彩風コンビのショーとしては傑作「Odyssey」に勝るとも劣らない完成度。これまでの彩風を知っている人にとっては感涙物だが、知らない人もミスター・ブルームの軌跡として十分楽しめる内容になっていた。
初日の劇場前にたたずむブルームこと彩風が登場、主題歌「YOU WILL BE SOMEONE DREAM」を歌いだすと舞台は一変、レビューのフィナーレを思わせる華やかなプロローグが繰り広げられ、最初から高揚感があふれる。
ブルームの大ファンという設定の華世扮する編集者カイルが、ブルームの伝記本を書きたいとインタビューを申し込み、最初は嫌がっていたブルームが渋々、初舞台の思い出から話し出すという展開。初舞台当時はオレンジ、新人時代はブルーという風に時代によって色分けがしてあり、「シークレットハンター」や「カラマーゾフの兄弟」そして「ソルフェリーノの夜明け」「ロミオとジュリエット」などの懐かしい出演作からの主題歌を歌い継いでいく。早くから大役に抜擢されて悩む若き日のブルームは本人の前で苑利香輝(えんり・こうき)が演じる。
とまあこんな感じで、彩風の懐かしい舞台が次々に再現されていく。外箱公演のコーナーはパープルで「灼熱の彼方」「パルムの僧院」そして「ハリウッド・ゴシップ」と続き、本人は巨大なパネルの前で歌い、絢斗しおんら若手スターたちが作品の衣裳を着て踊る。
ブラックは当たり役「るろうの剣心」斎藤一。「悪・即・斬」をかっこよく。思い切り盛り上がったところで、華世カイルが「ターニングポイントとなったものはありましたか」と聞くと彩風ブルームが「海の見える街」と答え、装置もそのまま「SUPER VOYAGER」の名場面を再現、音彩唯が相手役を務めたこの場面が何とも素晴らしくてファンは号泣、ファンならずとも心が温かくなる思いだった。初演当時、ちょうど映画「ラ・ラ・ランド」の公開直後で、ノスタルジックでロマンチックな感覚が彩風にぴったりだったことを思い出した。三井聡振付の軽やかなステップは今見ても新鮮かつ高度なテクニックだった。
休憩をはさんで二幕はグリーンによるトップスター時代の主題歌メドレー。「CITY HUNTER」」から「FROZEN HOLIDAY」とつづけブラウンに変わって「ボニー&クライド」メドレー、そして「今となってはかなわない、見たかった作品」は日替わりで三作品あり、私が見た初日は「ガイズ&ドールズ」からの「Luck Be A Lady」だった。彩風のスカイ・マスターソン、これがなかなかカッコよく、実際、見たかったと思う。
レッドのラテンのあとのホワイトがクライマックス。「思い出に残る一作」にあげた「Odyssey」から「Stranger in Paradise」を彩風の金の奴隷、華世で囚われた王妃で再現。この場面はもともと彩風と和希そらだったが、コロナで全期間中止、再開された大阪公演では縣千が演じて評判となった。華世が女役で妖しい魅力を放った。
彩風→華世へのバトンタッチ的なシーンもあって、華世への劇団の期待が前面に出た構成だが、諏訪さきや眞ノ宮るいが振付家や客席係といった通し役のほか各場面のショーシーンに歌やダンスで大活躍して舞台の質を上げていて、彩風を含めて19人というコンパクトな人数の非常にインティメートな舞台となった。
こうして彩風の軌跡をみていくと、新人時代から現在まで、ゆっくりだが着実に舞台人として大きく花開き、スターダンサーとして独自の世界を作り上げたかが浮かび上がり、一番の充実期での退団であることがよくわかる至福の時間だった。
©宝塚歌劇支局プラス5月8日記 薮下哲司