天城れいん、堂々たる二度目の主演、花組「アルカンシェル」新人公演
花組期待のホープ、天城れいん主演によるミュージカル「アルカンシェル」~パリに架かる虹~(小池修一郎作、演出)新人公演(平松結有担当)が5月2日東京宝塚劇場で行われ、ライブ配信があった。宝塚大劇場での新人公演が見合わされ、東京1回だけになったうえ、直前に休演騒ぎがあって一週間延期になり、ようやく実現したとあって、出演者たちの一回だけに賭けるパワーがみなぎった公演で、見る側にもそれが伝染、緊張感あふれる公演となった。
「アルカンシェル」は、第二次世界大戦真っただ中のパリ。ナチスドイツに占領され、レビュー劇場「アルカンシェル」もナチスの統制下に入るが、ダンサーのマルセルと歌手のカトリーヌがレビューの灯を守り抜こうとする姿と、ナチスによるパリ爆破計画を防いだレジスタンスの活躍を、レビュー場面をふんだんに盛り込んで描いた歴史エンタテインメント大作。新人公演はレビュー場面二か所をカット、本公演では聖乃あすかが演じたナレーター役のイヴ・ゴーシュの語りをさらに増やして物語の流れをわかりやすく説明、フィナーレなしで役1時間40分にまとめた。
本公演は柚香光と星風まどかのサヨナラ公演ということで二人の見せ場をふんだんに盛り込んでいるが、新人公演はその意識を棄てているのでずいぶんすっきりした印象。その分、本公演で永久輝せあが演じているフリードリッヒの比重が高くなり遼美来の好演もあって別の作品を見ているような新鮮な印象となった。
主演の天城(104期)は「鴛鴦歌合戦」に続いて新人公演連続登板、前回も軽そうに見えて実は難しい受けの役を巧みに演じて感心させられたが、今回は歌、ダンス、演技と前回よりさらに充実、愛くるしい笑顔がなんとなく星組の暁千星に似てきたようにも思えて微笑ましく感じられた。ただ、今回様々な要因で公演が一回だけになったうえ延期になり、プレッシャーによる緊張が一気に押し寄せたのは当然で、演技にもそんな鬼気迫るものが感じられた。特に後半は、本公演が柚香だったことを忘れさせるほどマルセルと一体化していて見ていて思わず吸い寄せられた。「ヌーベルアルカンシェル」の銀橋ソロに万感の思いがこもっていた。
星風が演じたカトリーヌに起用されたのは107期の七彩はづき。「うたかたの恋」新人公演でマリー役に大抜擢以来、二度目の新人公演主演となったが、物おじしない堂々たる舞台度胸はなかなかのもの。「アルカンシェル」を代表するスター歌手という大役を、天城の胸を借りて星風にそん色のない存在感を生み出した。清楚なだけのマリー役とは違って、マルセルより一段と高い位置のスターオーラが必要な役どころでもあるが、背伸びすることなく自然体で滲み出せていた。
永久輝が演じたジャズ好きのドイツ軍将校フリードリッヒ役は106期の遼美来(りょう・みくる)が演じ、今回一番の新しい発見となった。「鴛鴦歌合戦」新人公演で帆純まひろが演じた劇中劇の平敦盛で登場、その美丈夫に目を奪われた覚えがあるが、今回も登場シーンからドイツ将校メンバーの中で際立っていて、たとえて言うと元花組の愛音羽麗の再来のよう。柚香、星風サヨナラ公演で次期トップに決まっている永久輝を押し出そうという役どころでもあり出番が多いうえ、フリードリッヒの場面はカットなし。前半の「スィング」のダンスシーンや後半の銀橋ソロなども生きていて、遼の好演もあっておおいに注目した。何といってもそのさわやかな個性が見ていて心地良かった。
フリードリヒの恋人役で星空美咲が演じたアネットは108期の花海凛(はなみ・りん)が抜擢された。雰囲気が元雪組トップ娘役の月影瞳を彷彿させるところがあり、可憐な容姿似合わず芯のあるしっかりした演技で期待に応えた。今後が楽しみな存在だ。
聖乃あすかが演じている進行役イヴ・ゴーシュ役は105期の美空真瑠が起用され、クリアな口跡で舞台全体を支配する重要な役どころを見事にこなした。本公演と違ってカット場面をセリフでつなぐ役も担っていて今回の新人公演で一番大変な役ではなかったかと思う。中盤にある銀橋ソロも聴かせた。
ほかペペ(一樹千尋)の鏡星珠(106)にバルツァー(輝月ゆうま)の夏希真斗(105)、ジョルジュ(綺城ひか理)の光稀れん(108)ロベール(帆純)の宇咲瞬(106)といったところが主な役どころ。それぞれが一回の公演に懸ける熱いものを感じさせたが、ロベール役の宇咲が役の人柄にも助けられた清々しい演技で好演。
娘役ではこの公演で退団する愛蘭みこ(104)のマダム・フランソワーズが長の期としての貫禄を感じさせ、ダンサー役で美羽愛(104)や湖春ひめ花(106)らとともに出演した星空美咲(105)の笑顔が印象的だった。
©宝塚歌劇支局プラス5月3日記 薮下哲司