凪七瑠海主演 雪組バウ公演「39Steps」開幕
専科の貴公子、凪七瑠海が主演する雪組公演、バウ・ヴォ―ドヴィㇽ「39Steps」(田渕大輔脚本、演出)が4月24日から宝塚バウホールで開幕した。彩風咲奈を中心とするコンサート「ALL BY MYSELF」朝美絢を中心とする「仮面のロマネスク」全国ツアーと雪組が三班に分かれた舞台のひとつで専科の凪七を主演に迎えての公演。
一時間余りの軽いミステリーコメディに休憩をはさんで30分足らずの短いショーがついてあわせて2時間10分ほど。肩の凝らない非常に見やすい公演で、凪七のソフトなキャラクターにもよるが、暗い作品ばかりが続いた宝塚にあって久々に楽しく明るい気分にひたることができた。
「39Steps」はイギリスのミステリー作家ジョン・バカンの同名原作の舞台化だが、巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督の出世作となった映画版が有名。日本では「三十九夜」として戦前に公開された。戦後にもリメイクされ「39階段」のタイトルで公開、その後、舞台化され日本でも翻案上演されている。今回はそれらとは別に新たにミュージカル化したもので、ストーリーは一幕で完結、二幕を芝居の舞台となったミュージックホール「アリアドネ」のショータイムという形にして芝居とショーにうまくまとめた。
第一次世界大戦前夜のイギリス。ロンドンはドイツによる侵略があるのではなどと様々なうわさが飛び交っていた。南アフリカで鉱山技師として働いていたリチャード(凪七)はダイヤモンドの採掘で一山当て、ロンドンに戻ってきていたが、ある日、暇つぶしに覗いたミュージックホールからアパートに戻ると、上の階に住む男(和奏樹)が瀕死の状態で訪ねてきて手帳を渡し「39Steps」という謎の言葉を残して倒れこむ。大家(莉奈くるみ)に犯人と間違われたリチャードはとっさに逃げ出すのだが……典型的な巻き込まれ型のミステリーがテンポよく展開していく。凪七が中国人占い師に変装したり、ラストのドタバタ大団円がとんでもないダンスシーンになっているなどコミカルな展開も楽しめた。
星組公演「バレンシアの熱い花」花組公演「激情」と各組全ツへの出演をはじめ、外部公演「テラヤマキャバレー」の死神役と枠を超えた活躍が続く凪七だが、この超クラシックなミステリーも本人の個性と作品の雰囲気が上手くマッチして、凪七ならではの男役の美学が横溢、安心して見て居られる心地よさがあった。
ミュージックホール「アリアドネ」の踊り子で、リチャードに好意を持ったことから一緒に事件に巻き込まれることになってしまうアリス役は野々花ひまり。新人公演のヒロインを二度務め、バウヒロインも「ほんものの魔法使」以来二度目。華も実もある実力派らしく、凪七を相手に堂々たるヒロインぶり。都会的な感覚というかこういう作品に不可欠なソフィスティケーションな味わいにやや欠けるが、これが出れば申し分ない。
物語に絡む主要な役は頬に傷のある謎の牧師役の叶ゆうり、手下の男1の壮海はるま、男2の蒼波黎也、アリアドネの常連客の男の奏乃はるとくらいで、あとは「アリアドネ」の歌手兼マネージャーのピーターの久城あす、バーテンのジャックに扮した紀城ゆりあに見せ場があった。なかでも叶が長身を生かして凄みをきかせインパクトがあった。
二幕は、アリアドネのショータイム。イギリス舞台のスパイものということで、もちろん007の登場。ジェームズ・ボンドばりの凪七が登場、シリーズのヒット作「ゴールドフィンガー」の主題歌からかっこよくスタート。その後は一転、女スパイ、マタ・ハリに扮して妖艶なドレス姿を披露、さらにMr.カチャに扮した中詰め風のコパカバーナの場面では、これまでに凪七が扮した役の数々を振り返るというスライドによる七変化も。そして、「ダイヤモンドは永遠に」で再び007シリーズへのオマージュを捧げてフィナーレ。ここでは壮海のソロが聴かせた。
芝居とショーの二本立てという欲張ったバウ公演は若手中心のワークショップ的な公演で何度か見たような気がするが、今回のように肩ひじを張らないリラックスした感覚の二本立ては珍しく、なんとも気分爽快だった。東京公演がないのが惜しい気がする。
©宝塚歌劇支局プラス4月25日記 薮下哲司