柚香光×星風まどか 大劇場とお別れ 「アルカンシェル」千秋楽
花組トップスター、柚香光と相手役トップ娘役、星風まどかが、花組公演、ミュージカル「アルカンシェル」~パリに架かる虹~(小池修一郎作、演出)千秋楽の3月24日、本公演後のサヨナラショーを最後に本拠地、宝塚大劇場に別れを告げた。トップ披露公演「はいからさんが通る」がコロナ禍で延期や中断が相次ぎ、その後4年間のトップ在位期間中、「アルカンシェル」も含めて大劇場公演のすべてが何らかの形で中断、一度も完走できなかった不幸なトップスターだったが、舞台のどこにいても際立つ強烈な個性と長い手足からくりだすしなやかなダンス力で一時代を築いた柚香の温かい人柄が舞台の隅々まで感じられる気持ちのいいラストショーだった。
本公演終了後、再び緞帳が上がると舞台中央には電飾で柚香のサインが浮かび上がり、中央セリの上には軍服姿の柚香が。サヨナラショーは極めつけ「はいからさんが通る」の当たり役、伊集院役の再現からスタート。桜満開のバックで「大正浪漫恋歌」「僕のハイカラさん」と2曲続けて披露。改めてカーキ色の大日本帝国陸軍の軍服がこんなにかっこよく似合うスターは柚香ぐらいだろうと変なところで感心してしまった。
続いて下手から濃いピンク色のドレスを着た星風が登場。彼女の花組デビューとなったレビュー「Fascination‼」の主題歌を銀橋を渡りながら軽快に歌い継ぐ。その間に舞台は転換して「Cool Beast!!」の世界に。聖乃あすかを中心に花組男役メンバーが黒にゴールドを散りばめた衣装でダイナミックに踊りだすと真っ赤な衣装の柚香が中央から飛び出し、星風も加わって銀橋で賑やかに歌い踊った。
続いて帆純まひろ、舞月なぎさ、愛蘭みこ、美里玲菜の退団者4人が「ENCHNTMENT」を銀橋で披露、舞台は変わって柚香と星風が登場、花火が打ちあがる中。二人に初コンビ作「元禄バロックロック」から「花火キラキラ」を。そして「TOP HAT」の名場面「Cheek to Cheek」の華麗なダンスデュエットを再現した。この公演は大阪のみの公演で東京公演がなかったのが本当に残念だった。この二人の見事なダンスは宝塚史上に残る名場面としていつまでも目に焼き付けておきたい。
星風はこのあと一人残って宙組時代の代表作「アナスタシア」から「in my dream」を情感たっぷりに歌いこんだ。アーニャのパリへの思いを募らせる歌だが、激しいダンスの後とは思えない豊かな歌声に感服。
続いて舞台は「二人だけの戦場」の一場面。柚香が名曲「理想の為に」を歌った後、柚香ふんするシンクレアと永久輝せあのクリフォードがクロイツェル基地に旅立つシーンのやりとりを再現、トレンチコート姿の二人の息の合った会話に思わず心が和んだ。
柚香がコートを脱ぎ捨てると黒の燕尾服。バックには花組男子が勢ぞろい。「はいからさんが通る」のフィナーレナンバー「黒い瞳」に乗せての一糸乱れぬ群舞が展開。引き続き「Fashionable Empire」から「Moment」そして同名主題歌と続いて柚香に花組全員がからんで花組ポーズを決めるなどにぎやかに華やかにサヨナラショーの幕を閉じた。
歌ありダンスあり芝居ありと欲張った構成だったが、どれも柚香らしいファンや組子への気配りがあってなんともさわやかなサヨナラショーだった。
最後の挨拶は星風が「毎日が夢の中のようでした」と振り返り、柚香への愛ある感謝の言葉とともに宙組時代の相手役だった真風涼帆にも「笑顔で背中を押してもらった」とお礼を言うのを忘れなかった。
柚香は男役の正装、燕尾服で階段から登場。同期生の専科、水美舞斗から花束を受けとり固く抱き合って、客席から大きな拍手が。「宝塚は青春のすべてでした。夢中で走り続け、ぬかるみにはまって前に進めない時もありましたが、前に進んでやり遂げた時にはいつも報われる景色がありました。キラキラとしたみなさんの目とのやりとりが幸せでした。何の悔いもありません。15年間の感謝を込めて心よりありがとうございました」と笑顔で挨拶。そのやりとげた表情がなんともさわやかだった。
鳴りやまぬ拍手に何度もカーテンコールがあったが、恒例の退団者だけのあいさつ時、星風が「たったひとつ心残りが、柚香さんとバク転しながら銀橋を渡ることができなかったこと」と言ったことを受けて、最後に星風と共に緞帳前に姿を見せた柚香が「二人ともバク転はできません」と笑顔で応じて、いつまでも別れを惜しむファンを和ませていた。終了後、柚香は会見を行い「燕尾服は大好きな衣装」と最後のあいさつに燕尾服を選んだ理由などを話したが、コロナ禍で中止が続いている花の道パレードは今回も行われなかった。
©宝塚歌劇支局プラス3月24日 薮下哲司