©️宝塚歌劇団
©️OSK日本歌劇団
©OSK日本歌劇田
月城かなと&海乃美月プレサヨナラ公演「GOAT」
華世京主演、雪組「BDTT」新人公演
翼和希主演!OSK「へぼ侍」開幕
7月7日をもって退団することを発表した月組トップスター、月城かなとと娘役トップ、海乃美月のプレサヨナラ公演、Grand Concert「G.O.A.T.」~Greatest Of All Time~(石田昌也監修、演出、三井聡構成、演出、振付)が17日、梅田芸術劇場メインホールで開幕、雪組のHappy New Musical「ボイルド・ドイル・オン・ザ・トイル・トレイル」(生田大和作、演出)新人公演が18日、東京宝塚劇場で行われ、ライブ配信された。加えてNHK朝のテレビ小説「ブギウギ」でブレイクした翼和希が主演するOSK日本歌劇団公演「へぼ侍」~西南戦争物語~(戸部和久脚本、演出)も18日、大阪・扇町ミュージアムキューブで開幕、この三つの舞台をあわせて紹介しよう。
【GOAT】
月城の退団前のコンサート「GOAT」は、ベテラン石田氏の監修のもと、元来ダンサーで振付家の三井氏が宝塚では初めて構成、演出もしたとあって、ちょっとこれまでになかった「面白い」コンサートに仕上がった。石田氏特有のべたな宝塚ギャグと三井氏のエレガントで洗練された感覚がうまく化学反応したといえそうだ。
月城がMr.Tと名乗る司会者に扮してこれから始まるコンサートをリードしていくという趣向から始まり、オープニングはこれまで月城が宝塚で出演してきたさまざまな作品からキャラクターを登場させてのお祭り騒ぎ。「グレートギャツビー」「ダルレークの恋」「ブラックジャック」「るろうに剣心」「BADDY」「フリューゲル」などなどから懐かしいキャラクターが次々に登場、月城ファンで満員の会場は一気に盛り上がる。
つづく宝塚コーナーでは月城が「エリザベート」からキッチュ、海乃が「ME AND MY GIRL」から「顎で受けなさい」を、さらに二人で「薔薇の封印」から「私のヴァンパイア」をデュエット。また月組男役おはこの「アパッショナード」を海乃がセンターになって娘役だけで踊るという三井氏ならではの華やかなナンバーも。
石田氏ならではのコント「月ノ塚音楽学校」のコーナーでは月組の下級生が芸名そのままで学生に扮し、読み方を月城先生に教えるという体で、ファンにも顔と名前を覚えてもらおうというなかなか憎いアイデア。月城先生が机をたたくと全員がぴょんとはねる反応を面白がった先生が、客席にもそれを要求、月城先生が机をたたくたびに観客全員が座席からぴょんとはねるという客席と舞台の楽しい交流も。
そんななか鳳月杏がセーラー服に機関銃姿であらわれて月城先生と対峙、あわやという場面もあってハラハラさせるが、その後、鳳月をセンターにセーラー服の女子たちが一瞬の引き抜きでミニドレスに変身、学生服からかっこよく変身した男子とセクシーな卒業タンゴに転換するくだりは息をのむ鮮やかさ。石田×三井の呼吸がぴったりあった場面だった。
とまあこんな感じで、月城を中心に月組メンバーの一体感を強調、月城、鳳月、風間柚乃の3人がデッキチェアで一人一人歌うアコースティックコーナーでは、客席も色が変わるペンライトでそれぞれを応援、ほのぼのムードが漂った。月城の温かい人柄が会場を包み込み、全体の印象としては娘役への配慮に厚い印象もあり、石田氏と三井氏の宝塚愛がうまくにじみでて、ラストソングの「銀の龍の背に乗って」まで幸福感にあふれたコンサートだった。
【BDTT新人公演】
一方、宝塚大劇場での公演が急きょ中止となった雪組「BDTT」新人公演が、東京宝塚劇場でやっと実現した。名探偵シャーロック・ホームズの生みの親コナン・ドイルがいかにしてホームズを生み出し、それによっていかに人生が変わったかを描いた作品で、映画監督の生みの苦しさを描いた映画「8 2/1」の作家版を思わせる生田氏の異色作。新人公演メンバーがこなしきれるか不安だったのだが、106期の実力派、華世京ならではの素直なアプローチで好感の持てる舞台に仕上がった。
華世はコロナ禍で新人公演がなかった時、バウ公演「ほんものの魔法使い」でいきなり大役に抜擢され新人離れした舞台度胸で大注目、新人公演が復活した「蒼穹の昴」で初主演して好演、先の全国ツアー公演では3番手格に昇格するなど大器の予感を漂わせている。2度目の新人公演主演となった今回は、またまた宝塚が中止となって一発勝負となったが、そんなプレッシャーを感じさせない落ち着いた舞台姿で大物ぶりを発揮した。甘いマスクに髭は、本役の彩風咲奈にも通じるものがあり、理想とは違った形で成功した作家のぜいたくな悩みを巧みに体現していた。
一発勝負とあって主要メンバーもここぞとばかりの熱演で見ごたえは十分。和希そらが演じているオープニングから登場するハーバートに扮した壮海はると(103期)は、雰囲気からして和希にうまくオーバーラップ、長の期らしい安定感で場をまとめた。
開巻30分あまりしてからの出番となるシャーロック・ホームズ(朝美絢)は、聖海由侑(103期)。ドイルを翻弄する役でもあるので、華世を相手に兄貴分的な雰囲気がよく似合っていた。
ドイルの妻ルイーザ(夢白あや)を演じた星沢ありさ(108期)は今回が初ヒロイン。可憐な容貌に似合わず堂々とした舞台度胸に驚かされた。娘役は歌も、演技も達者でいつでも出番OKのような逸材が各組に豊富にいて人材豊富、星沢もそんななかの一人として将来有望な一人とみていいだろう。
縣千が演じているインチキ霊媒師メイヤー教授役に扮したのは紀城ゆりや(105期)。休演している一禾あお(102期)の代役だが、新人公演主演経験者とあって余裕で役を作りこみ、舞台全体を和ませるムードメーカー的な役割を果たしていた。
あと印象に残ったのは新聞配達員ジョー(壮海)に扮した夢翔みわ(106期)のさわやかさ、編集部員ビアトリス(音彩唯)の華純沙那(106期)のうまさ。ドイルの妹ロティ(野々花ひまり)の白綺華(107期)に一瞬のきらめきが見えた。「FROZEN HOLIDAY」で雪の精に抜擢された苑利香輝(108期)は編集部員の一人アーネスト(聖海)。気のせいかひときわ大きくみえた。
【へぼ侍】
「ブギウギ」でUSKのトップスター役をさっそうと演じた翼和希が主演するOSK日本歌劇団のミュージカル「へぼ侍」は、明治初期、武家に生まれながら明治維新で大阪の商家の丁稚として奉公していた志方錬一郎が、西南戦争の勃発で自ら官軍に志願、出兵した先で出会った様々な人物や出来事を描いた坂本泉による松本清張賞受賞作の舞台化。昨年8月に初演されたものの再演だ。
舞台版「風の谷のナウシカ」(脚本)などを手掛けた戸部和久脚本、演出による舞台は全編をほぼ歌で進行する本格的なミュージカル仕立て。全員で12人というこぢんまりとした編成だが、翼はじめOSKの若手実力派を結集、力のこもった舞台をつくりあげた。この時代のものは近年、宝塚でも星組公演「桜華に舞え」があり、郵便報知の記者だった犬養毅が仙次郎という名前で登場(麻央侑希)したが、この作品でも壱弥(いちや)ゆうが仙次郎を演じ、錬一郎と薩摩で友情をはぐくむという設定になっている。
舞台は昭和12年、大阪御堂筋で繰り広げられる華やかなレビュー場面からスタート。大阪毎日新聞の記者井上(壱弥二役)が、実業家として成功した志方(翼)にインタビュー、回想形式で話が進む。西南戦争に志願した志方が配属された大阪鎮台は落ちこぼれ士族ばかりの集まりだった。出兵した熊本では戦いの無益さを知り、そんななか志方はお鈴(唯城ありす)という運命の女性と出会う。後半、敵方の大将、西郷隆盛(華月奏)と遭遇するシーンがクライマックスで、その言葉が錬一郎の人生を左右することになる。明治初期から昭和、激動の時代を逞しく生き抜いた男たちの生きざまがOSKの舞台に甦る。
歌でストーリーが展開するのでやや舌足らずの部分もあるが、出演者のあふれ出るパワーがそれを補って余りあった。翼は、歌唱、ダンス、芝居と三拍子そろった逸材でなによりそのさわやかな個性がまぶしい。上り坂の勢いが感じられる旬のスターだ。
相手役の唯城はリリカルな歌声が魅力的な可憐な娘役。今後の活躍に期待がかかる。官軍仲間の先輩格、松岡の天輝レオ、沢良木のせいら純翔(じゅんと)、三木の知颯(ちはや)かなでの3人も適役好演だが甘いマスクとクリアな歌声で知颯に注目した。
西郷と志方の出会いを映像で処理するなど凝った演出もあり、OSKの本気度がうかがえる舞台だった。大阪公演は22日まで、東京は2月1日から4日まで博品館劇場。
©宝塚歌劇支局プラス1月20日記 薮下哲司