©️宝塚歌劇団
礼真琴×暁千星 圧巻のダンスバトル!星組公演「RRR」開幕
星組トップスター、礼真琴が、二か月の休養後、歌もダンスもパワーアップ、元気に舞台に帰ってきた。星組公演「RRR×TAKAEAZUKA~√Bheem(アールアールアール バイ タカラヅカ~ルートビーム~)」(谷貴矢脚本、演出)とレビュー・シンドローム「VIORETOPIA(ヴィオレトピア)」(指田珠子作、演出)が5日から無事、宝塚大劇場で開幕した。
昨秋の不幸な出来ごとが引き金となって宝塚歌劇団の様々な問題が浮かび上がり、労基署の立ち入り調査を受けるまでに至り、110周年の記念行事はすべて中止、星組公演初日も当初予定されていた元日から5日に延期、新人公演も中止になるなど粛々とした初日風景となった。ただ、作品自体は休養明けの礼を中心に非常に熱のこもった仕上がりで、昨年来の星組の勢いがさらにパワーアップしたように感じさせた。
「RRR」は、2022年に公開、現在もロングラン中のインド映画の舞台化。英国統治下のインド、圧政を敷くインド総督に理不尽に連れ去られた少女を取り返すために立ち上がったゴーンド族の守護者ビームと独立運動を支援するために英国警察の内部に入り込んで機会を狙うラーマ、同じインド人ながら立場の異なる二人の友情と葛藤を描いた3時間余の超大作。自由を求めて立ち向かう民衆のパワーを映画ならではのCGを駆使した破天荒なアクションシーンやアクロバティックなダンスシーンで描いた痛快作だ。舞台化と聞いた時は一番の見せ場であるそのあたりをどうするのだろうと思ったのだが、ビームとインド総督の姪ジェニーとの愛を膨らませて全体をコンパクトにまとめ、ナートゥの場面は礼と暁を中心にダイナミックなダンスシーンで盛り上げ、自由への戦いというテーマはあえて深掘りせず勧善懲悪の娯楽アクションに徹し、見終わった後の爽快感を増幅させた。
「RRR」の意味は特になく、映画版の監督と出演者2人の頭文字をとった仮題がそのままタイトルになったもの。のちに内容に沿って「Rice(蜂起)」「Roar(咆哮)」「反乱(Revolt)」と副題がつけられた。宝塚版ならさしずめ「TRA」になるところか。
舞台中央、森の中に「RRR」の文字が浮かび上がり、インド風のメロディーが流れる中、紗幕の前に水の精、希沙薫と水乃ゆりが登場、踊り始めると早くも舞台はインドへ。
地方視察中の英国インド総督スコット(輝咲玲央)とその妻キャサリン(小桜ほのか)は休憩に立ち寄った村で歌の上手いゴーンド族の少女マッリ(瑠璃花夏)を気に入り、わずかな小銭と引き換えにペットのように連れ去ってしまう。総督の横暴に耐えかねた村人たちは彼らの守護者であるビーム(礼真琴)にマッリ奪還を頼むことにする。ここでいよいよ礼ビームが登場。縮れ毛に野性的ないでたち、いかにもパワーみなぎる精悍なイメージだ。
一方、首都デリーのインド総督府では、ビームがマッリ奪還を目指してデリーに潜伏したという情報はすぐに入り、ビームを生け捕りにすれば特別捜査官に昇進させるというおふれが出される。インド人ながらイギリス警察の忠実な警官を装うラーマ(暁千星)はその任務を自ら買って出る。
同じインド人ながら敵味方に別れた二人は、ある日、橋の爆破事件に巻き込まれた少年を協力して助けたことから運命的な出会いを果たし、お互い相手の素性を知らぬまま兄弟のような友情を誓う。
ビームはアクタルと名を偽り潜伏していたが、街中で偶然、総督の姪ジェニー(舞空瞳)と出会い、パーティーに招待される。ビームはラーマを誘って出席するがジェニーの婚約者ジェイク(極美慎)にあからさまに蔑視される。二人はインド人の誇りを示すため”ナートゥ”を踊りだし、屋敷中をナートゥの渦に巻き込んでいく。
この舞台の最初の大きな見せ場がこの”ナートゥ”の群舞シーン。ラーマに扮する暁のドラムの音で礼扮するビームが踊りだし、インド人の使用人たちがこれに加わって、イギリス人たちも巻き込んでいく。映画の振りを宝塚的にアレンジした御織ゆみ乃の振付が見事で客席も手拍子で参加、舞台客席一体となった激しい群舞が繰り広げられた。
ストーリーはこのあともほぼ映画通りに進行、三時間余りある映画を1時間半に凝縮、その分かなりあっさりとはしているが本筋は抜かりなく進行。ビームとジェニーのほのかなラブストーリーも彩を添える。
礼はクライマックスの長い槍をいとも簡単に縦横無尽に使った大立ち回りがもはや超人的。武術にはたけているが学識のなかった青年がラーマやジェニーと接することで徐々に目覚めていく過程も的確に表現、持ち前の歌唱力、ダンス力もフルに発揮して魅力全開といった感じ。
ビームの兄貴分的なラーマに扮した暁も甘いマスクをひげで精悍さを演出、礼と並んで”ナートゥ”を踊るとどちらをみていいか悩むほど。インド人ながらイギリス警察に入った15年前の過去のいきさつも回想シーンで加えられるなど、ビーム編とはいうもののほぼ同等の扱いのラーマを暁が直球勝負で好演した。まさに無敵のコンビといえそうだ。
イギリスの上流階級の娘ながら人種偏見を持たず自由に生きる女性、ジェニーに扮した舞空もとにかく生き生きとしていてとりわけ明るい笑顔が印象的。礼、暁とともにパーティーの場面でイギリス人女性たちのセンターで”ナートゥ”を踊るのも楽しい。
ジェニーの婚約者ジェイクに扮するのが極美。小顔で足が長くスーツ姿が抜群に良く似合うなど外見は好感度抜群だが、心根は偏見で満ちているというイギリス青年を微笑ましくもいやみなく演じた。
礼の仲間は天華えま、天飛華音、稀惺かずとの3人。それぞれに見せ場はあるがラッチュ役の稀惺がもうけ役。娘役ではラーマの許婚者シークに扮した詩ちづると誘拐されたマッリに扮した瑠璃花夏が印象的。詩の力強い純粋さ、瑠璃の可憐でリリカルな歌声といずれも適役好演。
映画版では憎々しい悪役だった輝咲と小桜の総督夫婦は悪役には違いないがことさら強調していなかったのにも好感が持てた。
一方「VIORETOPIA」は「龍の宮物語」「冬霞の巴里」「海辺のストルーエンセ」と幻想的な作風で注目を浴びる指田珠子氏の大劇場デビュー作。「万華鏡百景色」の栗田優香氏同様、芝居ではなくショーでのスタートとなった。栗田氏の「万華鏡―」は東京の変遷をレビュー化したものだったが、指田氏は、廃墟の中から劇場がよみがえるというテーマでストーリー性豊かなレビューを作り上げた。
いわゆる王道レビューの華やかさはなく、森の中の廃墟から始まる冒頭からなんだか暗いムード。昨年正月の「Enchantment!」の華やかさに比べるべくもない。礼の衣装もずいぶんみすぼらしい。やがて劇場がよみがえり礼はレビューの青年として改めて登場、やっとレビューらしくなる。ただ衣装や装置に凝っているもののいまいち華やかさにかける。その後もバックステージ、サーカス小屋、宮廷と場面は変わっていき一貫した幻想的なムードはいかにも指田独特の世界を醸しだすが、プログラムを読まないと場面の意味がよく分からないのが残念。礼、暁、極美、そして舞空というレビュースターが大勢いるにも関わらず存分に使い切れていない印象はぬぐえない。それでも蛇に扮した礼のダンス、シャンパンSに扮した暁の鮮やかなドレス姿の歌とダンス、フィナーレのサングラスをかけた群舞など見どころはあって星組パワーの勢いは感じられた。
この公演で退団する天華にはフィナーレ前に銀橋でトレンチコート姿による映画「カサブランカ」の主題歌「アズタイムゴーズバイ」のソロとパレードのエトワールというプレゼントがあったのは救いだった。大輝真琴も天華の銀橋ソロのシーンでダンスで彩を添えた。
礼を中心としてパワフルさがさらにレベルアップした星組公演。2024年宝塚の幸先のいいスタートになってくれることを望みたい。
©宝塚歌劇支局プラス1月7日記 薮下哲司