月城かなとがハンサムな「死神」に「DEATH TAKES A HOLIDAY」
月城かなと、海乃美月の月組トップコンビが主演するミュージカル「DEATH TAKES A HOLIDAY」(生田大和脚本、演出)が、東京シアターオーブで上演中。24日ライブ配信された。12日初日から18日までの公演が関係者の体調不良のため中止になり配信による観劇となった。
直訳すると「死神、休暇を取る」とでもいった感じのこの作品。イタリア人劇作家アルバート・カゼ―ラが1929年に発表、ブロードウェーで初演された戯曲のミュージカル化。舞台の序幕で説明がある通り、1914年に勃発した第一次世界大戦とスペイン風邪の流行で1920年までに全世界で一億人が亡くなったという現実をふまえ、多忙を極めた死神が休暇を取って人間の世界に現われ、愛という未知の感情を知るというお話。
1934年に名優フレドリック・マーチ主演で映画化され「明日なき抱擁」という題名で日本でも公開され、1998年にはブラッド・ピット主演で「ジョー・ブラックをよろしく」のタイトルで現代版としてリメイクされた。今回の舞台は2011年にオフブロードウェーで再演されたものの宝塚版。宝塚では「グランドホテル」「ファントム」でおなじみのモーリー・ウェストンが全曲を作曲している。
舞台は1920年代初頭のイタリア。ベネチアでの婚約パーティーからバカンス先の別荘に向かうグラツィア(海乃美月)はじめ父親のランベルティ公爵(風間柚乃)らが同乗する陽気な車中の風景から始まる。婚約者コラード(蓮つかさ)の乱暴な運転がもとで車が横転、グラツィアは道路に投げ飛ばされてしまう。そこへ死神(月城かなと)が登場、グラツィアの美しさに目を奪わるとともに人はなぜ死を恐れないのかを探るため、グラツィアを生き返らせる。家族は哀しみのどん底から救われるが、死神はランベルティ公爵の前に現われ、ロシアの皇太子ニコライ・サーキとして別荘を訪問するので歓待してほしいと脅迫。断れば禍を起こすという死神の頼みに公爵はその頼みを渋々受けいれる。
死神が人間に恋をするという「エリザベート」と同じ設定の骨格を持つ作品だが、死神が二日間だけ休暇を取って人間の世界に現われるという期限付きであるところがこの作品のユニークなところ。ハンサムな皇太子の突然の出現に、公爵家は上を下への大騒ぎとなり、グラツィアもサーキに変身した死神にすっかりのぼせてしまい、婚約を破棄する始末、さてどうなるかというコメディタッチのロマンティックミュージカルだ。
トップコンビ二人の役どころは、宝塚的にもうってつけで、見せ場も聴かせどころもたっぷりあって、よくぞ探してきたと思わせたが、問題は二番手、風間が演じた役どころ。ブラピ版では名優アンソニー・ホプキンスが演じた役で、非常に重要で大きな役ではあるがヒロイン、グラツィアの父親役。相変わらずの風間の巧さに何の不満もないのだが、これから宝塚を背負っていこうというスターが演じる役ではないと、見ていて最後まで違和感があった。それは、ダリオ男爵役の英真なおきとカップルを組んだ彩みちるが演じたエヴァンジェリーナ公爵夫人役にも言えることで、ラストに聴かせどころがあるとはいうものの最後まで老婦人のままだったのには少々驚いた。本人が楽しそうに演じていたのが唯一救いだった。
その二人の配役を除いては、海外ミュージカルとしては役が多く、それぞれにソロがあり、多くの出演者に気を使わなければいけない宝塚的にはなかなか居心地のいい作品ではあった。グラツィアの婚約者コラードの蓮や戦死したロベルトの親友エリック役の夢奈瑠音、それぞれの相手役となるデイジー役のきよら羽龍とアリス役の白河りりなどは、ここ最近の公演のなかでもベストな配役。白河など歌唱は別として月城とのタップシーンもあって頭抜けた活躍ぶり。召使フィデレの佳城葵の好サポートも見逃せない。
召使役の瑠皇りあ、ヤングロベルトの七城唯、洞窟のラブストーリーでダンサーの少年に扮した涼宮蘭奈などの若手にも見せ場があった。ただ、モーリー・ウェストンによる音楽が、どれも同じようなメロディーばかりで単調、コメディ的な快調なテンポを曲が邪魔をしているような印象があった。
トップスターとしての月城の魅力を引き出すには格好の題材ではあったが、現在の月組の陣容にふさわしい内容だったかどうかにはやや疑問も残るミュージカルだった。
©宝塚歌劇支局プラス6月24日記 薮下哲司