月組期待の星、礼華はる初主演「月の燈影」開幕
月組期待の星。礼華はるの初主演公演となったバウ・ミュージカル「月の燈影(ほかげ)」(大野拓史作、演出)が、14日、宝塚バウホールで開幕した。
「月の燈影」は、江戸時代後期、大川を挟んだ川向うと呼ばれる無法地帯のやくざ者、幸蔵と幸蔵に幼馴染の幸の面影を見出した火消しの治郎吉との友情の物語。2002年に当時花組だった彩吹真央と蘭寿とむのダブル主演のような形で上演された江戸人情話で、隅田川の花火や天神祭りなどを取り入れながら久々に江戸情緒満点の日本物が味わえる。
お話は治郎吉が火消し仲間の妹を助けに行った先で、さっそうと現れて場をまとめたやくざ者の幸蔵に、治郎吉が探し求めていた幼馴染の幸の面影を見て気軽に話しかけるところから始まる。幸蔵は「人違いだ」といって取り合わないが、治郎吉はあきらめきれず川向うまで幸蔵の行方を追う。幸蔵は幸なのかどうかという謎解きの興味となぜ幸蔵が川向うでカリスマ的なやくざ者になったかを解き明かしながら物語は展開していく。
かつて市川雷蔵や中村錦之助(萬屋錦之介)が大映や東映で主演していた任侠ものをほうふつとさせるハートウォーミングな人情時代劇。最後まで見ると「鼠小僧治郎吉」が誕生する前日譚であることがわかるが、初演も見ているはずなのだが、なぜか全く覚えておらず、初見同様で新鮮な舞台だった。大野氏の初期作品の中でも非常によく書けた作品だと思う。ただ、宝塚の男役としては主人公の幸蔵はかなりの存在感と演技力のいるハードルの高い役どころ。周囲から「あにい、あにい」と慕われるだけのカリスマ的な魅力が必要とされ、そんな魅力がないと絵空事になってしまう難役だ。これを初主演の礼華はさわやかな個性を武器に宝塚ならではの男役の美学でまとめあげた。初演の幸蔵役だった彩吹が演技指導に入っただけの成果は出ていたと思う。もう少し押し出しが強ければ申し分のないところ。
それにしても素晴らしいのは峰さを理が振り付けた日舞の群舞。今回、山村友三郎氏らが峰の振付を再現したが、江戸情緒たっぷりの日本物レビューの美しさがそこここで際立った。また初演と同じ役である川向うを仕切る地回り淀辰を演じた夏美よう。初演では今回、春海ようが演じている大八木を演じた悠真倫が、初演で一樹千尋が演じていた火消しの丑右衛門を演じるなど、初演を知る脇役が充実していてさすがに見ごたえがあった。
初主演の礼華をサポートするかのような専科陣や梨花ますみ、春海らベテランの好演とともに、若手陣もそれぞれに持ち役を好演。初演で蘭寿が演じた治郎吉を演じたのは彩海せら。蘭寿とは全く個性が違う清々しさで幸蔵を慕う弟分という雰囲気を作り上げた。幸蔵を追う間に、川向うの芸者・喜の字にほれ込んでいくと言う過程にも微笑ましいものがあった。
その喜の字を演じたのは天紫珠李。序章の艶やかなソロの日舞に目を見張ったが、川向うに流れてきた弟思いの気骨のある芸者を粋に演じ切った。このところ難役を次々にこなし、しかも初々しさをなくさない天紫のヒロイン像は貴重だ。
その弟、新助は一輝翔琉。クライマックスに大きく絡む役である新助を、生き生きとストレートに演じて強烈な印象を残した。幸蔵に片思いしている巾着切りのお壱役、花妃舞音の初々しいながらもいなせな雰囲気をよく伝えた好演だった。
久々に本格的な日本物レビューを見た思いで、紫陽花が咲き乱れる舞台を見た後、花の道の紫陽花が満開で、さらに印象を強めた舞台だった。
©宝塚歌劇支局プラス6月15日記 薮下哲司