紀城ゆりやが初主演、雪組「Lilacの夢路」新人公演
雪組のホープ、紀城ゆりや(105期)の初主演となったミュージカル・ロマン「Lilac(ライラック)の夢路」(謝珠栄作、演出)新人公演(野口幸作担当)が11日、宝塚大劇場で行われた。紀城の清新な個性が主人公に似合って新人公演らしい好感の持てる舞台だった。
19世紀初頭、産業革命に揺れるドイツ諸邦の貴族の5人兄弟が家を守るために奮闘する話は、新人公演の清新なメンバーによく合っていたが、ナレーションで済む時代背景の説明をセリフにするなど、ストーリーを運ぶための無理な作為が見え隠れして、一向に感情移入できないもどかしさは本公演を見た時と変わらなかった。
彩風咲奈が演じた長兄のハインドリヒに扮した紀城は、スラリとした長身でセンターが似合う華やかさを持ちあわせた逸材。歌や芝居はまだ若さがのぞき、話の分かるいい兄貴という感覚はよく出していたが、長兄として弟たちをまとめるという統率力にはまだまだ背伸びしているような感じがあった。ただ公演後のカーテンコールでこみ上げるものを抑えきれず涙と笑顔の混じった初々しい挨拶は、これからの紀城を期待するに十分の心意気が感じられ好印象だった。感情に流されず大きく育ってほしい。
夢白あやが演じた相手役のエリーゼはすでに2度の新人主演を経験ずみ、別箱公演でもヒロインを演じている同期の音彩唯。麗しいルックスとすでに歌の実力を何度も実証済みだが、今回は同期で初主演の紀城をサポートする形での共演。紀城とのデュエットでみごとなハーモニーを聞かせてくれた。
本役の夢白も103期でまだ新人公演の学年。白峰ゆりが演じているガレッティー夫人役で新人公演にも出演した。トップ娘役が新人公演に出演するケースは以前よく見られたが最近では珍しく、前半の出演部分をカット、後半のみの出演だったがセリフもあり雪組になじもうとする姿勢なのかその熱心さに感服した。
ドロイゼン家の兄弟役は、次男フランツ(朝美絢)が華世京(106期)、三男ゲオルグ(和希そら)聖海由侑(せいみ・ゆう103期)四男ランドルフ(一禾あお)乙瀬千晴(107期)五男ヨーゼフ(華世)が瞳月(とうづき)りく(107期)といった配役。
研4ながらすでに主演経験もあるフランツ役の華世は、華のある個性と押し出しのある演技で未来の大器ぶりを予感させ、ゲオルグ役の聖海も本役の和希そらをお手本に最上級生らしい緻密な演技で軍人としての矜持を巧みに表現した。ランドルフの乙瀬、ヨーゼフの瞳月は未知数ながらフレッシュな存在、瞳月のさわやかな個性が好印象だった。
エリーゼの幼友達で鉄職人のアントン(縣千)は苑利香輝(えんり・こうき108期)が抜擢された。明るく爽やかな個性で、期待の星というところだろうか。今後の活躍を見守りたい。
美穂圭子が演じている謎の人物、魔女は千早真央(104期)で、難役を精一杯熱演、歌唱にも力が入った。ハインドリヒに惹かれながらも無視され逆恨みするディートリンデ(野々花ひまり)は愛陽みち(104期)。結局はフランツと結ばれるというこの作品で一番起伏に富んだ面白い役を楽しげに演じていたのが印象的だった。
©宝塚歌劇支局プラス5月12日記 薮下哲司