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礼真琴、久々の男役でハツラツ、星組バウ公演「鈴蘭(ル・ミュゲ)」開幕
星組期待のホープ、礼真琴主演のバウ・ミュージカル「鈴蘭(ル・ミュゲ)」―思い出の淵から見えるものは―(樫畑亜依子作、演出)が21日から宝塚バウホールで上演中。今回はこの模様を報告しよう。
「風と共に去りぬ」のスカーレットや「ガイズ&ドールズ」のアデレイドとこのところ女役が続いた礼本来の男役での久々の主演とあって、チケット完売の人気公演となったこの公演、はつらつとした若さが身上の礼の魅力が堪能できるさわやかなステージだった。
中世フランス。幼い頃から慕っていた初恋の女性シャルロット(音波みのり)が、夫殺害の容疑で処刑されたことを知った青年リュシアン(礼)が、ことの真相を探るために故郷アルノーに帰国、前王の弟ビクトル(瀬央ゆりあ)の陰謀を突き止めるとともに前王の娘エマ(真彩希帆)との愛を勝ち取るまでを描いたコスチュームプレイ。樫畑氏のデビュー作だ。
幕開けは礼を中心に出演者全員がラインアップしての華やかなプロローグ。ダンスと歌でこれから始まる物語を暗示しつつ、場面は13年前にタイムスリップ。領主クロード(輝咲玲央)の妹シャルロット(音波みのり)とガルニール公の嫡子エドゥアールの婚約披露パーティー場面へと続いていく。婚約者不在の不思議なパーティーで、少年リュシアン(天路そら)は、あこがれのシャルロットに、無邪気に「将来、必ずあなたを迎えに来る」と語りかけるのだった。
なんだかそれだけで、そのあとの展開がなんとなく読めてしまうようなところがあって、ストーリー的な興味はあまりないが、何の苦労もなく育ったプリンスが、あこがれの女性の死をめぐって謎を解明、青年として成長していく冒険譚は、礼にぴったり。そのまま今の礼にもあてはまるかのようだ。座付作者のデビュー作としてはまずは手堅い出来といっていいだろう。
歌、ダンスはもちろん、演技的にも自信のようなものがにじみでて、センターでの存在感がますます大きくなってきた。男役としては歌のキーがやや高いが、なめらかに歌い上げられるとそれも気にならなくなるから不思議だ。ラストの瀬央との殺陣も、かなり高度なテクニックで、礼ならではの身体能力のすごさを発揮した。
相手役の真彩は、その豊かな歌唱力は、こういう清楚なヒロイン役で、さらに本領を発揮。おもわず聞き惚れるほどの歌声は感動ものだった。芝居心もあり演技が丁寧で、礼の相手役としては理想的ではないかと思った。今後の活躍が楽しみだ。うまく育ってほしい。
ビクトル役の瀬央は、初めての黒い役だが、ひげを蓄えた苦み走った表情が、礼とは対照的で、存在自体に大きさが感じられて、実に儲け役だった。
「Love&Dream」に中堅どころが多く出演しているため、こちらは若手が中心となったが、娘役ではシャルロットに扮した音波が、リュシアンのあこがれの存在というだけある落ち着いた美貌と気品を漂わせた見事なプリンセスぶりで、一日の長的な存在感を示してくれたのがうれしかった。セシリアの白妙なつも好演。
バルトロメの漣レイラやエルネストの紫藤りゅうといったところにもしっかりと見せ場があったが、二コラ役の拓斗れいの肩の力のぬけた演技が印象的。さらにアデル役の華鳥礼良とエチエンヌ役の極美慎のとぼけたカップルも面白かった。
ルイ11世役の一樹千尋とエドゥアールの母に扮したマルティーヌの万里柚美がしっかりと脇をしめたのは言うまでもない。
©宝塚歌劇支局プラス1月26日記 薮下哲司