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Channel: 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス
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踊るピアニスト!柚香本領発揮、花組公演「巡礼の年」開幕

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©️宝塚歌劇団

踊るピアニスト!柚香本領発揮、花組公演「巡礼の年」開幕

柚香光を中心とする花組によるミュージカル「巡礼の年」~リスト・フェレンツ、魂の彷徨~(生田大和作、演出)とショーグルーヴ「Fashionable Empire」(稲葉太地作、演出)が4日、宝塚大劇場で開幕した。ピアノの魔術師といわれたリストの愛と苦悩を描いたミュージカルとファッショナブルな帝国を舞台に洒落者たちが繰り広げるショーの二本立て。内容はともかくトップとして充実期にある柚香の魅力が全開。水美舞斗の二番手が確定、二人の息の合った芝居やダンスが存分に楽しめたのが一番の見どころだった。

「巡礼の年」は、19世紀前半のパリが舞台。超絶技巧で絶大な人気を得たピアニスト、リスト(柚香)だが、若くして上り詰めた座に虚しさを感じ、厳しい批判を書いたマリー・ダグー伯爵夫人(星風まどか)とともに逃避行する。だが、自分の生きる道は音楽だと改めて悟り、ピアニストとしての真の成功を目指して復帰、成功を収めて母国ハンガリーから貴族の称号まで受ける。しかし、時代は貴族の時代から庶民の時代に移り貴族の称号は何の価値もなくなっていた。自分らしく生きようともがき、結局得たものは……。かみ砕いていえばざっとこんなストーリー。

ハンガリー人としてのアイデンティティーにこだわった生きざまというにはやや説明不足だし、リストとマリーの切ないラブストーリーでもなく、水美扮するショパンとの友情も、永久輝せあ扮する男装の麗人ジョルジュ・サンドとの関係も中途半端。「巡礼の年」は、リストが人生を模索していた時期に作曲した作品集の題名で「魂の彷徨」というサブタイトルどおり人間として生きるという意味はどういうことなのか、というのがテーマらしいのだが、ドラマチックな山場がないのでストーリーとしてしまらないことおびただしい。豪華な装置、洗練された衣装など時代感覚の再現は見事なだけに残念な結果となった。

ただ柚香はピアノの弾き語りを含めて、舞台に存在するだけで時代の寵児という雰囲気があり、リストが当時の社交界で人気絶頂だったということを納得させた。なかでもふんだんにあるダンスシーンがどれも素晴らしく、ピアノは一小節だけ弾いてあとは踊るというピアノ対決の場面やハンガリーでの授与式の後で踊るサーベルのダンスなどまるで”踊るピアニスト”。星風との逃避行での幻想的なダンスシーンもロマンティックだった。というわけで、ストーリーはこの際、目をつぶって柚香のダンスを堪能することが最良の見方かも。

マリー・ダグー伯爵夫人役の星風。リストに夢中になる女性陣のなか唯一冷静に批評、男性の名前でコラムを書く時代の先端を行くマリーを理知的な雰囲気をたたえながらもしっとりと表現、一瞬にしてリストが恋に落ちるのを納得させた。とはいうものの作劇的には別離の理由が希薄でここはもう少しじっくりとしたラブシーンがみたかったかも。

ショパンの水美、リストのことを心配していろいろ気遣うくだりが柚香との実際の関係を伺わせた。柚香の傍らに水美がいるという、ただそれだけで見る方にも安心感が得られる親密な空気感が漂う。脚本に書かれたもの以上のものがにじみ出る。同期コンビのいいところだろうか。

永久輝のジョルジュ・サンド。昨年の「NICE WORK IF YOU CAN GET IT」以来の女役となるが、今回はマレーネ・ディートリッヒばりの男装の麗人で、冒頭いきなり柚香リストとの濃厚なラブシーンから登場。ジョルジュ・サンドといえばお相手はショパンというイメージだが今回はリストとの関係に焦点を当てていて、マリーとの逃避行からパリに戻るきっかけもサンドが誘導する。やや高いトーンのセリフでボーイッシュにふるまうサンドを永久輝がなんとも魅力的に演じた。

主要キャストの誰もが生き生きとしていて舞台に存在する。ただ全員がリストの生きざまに絡んでいるようで絡まないのがもどかしい。

ほかには新聞社の編集長エミールに扮した聖乃あすか、ロッシーニの一之瀬航季、リストとピアノ対決するタールベックの帆純まひろらが印象的な役どころ。

この公演で退団する音くり寿はリストのパトロン、ラビュルナルド伯爵夫人、飛龍つかさはマリーの夫。それぞれ二人にふさわしい役で適役好演。改めて退団が惜しまれる。

あとリストの少年時代を演じた美空真瑠が抜擢に応えた熱演。回想に出てくる子どもたちとラストの子どもたちは同じメンバーだがその愛くるしさには思わずほおが緩んだ。

ショー「Fashionable Empire」は、読んで字のごとくfashionableな帝国を舞台に繰り広げるアダルトな雰囲気の都会的なレビュー。まずはバロン(高翔みず希)に誘われたエントランスの男(永久輝)が歌い始め、選ばれし者が集まる帝国に踏み入るところから始まり、帝国の門が開くと奥から真っ赤なフードが付いた黒光りするメタリックな衣装で水美が現れ、同じ衣装の男女と群舞のあと、輝く衣装に身を包んだ柚香ふんする帝国のエンペラーが登場、華やかなプロローグとなる。

星風のファッションショー、美風舞良と音の二人が美声を聞かせる中、柚香と水美が女たちをめぐってダンスで対立するラビリンス、永久輝が銀橋で美女から一瞬で紳士に早変わりするなど、バラエティーに富んだ場面が連続。ショパンの「ノクターン」をフィーチュアした華やかな中詰めが終わったあとの、ビューティーズのラインダンス、水美と帆純が男女ペアで踊るクラブの場面も見逃せない。そして柚香、星風を中心とした「Fashionable Moment」がクライマックスとなる。聖乃を中心とした若手メンバーの場面のあとはフィナーレ。柚香をメーンにしたスタイリッシュな群舞、水美中心の群舞と続き、水美がアクロバティックなダンスを披露、最後は映画「カサブランカ」の主題歌「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」をバックに柚香と星風の濃厚なデュエットダンスで締めくくった。

パレードでは水美が初めて純白の二番手羽根を背負って登場、ファンの拍手がひときわ大きく響いた。恒例の初日あいさつで柚香が「水美の羽根」と紹介、水美にあいさつをうながし水美が「柚香トップのもと花組全員で頑張りたい」と思わず涙ぐみながらあいさつ、同期の絆に強さをみせつけた。満員のファンももらいなき、結局、この場面がこの日の一番のハイライトだった。

©宝塚歌劇支局プラス6月4日記 薮下哲司


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