©️宝塚歌劇団
※ややネタバレ気味です。ご注意下さい!※
月組新トップコンビ、月城かなと、海乃美月、大劇場お披露目公演「今夜、ロマンス劇場で」開幕
月組の新トップコンビ、月城かなと、海乃美月の大劇場披露公演、ミュージカル・キネマ「今夜、ロマンス劇場で」(小柳奈穂子脚本、演出)とジャズ・オマージュ「FULL SWING
!」(三木章雄作、演出)が、2022年の劈頭を飾って1日、宝塚大劇場で開幕した。心温まるファンタジーと華やかなレビュー、新しい年の幕開けにふさわしく笑って泣いて、明るくハッピーな2本立てだった。
「今夜、ロマンス劇場で」は、綾瀬はるか、坂口健太郎主演の同名映画の舞台化で、映画監督を目指して撮影所で働く青年・健司(月城)の前に、彼が恋焦がれていた古いモノクロ映画のヒロインであるお姫様・小雪(海乃)がスクリーンから飛びだしてきて、二人は恋に落ちるが小雪にはある秘密があって……というファンタジック・ラブストーリー。
「銀ちゃんの恋」の元になった「蒲田行進曲」や「キネマの天地」同様、かつての映画界へのオマージュに満ち溢れた作品で、撮影所で働く助監督の名前にもかつての映画人をもじった名前が数多く登場する。健司がほれ込む古い映画は戦前の「エノケンのチャッキリ金太」や狸御殿シリーズがモデルだろうと思われるが、ヒロインが「ローマの休日」のアン王女のようなドレス姿という設定は過去の日本映画では見たことがなく、映画を最初に見た時に随分白けた印象がある。当時のヒロインは大体があんみつ姫のような和装だった。そのあたりのウソを抵抗なくすんなりみることができたらこの舞台はすこぶる面白く、泣いて笑って、見事な宝塚王道エンターテインメントだった。
小柳脚本はほぼ映画を踏襲しており、幕開きは現代の病院の廊下。看護婦の天音(天紫珠李)が、同僚の栄子(白河りり)に、牧野という老人の患者が書いた「今夜、ロマンス劇場で」のシナリオを読んで聞かせるところから始まる。舞台はモノクロの映画のシーンとなり、登場人物が全員勢ぞろいしてとある国のお城で開かれている舞踏会がスクリーンに映写される。そしてその画面が現実の舞台となってプロローグとなる。衣装も装置もすべてモノクロというところがミソ。この幕開き、元の映画を見ていないとややわかりにくいが、後半への大きな伏線になっているので、しっかりと目に焼き付けてほしい。
プロローグが終わると、舞台は1964年の京映スタジオ。映画への情熱はあるものの失敗続きの健司の楽しみは、仕事帰りに下宿近くの映画館、ロマンス劇場で見る古い映画「お転婆姫と三獣士」。ところが館主の本多(光月るう)はこのフィルムを収集家に売ってしまうという。これが最後と食い入るように画面を見つめる健司の前に、雷鳴とともにヒロインの小雪がスクリーンから飛び出してくる。
モノクロの世界からやってきた小雪に健司が色を教えるところから二人の交流が始まり、二人は次第に親密になっていくのだが、小雪には現実世界に来るにあたって、人と触れると消滅するという約束事があった。
これに、撮影所の所長の娘、塔子(彩みちる)が健司に好意を寄せているという設定があり、小雪が飛び出してきた映画の世界のキャラクターが、小雪を映画の中に連れ戻そうと現実世界に追っかけてくるという宝塚オリジナルの話が加わり、舞台は予想外の展開に。
夢と現実を交錯させながら、夢に生きることの大切さを描き、月城扮する健司の不器用さに大笑いしながら最後は号泣で締めくくる、小柳マジック本領発揮の会心作だった。
月城の演じる健司はカッコいい男役像ではなくごく普通の夢見る青年だが、小雪を思うピュアな心情が月城の誠実な個性にぴったりで、観客の共感を独り占めにした。最後にはファンタジーらしく月城ならではの美しい見せ場があり、感動的に盛り上がって、なんとも後味のいいさわやかなエンディングだった。
相手役の海乃は、うわべは勝ち気でお転婆なお姫様だが、実は繊細な心の持ち主というところを徐々に明かしていくあたりの演じ分けが巧みで、後半からラストに向けての情感の表現が素晴らしかった。
鳳月杏は、京映スタジオの人気スター、俊藤龍之介。まさしく銀ちゃんのような役どころだが、鳳月が演じるといくらオーバーにキザってもただただカッコよく決まり、スターオーラ満開の好演だった。後半で健司の背中を押す場面も鳳月ならではの包容力で見せた。
暁は劇中映画で、小雪に強引にプロポーズする大蛇丸。小雪を追って現実世界にやってくる。健司の部屋の押し入れから登場、おおいに笑わせた後、小雪の秘密を健司に教える重要な役でもある。ネチネチヌルヌルという形容よりはずいぶんさっぱりした役作りだったが、楽しんで演じているのがよくわかってみていて気持ちがいい。
風間柚乃は健司の助監督仲間の山中伸太郎。「人情紙風船」などの名作を残して若くして戦死した名監督、山中貞雄をもじったネーミング。健司のシナリオが採用されて、悔しさを隠して応援する仲間の熱い気持ちを風間ならではの繊細な演技で表現、若さのエネルギーを体全体で感じさせた。
雪組から組替えになった彩みちるも健司に好意を持ちながらも口にはできない撮影所の所長の娘、塔子を好演、月組での初舞台を印象的なものにした。ほかに館主役の光月以下、三獣士メンバー(蓮つかさ、英かおと、柊木絢斗)などなどわきにいたるまで緻密な役作りで芝居の月組の面目躍如だった。
一方「FULL SWING!」は、舞台いっぱいの真紅の月のなかからトレンチコートにハットという究極の男役、月城がシルエットで登場する場面から始まるベテラン三木氏らしい遊び心満載のちょっぴりアダルトなショー。
ジャズがテーマで、数々の名曲に乗せてスタイリッシュな場面が展開していく。ジャズといってもモダンジャズではなくスタンダードなスイングジャズが中心で誰もが一度は耳にしたことがあるポピュラーなものばかり。月城の「ビギン・ザ・ビギン」「マイウェイ」や暁の「ナイト&デイ」鳳月の「ストレンジャー・イン・ザ・ナイト」などの曲がスターたちによって歌い継がれていく。月城、鳳月が歌で聞かせれば、暁がダンスで見せるといった形で、なかでも第2景「NO RAIN、 NO RAINBOW」の狂おしいまでのダンスが暁ならではのパワフルさで見ごたえがあった。中詰めのあとの「ミッドナイトイン巴里」は月城、海乃、鳳月と主要メンバーが出るストーリー仕立てのダンスシーン、陰のある男が似合う月城の見せ場だった。
月城、海乃月組新体制の初公演とあって鳳月、暁とそれに続く風間と男役の立ち位置を明確にし、娘役も彩、天紫そしてそれに続く白河りりときよら羽龍をプッシュ。フィナーレの月城×海乃、鳳月×彩、暁×天紫とトリプルカップルによるデュエットダンスのあとエトワールに風間が登場、周囲を白河、きよらが固めるという月組の今後を見据えた起用がそれを証明していた。
©宝塚歌劇支局プラス1月2日記 薮下哲司