小池修一郎演出、ディズニーミュージカル「NEWSIES」などOG続々
元雪組の咲妃みゆがヒロイン役を演じたディズニーミュージカル「NEWSIES」(小池修一郎訳詞、演出)元月組の黒木瞳企画、演出、元花組の蘭乃はなが出演した「甘くない話~ノン・ドサージュ」そして元星組の夢咲ねねが出演したミュージカル「OCTOBER SKY遠い空の向こうに」(訳詞、演出板垣恭一)と娘役OGが出演した舞台が立て続けに大阪で上演された。
★NEWSIES
「NEWSIES(ニュージーズ)」は、19世紀末のニューヨークを舞台に街頭で新聞を売る少年たちが、卸値を上げた新聞社に対して一致団結して戦った実話をもとにした物語。1992年に若き日のクリスチャン・ベールが主演したミュージカル映画の舞台版で、公開当時はヒットしなかったがビデオ化されて火が付き、2012年にブロードウェーで舞台化、トニー賞8部門にノミネート、アラン・メンケンの楽曲賞とジェフ・カルフーンの振付賞を受賞するヒット作となった。カルフーンといえば「グランドホテル」宝塚初演でトミー・チューンとともに演出を担当した人である。
小池氏の宝塚歌劇団理事退任後初の外部での新作で、もともとは昨年上演されるはずだったがコロナ禍で延期になり1年半ぶりの上演が実現したもの。「エリザベート」のㇽドルフなど小池氏とは縁の深い京本大我を主人公のジャックに迎え、ヒロインの新聞記者の女性キャサリンを咲妃、少年たちを応援するバーレスクのスター、メッダに元月組の霧矢大夢、新聞社の社主に松平健という配役。
新聞少年たちが大新聞を相手にストライキ、要求を勝ち取るという痛快なストーリーで、あのディズニーのミュージカルとは思えない展開。「美女と野獣」「リトルマーメイド」「アラジン」のアラン・メンケンの耳に心地よい音楽と少年たちのダイナミックなダンスシーンとともに3時間の上演時間が短く感じるほどだった。
王子様タイプの繊細な雰囲気だとばかり思っていた京本の腹のすわった逞しいジャックは少年たちのリーダーと呼ぶにぴったりの好演。しかしそれにもまして素晴らしかったのがヒロイン、キャサリン役の咲妃。チャーミングでありながら堂々たるヒロインぶりで場を圧倒した。映画では男性記者だったが、女性に変更した舞台版が効果的。
メッダの霧矢の華やかさ、ピューリッツア賞で有名な新聞王ピューリッツア役の松平
の歌と演技も見事な貫禄で舞台を締めた。現代に名を残す偉人がここでは悪役として登場、未成年労働者への搾取というアメリカの資本主義の行き過ぎに警鐘を鳴らした辛辣なミュージカルでもあった。
★甘くない話
女優で映画監督としても実績のある黒木が企画、演出した話題作。時は2021年12月26日、今年のクリスマスの次の日、とあるキッチンスタジオを舞台に展開する謎ときミステリーだ。
一年前、このスタジオで料理家の水原蘭子がそば粉のアナフラキシーショックで死亡、一周忌のこの日、赤い封筒の招待状を受け取った蘭子にゆかりの深い6人が集まってくる。警察は事故死と判断したが、この日の主催者という謎の男MrXは殺人だといい、この中に犯人がいると宣言する。
集まったのは役者志望の青年(村井良大)料理番組のプロデューサー、大木(市川九団次、税理士の優希(蘭乃はな)ら6人。それぞれ人の知られたくない秘密や過去があって、誰もが犯人にみえるなどミステリーのセオリーを押さえた展開。早々に謎の男が誰かわかる仕掛けで、謎解き二段階にして引っ張っていく。最後は思いがけない結末が待っているのもセオリー通り。人気料理家だった蘭子が仕事に厳しいことから様々な誤解を受けていたことがわかってくるあたりで、黒木本人のいいわけに聞えたところもありなかなか興味深いお話だった。
蘭乃は「GREATEST MOMENT」とはがらりと変わって眼鏡姿の地味な格好で登場。芸達者な共演者にまじって熱演。黒木は蘭子の声として出演するなど多彩なところを見せつけていた。
★OCTOBER SKY遠い空の向こうに
全米でベストセラーとなった元NASAの技術者ホーマー・H・ヒッカム・ジュニアによる自伝小説「ロケットボーイズ」を原作にした1999年の映画「遠い空の向こうに」のミュージカル版。2015年にシカゴで初演、各地をトライアウトしながらブロードウェー進出を狙う新作の日本初演。映画でジェイク・ギレンホールが演じたホーマーを次代のミュージカル界を背負う若手実力派の甲斐翔真が好演している。
1957年、ソ連が人類初の人工衛星打ち上げに成功、ウエストバージニア州の小さな炭鉱町コールウッドの夜空も通過した。遠い夜空にその姿を見た高校生ホーマー(甲斐)は自身もロケットを打ち上げたいと親友3人とともに「ロケットボーイズ」を結成、ロケットづくりに専念、ついに全米サイエンス大賞を受賞するのだが……。炭鉱を舞台に「リトルダンサー」のロケット版とでもいうべきストーリーが展開していく。
夢咲はホーマーたちを応援、励ます高校の教師ミス・ライリー役。挫折しかかったホーマーを「夢をかなえられなかったすべての人のために頑張りなさい」と歌で激励するシーンが印象的だった。ほかにホーマーのロケットづくりに反対する頑固な父親役の栗原英雄、優しく見守る母親役の朴璐美と実力派が脇を固めた。
©宝塚歌劇支局プラス11月15日記 薮下哲司