©️宝塚歌劇団
花組の柚香光、星風まどか新トップコンビ大劇場披露公演「元禄バロックロック」開幕
柚香光と星風まどかの花組新トップコンビ、宝塚大劇場お披露目公演、忠臣蔵ファンタジー「元禄バロックロック」(谷貴矢作、演出)レビュー・アニバーサリー「The Fascination!
~花組誕生100周年 そして未来へ~(中村一徳作、演出)が11月6日開幕した。忠臣蔵を下敷きにした奇想天外なファンタジーと花組誕生100周年を祝うグランドレビューの二本立てに新コンビ披露が加わって祝祭ムードいっぱいの華やかな公演だ。
「元禄‐」は「アイラブアインシュタイン」「義経妖狐夢幻譚」「出島小宇宙戦争」といった人を食ったユニークな作品を連発している谷貴矢氏の大劇場デビュー作。今回も忠臣蔵を題材に、架空のエドを舞台にしたお話で、ああまたかと、はずれかあたりか見るまではわからないと思ったのだが、今回はなんと大当たりだった!
漫画世代を超えてゲーム世代とでもいうのだろうか、こんな発想はなかなかできるものではない。「バック・トゥー・ザ・フューチャー」とトム・クルーズが主演した桜坂洋原作の「オール・ユー・ニード・イズ・キル」をいっしょくたにしてヒット映画「カメラを止めるな」の要素もちりばめたファンタジーの世界で展開する忠臣蔵の物語で、日本人なら誰もが知っているストーリーと登場人物を逆手に取って、誰も考え付かなかった全く新しいオリジナルを紡ぎだした。しかも柚香と星風の新コンビ誕生にふさわしい宝塚ファンが胸キュンになるようなツボもちゃんと押さえてあって、おぬしなかなかやるなというのが見終わっての第一印象。1時間25分というコンパクトな長さなのもテンポがあって久々に胸がスカッとする快作だった。
バロック文化花咲く「エド」は将軍ツナヨシの治世、エド城内で前代未聞の事件が起こった。赤穂藩主タクミノカミが松の廊下でコウズケノスケに切りかかったのだ。タクミノカミは切腹、赤穂藩はとりつぶしの沙汰が下される。舞台はそのタクミノカミ(聖乃あすか)の亡霊によるモノローグから始まる。
紗幕が上がるとそこは「エド」の下町。元赤穂浪士の時計職人クロノスケ(柚香)は、時を戻せる時計を発明、時を戻してはスリを捕まえて礼金をせしめ、賭場で大儲けしたりとしたい放題。そこへ妖しい美女キラ(星風)が近づき、クロノスケに謎めいたことを告げて去っていった。賭場で出会った赤穂藩の家老クラノスケ(永久輝せあ)はコウズケノスケには隠し子がいるという。キラがその隠し子だと知ったクロノスケは……。赤穂浪士の主君仇討ちの話にクロノスケとキラという架空の人物を設定、時空を超えて過去に戻ることで歴史を変えてしまおうという壮大なストーリーが展開していく。
江戸時代に似た設定だが、時を戻す時計をめぐっての大騒動ということで、衣装も小道具も時計がモチーフになっていて和洋折衷で無国籍、スマホはさすがに登場しなかったが犬のロボットは登場するなど、とにかくなんでもありの世界。しかし、芯になるクロノスケとキラのストーリーがしっかりしているので、そんなワンダーランドがテーマパークのような楽しい空間に見えた。日本物でも洋物でもない新しいジャンルかも。
柚香は、架空の人物ではあるものの赤穂浪士の一員であるという基本的な部分は押さえながら、このファンタジーの世界で息づくクロノスケを生き生きと演じていて、爽快な気分にさせてくれた。星風とのコミックなやりとりのちょっとした間の取り方とかも息があっていて思わず笑みがこぼれた。トップスターとしての余裕のようなものが出てきて見る者の心を和ませる。
キラの星風は、前半は謎が多く柚香を翻弄、わからない行動が連続するのだが、謎が解けてからはがらりと雰囲気も変わりその変身ぶりが鮮やか。簡単そうでかなり難しい役を星風ならではの情感で巧みに表現、柚香とのコンビネーションも抜群だった。
コウズケノスケは水美舞斗。ひそかに幕府転覆を策しているという悪の大物という設定になっていて、時を戻す時計の設計図をめぐってクロノスケとの剣の対決もあり、柚香とはほぼ互角の大役。大劇場での存在感がますます大きくなってきた。男役としての充実が著しい。
クラノスケの永久輝せあ、タクミノカミの聖乃あすか。忠臣蔵ではいずれも大役で、今回もドラマを動かす重要な役どころ。永久輝はクラノスケの一本気なところをストレートに表現して好演、聖乃は亡霊役でほとんどセリフはないのだが、いつも舞台の何処かで物語を見ているような不思議な感覚があるもうけ役だった。
もうけ役といえば将軍ツナヨシに扮した音くり寿。これまでの徳川綱吉像を根底から覆すようなツナヨシを音が強烈なインパクトで熱演。クラノスケの妻リクに扮した華雅りりかもワンポイントながら場をさらった。娘役ではコウズケノスケの手下のくノ一、ツバキの星空美咲とカエデの美羽愛も新進娘役らしい面白い役どころで印象に残った。。
ほかに男役ではこの公演で退団する優波慧のヨシヤス、飛龍つかさのヤスベエ、さらに新人公演でクロノスケを演じる希波らいとのヨミウリ(瓦版売り)にも見せどころがあってそのあたりの座付き作者らしい気遣いも気持ちよかった。何より見終わったあとの爽快感に勝るものはない。
一方、「The Fascination!」は花組100周年を記念、花組カラーのオールピンクで統一したプロローグから花をテーマに花組の歴史をつづった華やかなレビュー。記念作らしくこれまでの数々の花組レビューにオマージュを捧げた名場面の連続でいつもより10分長い1時間5分があっというま、久々にオーソドックスなレビューを堪能した。
みどころは宝塚レビューの代名詞ともいうべき軍服姿の士官と少女の「ミモザの花」の場面やニューヨーク公演で大浦みずきが踊った「タカラヅカフォーエバー」(1988年)の伝説のシーン「ピアノファンタジー」の全面的再現。
「ミモザー」は士官に永久輝と少女に音。「ピアノー」は、聖乃の歌うピアニストの場面から始まって、ガーシュインの「ラプソディインブルー」のメロディーに変わって、柚香の踊るピアニストと黒鍵のダンサー、星風、白鍵のダンサー、水美、永久輝らがダイナミックに踊るスタイリッシュなナンバー。30年前とは思えない洗練されたモノクロの装置のなか、柚香が、かつて大浦が踊ったダンスをしなやかに再現、ダンスの花組の伝統を今に受け継いだ。
中詰めは宝塚のテーマ曲「すみれの花咲くころ」で盛り上げ、ここからは帆純まひろを中心とした「エキサイター!」航琉(わたる)ひびき、舞月なぎさ、峰果とわで「マイ・アイドル」から「スポット・ライト」華雅と春妃うららで「ラ・ラ・フローラ」高翔みずきと美風舞良で「ル・ピエロ」から「僕の愛」星風、水美、永久輝で「オペラ・トロピカル」から「ある愛の伝説」と次から次へとオマージュ。柚香を中心に全員で「テンダーグリーン」から花組のテーマソングともいうべき「心の翼」を歌い継いでフィナーレへとつないだ。
フィナーレも「エーデルワイス」「ひまわり」「情熱の花」と花にちなんだ曲のオンパレード、柚香と星風のデュエットダンスの淡いグリーンの衣装が目に優しかった。
終演後、柚香は「花組100周年。100年前の花組のみなさんも厳しいけいこをされて舞台に立たれたからこそ今の私たちがあります。私たちがいまこうして舞台を迎えられて本当に感謝しております」などと先人への感謝の言葉をのべ「花組に星風まどかがきてくれました。これからもよろしくお願いします」と星風を紹介「千秋楽までさらにレベルアップして精進したい」と全力投球を誓っていた。
©宝塚歌劇支局プラス11月6日 薮下哲司