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Channel: 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス
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絶好調の雪組が全国に発進 早霧せいな主演「哀しみのコルドバ」全国ツアー開幕

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早霧せいな主演「哀しみのコルドバ」全国ツアー開幕

早霧せいな率いる雪組による全国ツアー公演、ミュージカル・ロマン「哀しみのコルドバ」(柴田郁宏作、中村暁演出)とバイレ・ロマンティコ「ラ・エスメラルダ」(斎藤吉正作、演出)が21日、大阪・梅田芸術劇場メインホールからスタートした。今回はこの模様を報告しよう。

「哀しみ―」は、19世紀末のスペイン、人気絶頂の闘牛士エリオが8年ぶりに初恋の女性エバと再会したことから起こるドラマチックなラブストーリー。1985年に峰さを理時代の星組で初演、1995年に花組の安寿ミラのサヨナラ公演として再演された。その後も2009年、花組の真飛聖が全国ツアーで演じている。ラストで明かされる運命的なストーリーもさながら、寺田瀧雄氏による主題歌が、哀切甘美しかも明快で耳に心地よい。まさに宝塚の名曲中の名曲だ。

もともと峰がトップ時代の豊富な星組男役陣に合わせて当て書きされたストーリーだが、まるでこの雪組全国ツアーのために書き下ろされたかのように各人ぴったりとはまった。一方、望海風斗のためにロメロの出番を増やすなど、かなり手直ししたことも奏功している。先の宙組公演「メランコリック・ジゴロ」に続いて全国ツアー作品選択のクリーンヒットといえよう。

「ルパン三世」「星影の人」「星逢一夜」と日本物が続いた早霧にとって久々の洋物でしかも極めつけのスパニッシュ。安寿ミラが早霧のために新たに振り付けたオープニングの闘牛士スタイルのソロのダンスが見もので、マントさばきがとにかくかっこいい。中身も早霧独特の硬質の男役演技が、エリオにうまくはまった。何度も再演されているので、ストーリーは省くが、愛を成就するには多くの人を傷つけることがわかっているのに、愛に突き進むことを決意するあたりの心情描写がホットだった。ヒット作連発で、演技にも自信のようなものがついたようだ。

咲妃みゆが演じたエバは、かなり大人の役で彼女には冒険だと思ったのだが、化粧や衣装の着こなしを工夫、台詞も落ち着いた発声で「星逢―」とは別人のよう。月組の下級生時代から天性の資質があったが、なかなか見事な変わり身だった。

エバのパトロンで早霧エリオと決闘することになるロメロに扮した望海は、ひげをたくわえた外見からすでに貫録たっぷり。早霧と並ぶと望海の方が上級生のような風情。ダンスは早霧、歌は望海と、きっちり分担を分けているのも心地よく、非常にバランスのいいトップトリオだ。

三番手の彩風咲奈はエリオの闘牛士仲間ビセント。司法長官(鳳翔大)の夫人メリッサ(大湖せしる)との恋をまっとうして闘牛士をやめるため、前半しか出番がないが、エリオの心にかぶさる重要な役。長身に闘牛士スタイルがよく似合い、濃い化粧も精悍さが漂い、なかなかインパクトがあった。

続く彩凪翔も闘牛士仲間のアルバロ。エリオやビセントの周りに常にいるが、特に見せ場はなくストーリーにもからまない。それより永久輝せあが演じたロメロの甥フェリーぺのほうが儲け役。エリオと婚約していたアンフェリータ(星乃あんり)をひそかに慕い、告白するシーンがあるうえ、一人だけ軍服姿で、それがまたりりしく際だった。

そのアンフェリータに扮した星乃が、薄幸のヒロインというはかない風情がよく似合った。ソロの歌があり、頑張っているがここはもうひと押しほしい。エリオの妹ソニアは星南のぞみだったが、こちらも清純な雰囲気をよく出していて目をひきつけた。

芝居的にはエリオの母親マリア役の梨花ますみとエバの母親パウラ役の千風カレンに見せ場があり、梨花の存在の大きさを印象づけた。

ショーの「ラ・エスメラルダ」は、つい先日まで東京公演していたばかりの新作で、を本公演の半分以下のメンバーで再現するというなかなかハードなショー。幕開きはヒスイの洞窟から二羽の蝶(望海風斗、咲妃みゆ)が登場、続いて海賊船にのった海賊(早霧せいな)が登場して華やかな総踊りになる。海賊の旅がコンセプトで、あとはスペイン、パリとノンストップで走りぬけ、中詰は賑やかなサンホセの火祭り。とにかくハイテンポで次から次へとめまぐるしい。全国ツアーらしく曲の決めポーズには必ずご当地弁での合いの手が入るうらいで仕掛けになっており、初日の大阪ではふんだんに大阪弁が飛び交った。じっくり歌を聞かせるとかダンスを見せるという場面がなく、あっという間にフィナーレになる。場割はほぼ本公演と同じで、出演メンバーも変わらないが、本公演で月城かなとが受け持っていたところを永久輝と天月翼、真那春人が担当、いずれにしても永久輝のポジションが大きくジャンプしたのが印象深かった。

早霧は初日カーテンコールで「私が宝塚に出会ったのも全国ツアー、端っこの席で食い入るように見たのを昨日ように覚えています。大劇場まで見に来られない人のために、宝塚の魅力を伝えたい」とあいさつ。宝塚伝道師に専念することを宣言していた。公演は12月13日の神奈川県相模原市文化会館まで続く。

©宝塚歌劇支局プラス11月22日記 薮下哲司


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