©宝塚歌劇団 (撮影:薮下哲司)
瀬戸かずやが潜入刑事役に!花組公演「マスカレード・ホテル」開幕
瀬戸かずや主演による花組公演、ミステリアス・ロマン「マスカレード・ホテル」(谷正純脚本、演出)が5日、梅田芸術劇場シアタードラマシティで開幕した。東野圭吾原作によるベストセラーで、キムタクこと木村拓哉主演によって映画化、3日にテレビ放映されたばかりのサスペンスミステリーのミュージカル化だ。役の設定などに少し変更がある程度でほぼ原作通り、原作を読んだ人や映画を見た人には犯人が割れているのがつらいが、それはそれとして、宝塚らしくマスカレード=仮面舞踏会をクライマックスにした谷氏らしいオーソドックスな舞台に仕上がった。
茶髪にジーパンという、やさぐれ刑事スタイルの瀬戸を中心にしたプロローグがなかなかかっこいい。さすがにここはキムタクの映画版にはない宝塚オリジナル。これまでどちらかというと地味な役が多かった瀬戸にとってもこれまでにないスタイリッシュな役どころ、しかし、そこはこれまで蓄えてきた実力をフルに発揮した。
続く本編の舞台はホテルコルテシア東京のロビー。関連がないと思われた連続殺人事件に、残された暗号から警察は次の犯行現場をこのホテルであると割り出し、大胆な潜入捜査をすることになり、捜査一課の警部補、新田浩介(瀬戸)が、フロントクラークに送り込まれるところから始まる。彼のホテルマンとしての指導を任されたのがフロントクラークのベテラン、山岸尚美(朝月希和)。山岸は、風貌も言動もホテルマンとは程遠い新田にホテルマンとしての心得を猛特訓、反発しあいながらも徐々にひかれあっていく。この2人のかけあいがメーンで犯人捜しは二の次なのが宝塚版のミソ。さまざまな怪しい宿泊客の接客を通して2人の関係が練り上げられていく。
細かい設定の変更はあるものの展開がほぼ原作通りで、登場人物も映画版と同じなのでキムタク以下、長澤まさみ、小日向文世、松たか子らの超豪華メンバーの映画版に比べて小粒感は否めず、東野圭吾原作にしては犯人捜しのミステリーとしてもかなり無理があって、わざわざ宝塚で舞台化する意味があったかどうかおおいに疑問は感じるが、瀬戸と朝月の丁々発止のかけあいとホテルという華やかな場所でのミュージカル仕立てということが宝塚にぴったりだった。
いずれにしてもこれから観劇する人に対しては、これ以上なにも書かないのがこの手の作品のエチケット。まずは何のてらいもないオーソドックスなミステリーだったということだけは言っておこう。細かいことだがホテルマンの制服の色がすみれ色だったが、これは制服としてはしまらないので、ここは紺色とか濃い茶色とかの方が引き締まったように思った。
新田警部補に扮した瀬戸は、新人公演を除いて二度目の主演舞台となるが、前述したようにこれまでにない役どころを、男役としての豊富な引き出しから巧みに抽出、自分本位の嫌味な刑事が徐々にホテルマンらしくなっていく過程を、自然体で演じ切って見事だった。
この公演から雪組から花組に里帰りした朝月も、膨大なセリフをよどみなくこなして、凛としたホテルウーマンを体現。最初のホテルメンバーと警察メンバーの顔合わせの場面でのセリフがやや物足りないような気がしたので、ここをびしっと決められるとその後の役がさらに大きく見えると思った。瀬戸とのコンビネーションは抜群。歌えて芝居のできる実力派なので今後の花組での活躍をおおいに期待したい。
この二人以外では、まずホテルメンバーでいうと総支配人が専科の汝鳥伶とベルキャプテンの杉下が帆純まひろ。警察メンバーでは捜査一課の係長、稲垣の和海しょうと新田のかつての相棒だった同僚、能勢の飛龍つかさ。お客側では登場順に片桐瑤子こと元劇団員の女性、長倉麻貴の音くり寿、新田の高校時代に教育実習生だった栗原の高翔みず希、ニット帽の男の南音あきらといったところが主要人物。
ホテルの制服姿でも帆純のさわやかな個性が際立ち、新田の元相棒、能勢はこの公演の二番手格の飛龍のためにかなり役を膨らませてあり、飛龍もそれに十分こたえた好演。長倉役の音くり寿も歌、芝居と実力派らしくひとひねりした役を的確に体現していた。
大阪公演は13日まで。東京は20日から27日まで日本青年館で。
©宝塚歌劇支局プラス1月6日記 薮下哲司