愛希れいか、さすがのクリスティーヌ「ファントム」大阪公演
真矢ミキ、久々の舞台&霧矢、夢咲共演 OG大活躍
元月組娘役トップの愛希れいかがクリスティーヌに扮したミュージカル「ファントム」~もうひとつのオペラ座の怪人~(城田優演出)元花組トップ、真矢ミキが久々に舞台に復帰した「正しい大人たち」(上村聡史演出)元月組トップ、霧矢大夢と元星組娘役トップ、夢咲ねねが共演したミュージカル「ビッグ・フィッシュ」(白井晃演出)元宙組トップ、大空ゆうひが出演した「鎌塚氏、舞い散る」(倉持裕演出)が相次いで上演された。今回はそれらOGたちの活躍ぶりをレポートしよう。
★ミュージカル「ファントム」~もうひとつのオペラ座の怪人~★
「ファントム」は、いうまでもなく2004年に宝塚で初演された「ファントム」の梅芸版で、こちらも4演目となる。今回は2014年版でファントム役を演じた城田優が主演とともに演出にも初挑戦するというので注目の舞台となった。昨年、宝塚でも雪組で再演されたばかりで、望海風斗と真彩希帆の豊かな歌唱がまだ耳に鮮明に残っている間の上演とあって、やや分が悪いと思われたが、装置、照明、衣装さらに演出にさまざまな工夫が施され、全く新たな作品に生まれ変わった。
例えば、幕開きのオペラ座前の広場の場面も、エッフェル塔が見える広場に装置が一新され、行きかうパリジェンヌたちの衣装もカラフルで、ストップモーションを使った振付と、最初からこれまでのイメージを払拭。街角の明るさとオペラ座地下の暗さを対比させた演出。新演出の最たるものは一幕ラストで、通常シャンデリアが落下するところをファントム自身の落下に変更したこと。これはさすがに見る者の度肝を抜いた。これは韓国版に倣ったとか。あと、エリック、クリスティーヌ、シャンドンの三重唱を追加して三人の関係をわかりやすくしたことも新趣向だった。
物語が動く二幕はオーソドックスに進み、後半はドラマチックに展開、城田演出は緩急のメリハリがはっきりしていてドラマがおおいに盛り上がった。
城田エリック、愛希クリスティーヌのバージョンで観劇したが、城田のエリックは、仮面をつけているときは音楽をこよなく愛する天衣無縫で無邪気な青年といったイメージ、それがクリスティーヌを知り、彼女に母の面影を見たことから、苦しい恋に悩む抜き、一気に変わっていくあたりを切ないまでに体現、まさに入魂の演技だった。愛希クリスティーヌは、パリの街頭で楽譜を売るオープニングの初々しい無垢な少女からファントムに歌の特訓を受けてオペラ座のプリマドンナとして華やかさを身に着け、歌唱も徐々にうまくなっていく過程を、芝居心たっぷりに的確に表現、歌唱も滑らかな美しいリリックソプラノで聴かせた。このバージョンではベラドーヴァ(母親役)と二役で、その部分でのバレエシーンはダンサー愛希の本領発揮、大きくしなやかな動きで魅了した。エリックに素顔を見せてくれと懇願して、仮面を外したエリックを見て逃げ出すシーンも演出に工夫が凝らされていて納得させた。
★正しい大人たち
フランスの劇作家ヤスミナ・レザによる4人芝居。息子同士がけんかをして怪我を負わせたことから双方の両親が話し合いで解決しようと会うことになる、最初はお互い探り合いながら冷静に始まった話し合いだったが、あることがきっかけで雲行きが怪しくなり、ついには…というお話。2006年の初演以来、世界各国で翻訳上演され大ヒットを記録、さまざまな賞を受賞している。ロマン・ポランスキー監督がジョディ・フォスター、ケイト・ウィンスレット主演で映画化、日本でも大竹しのぶ主演で初演されている。
子どものけんかの仲裁のはずが、大人同士のけんかに発展していくブラックコメディで、話し合いが始まって終わるまで約1時間半、舞台と実際の時間経過が同時進行で進むライブ感覚の芝居だ。子供同士のけんかを媒介に、大人の本音と建て前が、次々とはがされていき、その過程で現代の縮図が浮き彫りにされる。
真矢が、長年務めたTBS系のワイドショーを降板、5年ぶりの舞台復帰に選んだのは、怪我を負わされた息子の母親ヴェロニック。絵画に見識がある作家で、良識ある家庭を築いていることを強調するインテリ。金物商をしている夫ミシェル(近藤芳正)はそんなヴェロニックに頭が上がらない。一方、怪我を負わせた方の両親は中嶋朋子扮するアネットと岡本健一扮するアラン。話し合いの途中にアランの携帯電話が鳴り、製薬関係の仕事の話を延々と繰り広げるアランにアネットの怒りが爆発。ヴェロニックたちを巻き込んで事態は思わぬ方向へ。
出身母体が異なる役者4人が緊密な芝居を展開、それぞれの演技の質が違うことがこの芝居ではうまく作用して予想のつかないスリリングな舞台空間を生むことに成功している。真矢は、流暢で自然なセリフ回しが聞いていて心地よく、酔っ払ってからのちょっとオーバーな演技に宝塚時代に培った男役の華が見え隠れした。
★ミュージカル「ビッグ・フィッシュ」★
「チャーリーとチョコレート工場」「アリス・イン・ワンダーランド」などの異才ティム・バートン監督による2003年制作同名映画のミュージカル化。2017年に日本初演され、主要キャストはそのままに出演者をコンパクトにした再演が今回実現した。これがなかなか素敵なミュージカルに仕上がった。
エドワード・ブルーム(川平慈英)は、昔から自分の体験談を大げさに語り、聴く人を魅了しては得意がっていた。幼いころは父の奇想天外な話が大好きだったウィル(浦井健治)も大人になるにつれて父の話を素直に聞けなくなり、父が別の町に見知らぬ女性の名義で家を持っていることを知り、父子の溝は決定的なものとなる。しかし、父には息子に言えなかかったある秘密があった。
歌、ダンス、芝居とどれをとっても天性の資質を持つ川平が本領を発揮したミュージカルといっていいだろう。俳優ジェームズ・キャグニーの半生を描いたミュージカル(宮本亜門演出)に主演、その才能に驚嘆させられたのはもう30年ぐらい前のことのように思うが、以来全く変わらない風貌と身体能力、川平にためにあるような適役を見事に体現した。
霧矢は妻のサンドラ、夢咲はウィルの妻ジョセフィーンという嫁姑という間柄だが、川平を包み込むよう大きな包容力を見せた霧矢、自身の立場をはっきりとアピールする現代的なジョセフィーンを闊達に演じ切った夢咲。いずれも退団後のさまざまな出演作の中でも1,2を争う適役好演だった。
★鎌塚氏、舞い散る
貴族制度が続いている現代の日本という架空の世界を背景に、三宅弘城扮する執事・鎌塚アカシを主人公にしたファンタジックコメディー・シリーズの第5作。大空が、アカシがつかえる北三条公爵家の女主人マヤコ役で出演した。
北三条公爵が他界したため、未亡人のマヤコは連日パーティー三昧の生活。人員不足に悩んだアカシが旧知の女中、上見ケシキ(ともさかりえ)を助っ人に頼んだことが発端で、アカシのすれ違いラブストーリーが繰り広げられる。現実離れしたなんとも不思議なコメディーだが、三宅はじめ息の合った出演者の間とテンポで2時間10分を飽かせず笑いに包む。
大空は、裕福な公爵家の未亡人とあって豪華なドレスをとっかえひっかえ着替えて登場。クライマックスでは「いとしのエリー」を歌うというサービスまであって、なんだか楽しそう。ミュージカルや大劇場には目もくれず、二人芝居など独自のユニークな活動をしている大空にとっては珍しい部類の舞台だが、宝塚で培った華やかさと貴族夫人らしい品格が自然と体全体からにじみ出るのがさすがだった。
©宝塚歌劇支局プラス12月15日記 薮下哲司
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