朝夏まなと×真風涼帆 絶妙コンビ誕生!「メランコリック・ジゴロ」開幕
朝夏まなとを中心とした宙組による全国ツアー、サスペンス・コメディ「メランコリック・ジゴロ」―あぶない相続人―(正塚晴彦作、演出)とロマンチック・レビュー「シトラスの風Ⅲ」(岡田敬二作、演出)が、10日、大阪・梅田芸術劇場メインホールから開幕した。今回はこの模様を報告しよう。
「メランコリック・ジゴロ」は、第一次世界大戦後のヨーロッパの某国が舞台。田舎娘アネット(瀬戸花まり)と浮気したことがばれてパトロンのレジーナ(綾瀬あきな)に三行半をつきつけられ、文無しになったジゴロ、ダニエル(朝夏)が、親友のスタン(真風涼帆)の誘いに乗って、詐欺まがいの金儲けに一役買うことになるが、儲かるどころかそれがもとで15年前に生き別れたという妹フェリシア(実咲凛音)が訪ねてきたり、チンピラのバロット(愛月ひかる)に命を狙われたりと、とんだ騒動に巻き込まれるというお話。
1993年に安寿ミラ、真矢みきによる花組で初演されて息の合った二人のコンビぶりが評判となり、2008年と2010年に真飛聖、壮一帆のコンビによる花組で再演された。真飛、壮も洒落た大人のテイストで楽しかったが、これはもう、初演の安寿、真矢コンビに勝るものはない。と、思っていたのだが今回の朝夏、真風が予想以上の大健闘。朝夏が、学費のために仕方なくジゴロをしているという本来は真面目な?苦学生という雰囲気にぴったりなのと、真風扮するちゃらんぽらんなスタンが初演の真矢をほうふつさせるやんちゃぶりを発揮して、2人の関係になんともいえないおかしみが漂った。上り調子の2人の勢いがいい感じで舞台にでた作品と言えよう。正塚演出も近来になく快調で、客席も随所で笑いが爆発、ラストはちょっぴりペーソスもまじえて宝塚ならではの、なんともいえない心地よい劇空間を作り上げた。
朝夏は、トップ披露公演「王家に捧ぐ歌」を大過なくやり終えた自信が身体全体にみちあふれ、得意のダンスの軽やかさに加えて歌も高音までよくのびて絶好調。台詞の口跡もずいぶん改善された。トップという重責を担うと、自ずからセンターオーラが漂い、気構えから変わってくるのだなあというお手本のようだ。遺産相続人アントワンになりすましたことから実咲扮する妹フェリシアが出現、戸惑いながらもほのかな愛に変わっていく様子を、包み込むように実にうまく自然に表現した。
一方、相棒役スタンの真風も、宙組に異動した最初が「王家―」のウヴァルド役が、二番手とはいうもののさして大きな役ではなかったことから、その余力をここに一気にぶつけたような弾みぶり。正塚演出特有の台詞の間の取り方も見事で、朝夏との絶妙のコンビぶりだった。カラーは違うが、硬軟のコンビという意味では安寿、真矢に似ているのではないかと思った。今後が楽しみなトップ、二番手コンビになりそうだ。
フェリシア役の実咲も、何をやらせてもぐずでのろまだが、何とかしてやりたいと思わせるピュアで可愛い田舎娘を実にうまく演じた。朝夏×真風コンビが引き立ったのも実は実咲の好演あったればこそという気もする。透き通った美しい歌声もいかにもフェリシアの純粋な心をそのまま表しているようだった。彼女も「王家に捧ぐ歌」のアイーダという大役を終え、今回は軽く流しているという感じなのだが、その余力感がいい。
共演者ではまずフォンダリに扮した寿つかさの好演をあげたい。睡眠口座の相続人アントワンとして名乗りをあげたダニエルに借金返済を迫る謎の男という設定。いかにもうさんくさい男だが物語のキーマンのフォンダリを寿がいかにも楽しそうに演じて、観客をけむに巻いた。息子のチンピラ、バロットの愛月ひかるも、腕っぷしは強いがちょっぴりおつむの弱い感じを嫌みなく演じて、なかなかの好演。思わず初演で演じた真琴つばさを思い出した。バロットの妻ルシルは伶美うらら。こういう亭主の尻をたたく姉さん女房的な役でもその美貌が一段と映えて魅力的だ。スタンの恋人ティーナは彩花まり。初めての大役に体当たりで挑戦したが、ぶっ飛び方がまだちょっと硬い感じ、真風が手を焼きながらもどうしようもできないという可愛さの表現が弱かった。あと刑事役が澄輝さやと、弁護士役が星吹彩翔そして謎の浮浪者の凛城きらといったところが主要な役どころ。
一方「シトラスの風Ⅲ」は、1998年の宙組誕生時に上演されたロマンチック・レビュー12作目の作品のリニューアル版。昨年、凰稀かなめを中心とした宙組中日劇場公演で「―Ⅱ」として再演したものをベースに、フィナーレだけを朝夏のためにリニューアルしてある。グリーン、ブルー、イエローといった寒色系の衣装を着たシトラスの男女たちが板付で登場するオープニングからなんとも洗練されている。昨年、久々に見たときの感触が一気に甦った。続くMGMミュージカルの世界、トロピカルなラテンの世界、そしてオペラの世界とどの場面もいつか見た懐かしい世界、しかし、朝夏、真風、実咲といった出演者の若さとパワフルな歌とダンスで、古さを感じさせないどころか新鮮だ。逆に、このショーの極め付けというべき「明日へのエナジー」のゴスペルが、力強くダイナミックなのだが、最近のショーでしょっちゅう見ている場面とあまり変わりばえせず、かえって古臭くみえたのがおかしかった。フィナーレはまず真風と実咲のデュエットダンスから始まり、朝夏が登場して「マイガール」「愛さずにはいられない」を歌いながら客席おり、引き続き男役メンバーと
燕尾服のダンスにつなぐといったスタイル。いずれにしても岡田テイストにあふれたロマンチックレビューだった。最近の忙しいだけのショーを見慣れているとなんだかほっとする。大劇場でもぜひ再現してほしい。
©宝塚歌劇支局プラス10月11日記 薮下哲司
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