新人公演プログラムより抜粋転載
風色日向さわやかに初主演、宙組「イスパニアのサムライ」新人公演
宙組公演、宝塚ミュージカル・ロマン「El Japon(エル・ハポン)―イスパニアのサムライ」(大野拓史作、演出)新人公演(同)が、4日、宝塚大劇場で行われ、風色日向(かぜいろ・ひゅうが)と花宮沙羅の102期生(研4)コンビが初主演、大劇場にさわやかな風を吹き込んだ。
「El Japon-」は、江戸時代初め、仙台藩主伊達政宗の命によりスペインに向かった支倉常長をはじめとした慶長遣欧使節団にまぎれこんだ2人の男の数奇な運命を、現地で遭遇するさまざまな事件とともに描いたアドベンチャーロマン。スペイン南部にハポン姓の人々が多く住む町が実在、その人々が「サムライの末裔」を自認していることに発想を得たオリジナルミュージカルだ。
遣欧使節団外伝みたいなお話で、2人がいかにスペインに残ることを選択し、ハポン姓を名乗る人々の先祖になったかを描いているが、話を広げすぎて登場人物が多すぎ、どの人物も中途半端で整理しきれていないというのは新人公演を見てもさらに浮き彫りになった。
主人公の蒲田治道がスペインに残る理由もやや強引。ただオープニングの群舞や後半の立ち回りなどの迫力は本公演同様見ごたえ十分で、新人公演メンバーの健闘が際立った。とりわけ初主演となった研4の風色や花宮の初々しい好演は、作品自体をも底上げするほどだった。
蒲田治道(本役・真風涼帆)を演じた風色は、上背があり彩輝直を思わせる甘いマスクで立ち姿が美しく、男役としてはまだまだ発展途上ではあるものの、歌も演技も非常にいい資質を持っていて、今後、舞台経験を積んでいけば将来楽しみな存在になるだろう。オープニングの堂々たる登場、銀橋ソロの度胸たっぷりの歌唱と、早くもスターオーラが立ち込める。磨けば素晴らしい宝石になる原石をみたようだった。
相手役のカタリナ(星風まどか)の花宮も、始まって約30分たって、しかも、いきなり銀橋ソロからの登場。さすがに緊張気味だったが、非常になめらかないい声質の持ち主で、歌うたびに本領を発揮、3曲目のソロのころになるともう堂々たるもので、その美声に酔いしれた。小顔のスターが多くなった昨今、やや大きく見えるが、相手役の風色とはちょうどいい感じだった。かなり大人の女性の役で、その辺はやや幼さが勝ってしまったが、また一人楽しみな娘役の誕生だ。
芹香斗亜が演じた謎の男アレハンドロは研3のホープ男役、亜音有星(あのん・ゆうせい)が起用された。音楽学校文化祭の時からその美貌が注目されていた逸材で、直近のバウ公演でも目立つ役が与えられていて、大いに注目したのだが、今回はひげを蓄え、しかもテンガロンハットを目深にかぶるといったスタイルでは、本来の美貌が半減、やや残念だった。しかし、芹香ゆずりのアドリブやガンさばきのかっこよさで点数を稼いだ。歌唱力に加えて芝居心もあるようで次回に期待したい。
主要3役を若手が演じ、研6、7あたりの上級生は脇を固めた。桜木みなとが演じたエミリオを鷹翔千空。和希そらが演じた藤九郎が優希しおんといった具合。鷹翔が演じたエミリオは、本筋には直接関係がなく、善人なのか悪人なのかどっちつかずの難役なのだが、そんな雰囲気をうまくとらえた好演。優希は重要な役にかかわらず出番が少ない藤九郎をその場その場で的確に演じた。
ほかに印象的だったのは瑠風輝が演じた西九郎を演じた若翔りつの口跡のいいセリフ、道化二コラ(綾瀬あきな)を演じた天彩峰里の心地よい歌声、そして日本人奴隷の娘はる(天彩)を演じた栞菜(かんな)ひまりの天真爛漫な明るさ、だった。王妃マルガレーテ(美風舞良)は新人公演に加えてバウヒロインも経験のある研3の夢白あやが扮したがその美貌に加えて貫禄まで出てきたのには驚かされた。あとワンポイントだが藤九郎の姉で治道の思い人というカギになる役どころの藤乃(遥羽らら)に扮した研1の娘役、山吹ひばりの立ち姿の美しさが目に染みた。
日本物と洋物の和洋折衷のような芝居で、この時代に自動翻訳機があったのかと思わず突っ込みたくなる荒唐無稽な舞台を、フレッシュな宙組メンバーが真剣に取り組み、作品のレベルまであげてしまった新人公演だった。
©宝塚歌劇支局プラス12月4日記 薮下哲司
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風色日向さわやかに初主演、宙組「イスパニアのサムライ」新人公演
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