©️宝塚歌劇団
瀬央ゆりあ主演の現代版おとぎ歌劇、星組公演「龍の宮物語」開幕
星組期待の男役スター、瀬央ゆりあ主演による音楽奇譚「龍の宮物語」(指田珠子作、演出)が28日、宝塚バウホールで開幕した。指田氏のデビュー作で、泉鏡花の作品でも知られる「夜叉ケ池」伝説とおとぎ話「浦島太郎」を現代風にミックス、長らく忘れられていた宝塚歌劇伝統のおとぎ歌劇が今、甦ったというべき懐かしくも新鮮な幻想的なファンタジーだった。
オープニングはこれから始まるストーリーの全体像を一気に見せてしまう群舞から。場面変わって明治中期のある夏の夜、実業家、島村家の山荘。伊予部清彦(瀬央)ら島村家の書生仲間たちが百物語に興じている。話のひとつに、池の底から龍神に捧げられた娘のすすりなく声が聞こえるという「夜叉ケ池」伝説があったが、清彦は信じようとせず、ことのはずみで池のそばで一晩過ごすことを約束させられてしまう。翌日、清彦が池に向かっていると、山賊に襲われて助けを求めている娘(有沙瞳)に遭遇。清彦は有り金全部を差し出して娘を救うと、娘はそのお礼にと池の奥底にある龍神の城、龍の宮に誘う…。
宝塚歌劇の第一作「ドンブラコ」が「桃太郎伝説」の舞台化で、その後も数多くのおとぎ話が上演され、おとぎ歌劇という宝塚少女歌劇草創期の重要なジャンルのひとつになっていたが、思わずそれをほうふつさせる舞台。最近では真矢みきのトップ時代に「花咲か爺さん」をモチーフにしたような「花は花なり」(植田紳爾脚本、演出)という作品が大劇場で上演(1996年)されたことがあったが、今回の作品は、泉鏡花の世界を借りて現代的な解釈を施したうえ、レビューとしての華やかさも加味、まさに温故知新を具現化したよう。
書生の清彦を演じた瀬央は、バウ主演2作目。1作目からあまり間をおかないうちでの主演で劇団の期待の大きさがうかがえるが、明治の日本文学に登場する書生をそのままそっくり体現したような実直そうな懐かしい雰囲気をたたえて好演。どこか陰のあるように感じるのは独特の目力のせいかも、それがミステリアスな題材によく似合った。
清彦が助けた娘は、池の底の龍の宮で龍神が寵愛する玉姫。その玉姫を演じたのが有沙。もともと人間だったが、生贄にされたことで自分を差し出した家族を恨み、子孫への復讐の機会をひそかに狙っていた。清彦がその末裔だったのだ。芝居心のある実力派の有沙がそんな玉姫を妖艶に演じ、清彦ならずともその魅力にまいってしまいそう。
一方、島村家の娘で、清彦がほのかに慕っていた百合子とその娘、雪子の二役を演じたのが水乃ゆり。典型的な深窓の令嬢を、清楚かつ華やかに演じ、有沙とは全く別の意味で好演、強烈な印象を残した。どこかで見たようなと思ったらますます元星組の夢咲ねねに似てきたようだ。「ロックオペラモーツァルト」で星組の娘役陣の人材豊富さに驚いたばかりだが、さらにくわえてこの二人がいるのだからもう何をかいわんや。新人公演で二度ヒロインを演じ、「ロックオペラ―」でウェーバー姉妹の末っ子を演じていた星蘭ひとみが、このほど専科に移動することが発表されたがそれも納得せざるをえない。
ほかに龍神役の天寿光希、清彦の親友、山彦役の天華えま、龍神の弟、火遠理(ホオリ)の天飛華音あたりが印象的な役どころ。天寿はもうすっかり貫禄、物語の鍵を握る山彦役を演じた天華の独白シーンがこの舞台のへそだが、天華の自然な演技で巧みにその世界へと誘った。あと龍の宮で玉姫の付き人的な笹丸に扮した澄華あまねの切ない表情も印象的だった。
フィナーレは、本編とは関係なくスタイリッシュに展開、パレードでは再び役の衣装で再登場するのだから早変わりが大変だろうが、見る者にとっては眼福の瞬間だった。これがデビューとなった指田氏の演出はオーソドックスでありながらどこか斬新、清彦が龍の宮に行くまでの展開にややまどろっこしい部分もあるが、清彦が龍の宮から帰ってきた30年後の展開はなかなか面白く引き込まれた。桜蓼(さくらたで)の使い方も意味深で感興深い。
©宝塚歌劇支局プラス11月30日記 薮下哲司
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瀬央ゆりあ主演の現代版おとぎ歌劇、星組公演「龍の宮物語」開幕
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