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英かおと、7年目の初主演 月組「I AM FROM AUSTRIA」新人公演

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©️宝塚歌劇団 新人公演プログラムより

英かおと、7年目の初主演 月組「I AM FROM AUSTRIA」新人公演

月組によるミュージカル「I AM FROM AUSTRIA」-故郷は甘き調べ―(斎藤吉正潤色、演出)新人公演(町田菜花担当)が10月22日、宝塚大劇場で行われた。早くから立ち姿の美しさで注目を浴びていた英かおとが、研7にして初めて新人公演主役を射止め、はつらつとしたところを見せれば、相手役の白河りりも研3とは思えない堂々たるヒロインぶりで好演、脇のサポート陣も素晴らしく、予想をはるかに上回るフレッシュで充実した新人公演となった。

「I AM FROM AUSTRIA」-は、ウィーン発の新作ミュージカルだが、内容的には長い間、故郷を離れていたヒロインが久々に帰郷、故郷を離れずに老舗ホテルの再生に懸命になっている青年を通して、改めて故郷の良さに気づくという、どこか懐かしい雰囲気のする作品。宝塚版は青年ジョージが主人公となっているが、オリジナルはヒロインが主演の舞台。オーストリア人であることを隠してハリウッドでスターになっていることを理解したうえで見るとタイトルの意味が分かると思う。

ヒロインと母親のくだりは宝塚オリジナル。長年、音信不通だったはずなのに、簡単に電話できたり、母親はニューススタンドで働いているのに、まだ立派な山小屋を持っていたり、ヒロインのマネージャーとパパラッチがゴシップネタを巨額で取引したりするのだが、この程度のネタで誰がそんな金額を支払うのかなど、ハッピーエンドにするための設定の強引さがみえ隠れするものの、テンポのいい展開で問答無用、力でねじ伏せてしまう。ただジョージが支援するホームレスは実はオーストリアが抱える難民問題にからんでいるはずで、ホームレスとするとオーストリアに失礼かも。難民の方がずっと現代的で社会問題が浮き上がる。

一本立て大作の新人公演は、時間的制約のため10分程度カットされるが、今回も一幕中盤と二幕の冒頭などがカットされた。とはいえ、主人公二人以外の登場人物が多彩で全員がユニークなのがこの作品の特徴。月組メンバーのなりきりぶりが半端ではないので舞台自体が成立しているといっても過言ではないが、新人公演メンバーも本公演に負けない作りこみではっちゃけた舞台になった。

主演のジョージ(本役・珠城りょう)に扮したのは7年目の初主演となった英。緊張でガチガチになるかと思えば正反対。登場シーンからリラックスして余裕たっぷり。持ち前の甘いマスクに軽やかな身のこなしが映え、セリフ回しが自然でとにかくチャーミング。「アンナ・カレーニナ」や「THE LAST PARTY」など軍服の似合う青年役で印象的だったが、今回のやんちゃな現代青年もことのほかかっこよかった。なにより黙っていても金持ちのボンボンという品がにじみ出たのがいい。ダンスの人のイメージで歌はこれまでほとんど聞いたことがなかったのだが(前回の新人公演では聞いているはずなのだが)ここまでクリアできれば全然大丈夫。新人公演卒業後のこれからの活躍をおおいに期待したい。

オリジナルでは主演のエマ(美園さくら)に扮した白河りりもカリスマ的な女優という設定が決して浮いてみえない華やかな立ち居振る舞いでゴージャス感を演出。歌唱力も確かで、ダブルキャストでいつ本公演に出てもおかしくないほどの完璧な出来栄え。前回の「夢現無双」新人公演でもすでに大役がついていたもののヒロインは初めてで、新たな娘役スターの誕生といっていいだろう。ブロンドのかつらがことのほかよく似合った。

エマのマネージャー、リチャード(月城かなと)は礼華はる。礼華も、英同様、すっきりとした二枚目タイプで、立っているだけでも十分存在をアピールできる強みがある稀有なスター。今回は少々オーバーな作りこみでファンを驚かせるとともに隠れた実力をみせつけた。来年あたり新人公演のセンターで見たいものだ。

暁千星が演じたアルゼンチンのサッカー選手、パブロはこのミュージカルが2017年制作の新作であることを思い出させてくれる登場人物。マッチョだがゲイであるという設定で、後半にそれがストーリーに大きくかかわってくる。新人公演ではこの役を蘭尚樹が演じたが、男役としてはやや小柄で、マッチョのイメージがなく、なぜこの役に配役されたのか理解できなかった。蘭自身は黒塗りして精悍さを出すなど工夫、体当たりで演じていて好感が持てた。

ジョージの両親は父親ヴォルフガング(鳳月杏)が大楠てら。母親ロミー(海乃美月)が、先ごろ男役から娘役に転向したばかりの蘭世恵翔というキャスティング。大楠の落ち着いた渋い雰囲気がなかなかよかったが、蘭世もやり手の女社長を華やかに若々しく伸びやかに演じ、ダンスの切れ味もよくてこれまで蓄えた実力を最大限に発揮した。

前回「夢現無双」新人公演で主演、本公演ではフロント係のフェリックスを演じている風間柚乃が、今回は光月るうが演じているホテルコンシェルジュのエルフィーという女役に初挑戦。これがまた一挙手一投足に笑いが起こるほどの抜群のセリフの間で舞台をさらった。大楠とセリフがかぶった場面でも、さらっとアドリブでかわし笑いを誘うなどまさに天才的。出演場面になると目を離せなかった。本公演で風間が演じたフェリックスは彩音星凪が演じたが、カット場面が多かったこともあって印象は薄かった。

エマの母親役(夏月都)は天紫珠李が演じたが、地味な役どころなのに、しっかりと存在を主張できたのはやはり男役を経験しているからだろうか。月組には紫城るいや愛希れいかが男役から娘役に転向、大成功した例があるのでこの二人にも期待したい。ほかにゴシップ記者ライナー(輝月ゆうま)に扮した一星(いっせい)慧のすっきりとした立ち姿の美しさが目に飛び込んだ。上背も十分でこれからの活躍に期待したい。

©宝塚歌劇支局プラス10月23日記 薮下哲司


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