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Channel: 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス
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真風涼帆主演、宙組公演「追憶のバルセロナ」他全国ツアー開幕

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©︎宝塚歌劇団


宙組トップスター、真風涼帆を中心とした全国ツアー公演、ミュージカル・ロマン「追憶のバルセロナ」(正塚晴彦作、演出)とショー・アトラクト「Nice Guy‼」―その男Sによる法則―(藤井大介作、演出)が8月31日、大阪・梅田芸術劇場メインホールから開幕した。芝居、ショーとも再演だが、17年ぶりとなった「追憶のバルセロナ」のクオリティーが非常に高く、見ごたえ十分の舞台となった。

「追憶―」は、19世紀初頭。フランスがスペインを侵略、あくまで抵抗の姿勢を貫くか、フランスとの融和で生きる道を見出すか、スペイン国内が真っ二つに分かれる。現代にも通じる複雑な国情を背景に、戦争で記憶を失ったスペインの若き将校フランシスコの国への熱い思いを縦軸にロマの女性との恋を横軸として描いたスケール感豊かな一大メロドラマ。2002年、雪組の絵麻緒ゆう、紺野まひるのトップ披露&サヨナラ公演のために正塚氏が書き下ろした作品で、専科の成瀬こうきの退団公演でもあり、次期トップだった朝海ひかるの唯一の二番手作品でもあった。正塚氏には珍しいスパニッシュで、波乱万丈のストーリーがテンポよく展開、特にスパニッシュからカーニバル、舞踏会そして戦争とダンスとアクションで一気にたたみかけるオープニングは見事なもので、数ある正塚氏の作品群のなかでも傑出した作品の一つ。

三人三様男役の魅力を巧みに引き出していて、今回は、絵麻緒が演じたフランシスコを真風涼帆、成瀬が扮したフランシスコの親友アントニオを芹香斗亜、朝海が演じたロベルトを桜木みなと。加えて音月桂が演じたフランシスコの実家の使用人フェイホーを和希そら。娘役では白羽ゆりが演じたフランシスコの婚約者でのちにアントニオと結婚するセシリアに華妃まいあ、紺野が演じたロマの女性でフランシスコを献身的に愛するイサベルに星風まどかというキャスティング。なかなか興味深い配役であり、まるで今の宙組のために書き下ろした作品のようにぴったりはまった。

とはいえ、アントニオを芹香が演じるということで役の陰影を膨らませたことが、フランシスコ、アントニオ、ロベルトの三人三様のそれぞれの個性をくっきりと浮かび上がらせることに成功、群像劇としてストーリーに深みが出て、さらに見ごたえのある作品となった。

真風は、恋人を置いて出征するものの、戦場で記憶を失い、ロマに助けられて山賊の仲間になるフランシスコを、貴族らしい品格と、ロマの青年としての野性的な部分と好対照の魅力を出せる役に巡り合って好演。星風イサベラとの正塚流の自然体の会話も二人の息が合って、思わず笑みがこぼれた。
フランシスコの親友で、一緒に戦場に出征するが、フランス軍の捕虜となり、フランス軍に協力することで生き延びたアントニオを演じたのが芹香。貴族ながら革命で共和制を確立したフランスに新しい時代の到来を感じているという設定が、「スカーレット・ピンパーネル」とともにフランス革命がヨーロッパに与えた影響の大きさがうかがえるようで興味深いものがあった。この作品も宝塚的に言えば「ベルサイユのばら」外伝のひとつなのだろう。そんなアントニオを芹香が誠実に演じて、初演の時には思いもよらなかった男性像を新たに作り上げた。

ロマのリーダーでイサベルの兄貴的存在のロベルトに扮した桜木は、オープニングからスパニッシュを踊るなど一番おいしい役を、甘いマスクに精悍さものぞかせて熱演。ポスト明日海りおの一番手的存在を存分にアピールした感じだった。

フェイホーの和希そらも天性なのだろうか抜群の勘のよさが芝居の面白さを倍増させた。あとフランシスコの父親レオポルドを演じた美月悠の渋い演技、寿つかさ演じるイアーゴーの達者さが芝居に厚みをもたらしていた。ロマの歌手で留依蒔世、天彩峰里が豊かな歌唱を聞かせたのも収穫。

娘役はやはりイサベルの星風の清純派から勝気なロマの女性といった新境地開拓が頼もしく、黒塗りのメークがなんとも魅力的だった。フランシスコの婚約者でのちにアントニオと結婚するセシリアを演じた華妃も、ダブルヒロイン的な大役を丁寧に演じ、後半の再会シーンでも何より品格を漂わせたのが立派だった。

この作品、今年の宝塚音楽学校文化祭で上演され、フランシスコを星組の稀惺かずとが演じたことで記憶に新しいが、全国ツアーとはいえこうして再演されたことは大いに意義があったと思う。

「Nice Guy‼-」は、大空祐飛時代の宙組で初演されたショーの再演。プリンセス星風が夢のプリンス真風を呼び出す幻想的なプロローグから、音楽がラテンに変化するとプリンスもマントを脱ぎ棄て究極のNice Guyに変身、豪華絢爛のプロローグへ。大劇場公演とは人数が半分なのだがなかなかゴージャスな展開。最後まであかせないスピーディーな展開は藤井レビューの真骨頂だった。公演は9月23日の千葉県市川まで。

©宝塚歌劇支局プラス9月2日記 薮下哲司


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