©宝塚歌劇団
望海&真彩、圧倒的歌唱力で魅了、雪組公演、ミュージカル「ファントム」開幕
望海風斗、真彩希帆のコンビによる雪組公演、ミュージカル「ファントム」(中村一徳潤色、演出)が、9日、宝塚大劇場で開幕した。2004年の宙組初演から数えて4演目、7年ぶりとなる今回は、装置を一新、映像を駆使した豪華な舞台面でリニューアルされた。そんなNew「ファントム」初日の模様をお伝えしよう。
開演5分前、緞帳があがると、セーヌ川の水辺に映った19世紀のパリの風景をバックにクラシックな字体で「PHANTOM」の文字が浮かび上がる。なんだかこれまでの「ファントム」ではない予感が…。開演アナウンスがあり場内が暗転すると「PHANTOM」の文字が消え、序曲とともに水面に輝いていた月がファントムの仮面に変わり、映像はオペラ座の地下に潜りファントムの住処にたどりつくと、舞台中央奥から、望海風斗扮するファントムが登場「僕の叫びを…」と歌いだす。その素晴らしい第一声で観客は「ファントム」の世界に一気に吸い込まれた。
これまで何度も見た「ファントム」だが、今回の「ファントム」はこの導入部分だけでもう勝負あった。これまでの「ファントム」とは全く違う世界が現出した。オペラ座の雰囲気を見事に再現した新しい装置デザイン(稲生英介担当)とチョン・ジェジンによる斬新な映像の効果が大きいが、それ以上にファントム役の望海とクリスティーヌ役の真彩希帆の歌の力が、もう何物にも代えがたいほどの至福の時間を約束してくれる。モーリー・イエストンの名曲ぞろいのこのミュージカルが最高の演出と出演者で新たに甦った。
望海扮するファントムと母親をイメージしたマリアの影(朝月希和)との冒頭の幻想的なダンスシーンのあと、オペラ座通りでクリスティーヌ(真彩)が、歌いながら楽譜を売っている場面へと展開していくのだが、ここの真彩の「パリのメロディー」の歌声がまた、とおりすがりのシャンドン伯爵(彩凪翔)が、聞きほれるのも納得の心地よさ。
作品が要求するにふさわしいコンビが演じることで、やっと作品の本来の素晴らしさをり戻したといっていいだろう。初演の和央ようか、花總まりのコンビも愛の深さの表現という意味では、右に出るものがないほど素晴らしかったのだが、「ファントム」という作品世界全体を考えると、今回の望海、真彩をしのぐことはできないのではないだろうか。
望海のファントム(エリック)は、当初、仮面の中に隠されている悲劇的な雰囲気はあまり意識せず、パワフルに行動するイメージの役作りだったが、それが徐々に崩れていくところにかえって悲劇性が増してラストの感動を盛り上げることに成功した。歌のうまさとともに繊細な演技でエリックの悲哀を体現していた。
真彩のクリスティーヌも文句なしのヒロイン。冒頭の「パリのメロディー」はじめビストロでの歌、地下室でエリックを相手に唄う一番の聞かせどころ「My True Love」とどの曲もその澄んだ滑らかな歌声はシャンドン伯爵でなくとも聞きほれる。望海もそうだが、無理に声を出しているようには全く聞こえず、楽々と歌う余裕ある歌声は、いつまでも聞いていたいほど。歌詞もよく聞き取れ、とりわけ「My True Love」の丁寧で心のこもった歌唱は心が震えた。
未見の人にちょっと「ファントム」についての基礎知識を紹介すると、この作品は劇団四季の「オペラ座の怪人」と同じガストン・ルルーの原作をもとにしているが、アンドリュー・ロイド・ウェーバー作曲の四季版が、怪人とクリスティーヌ、ラウル伯爵の三角関係を中心に描いているのに対し、モーリー・イェストンの宝塚版は、怪人の出生の秘密と親子の対面にもスポットを当てていて、やりようによっては安っぽいお涙頂戴のメロドラマになるところだが、ウェーバー版とはまた違った抒情味あふれる音楽性の高さがそれをカバーしている。今回は、その音楽性が望海、真彩の2人によって完全に再現されたのだ。
2人の歌のあまりのうまさに、周囲がかすむかと思ったのだが、逆に大奮闘、主役の力が全体の歌唱力アップに相乗効果となり、ずいぶんレベルの高い公演となった。なかでもキャリエール役の彩風が、端正な顔立ちにひげを蓄えて貫録も出て、歌唱に味が出てきたのにはずいぶん驚かされた。すっかり大人の雰囲気を身に着けたようだ。
シャンドン伯爵と新支配人アラン・ショレは役変わりで、初日は伯爵が彩凪翔、ショレが朝美絢だった。彩凪は貴族らしい遊び人のムードをよく出し、朝美はこれまでみたことのない老け役に挑戦、二枚目の朝美には酷な役だと思ったが、コミカルな味のある演技で好演した。
ショレの妻でカルロッタを演じたのは舞咲りん。出雲綾や桜一花が演じたプリマ役を実力派らしい振り幅の大きい演技で熱演、持ち前の美声もあますところなく披露した。
役が少なくあとは朝月希和のエリックの母親ベラドーヴァとか団員セルジョの永久輝せあとかだが、いずれも少ない出番にもかかわらずインパクトは十分だった。研1生8人が配属され、とにかくどの場面もアンサンブルの人数が多く、それだけ贅沢な公演で、コーラスや群舞が充実、モーリー・イエストン作曲による名曲ぞろいのこの作品の音楽の力がフルに生かされた公演といってもいいだろう。
フィナーレも一新。すべて劇中の音楽のリフレインで統一。これがまた、作品の余韻を残すに十分の名曲のメドレーだった。彩凪のソロから始まり、望海と真彩のデュエットは「HOME」をテンポアップしたもので、クラシカルな真っ赤な衣装の2人がラストは抱き合って終わり、劇中で実らなかった愛を実らせる大団円。心地よい余韻でパレードとなった。
終演後の恒例の初日挨拶は「私にとっては3度目のファントムですが、これまでとは全く違う景色が広がり、何度聞いても素敵な音楽で、一曲ごとのお客様の反応に初日が開いたと実感しています。役変わりもありますし雪組メンバーとともに千秋楽までもっともっと進化させていきたい」と望海がさらなる精進を誓い、満員の観客は総立ちで大きな拍手を送っていた。
©宝塚歌劇支局プラス11月9日記 薮下哲司
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